ママ・ロボット

春Q

 あたしがまだ施設に来たばかりの頃、ママロボットに聞いたことがある。


「ねえ、あたしのこと好き?」


 ママロボットは、胸の下で組んでいる機械仕掛けの手をカチャカチャと鳴らして――申し訳なさそうな人工音声を発した。


『すみません、ミユキ。わたしはロボットなので、だれかに特別な感情を持つことがありません』


 あたしは、別にがっかりもしなかった。薄々そうなんじゃないかと思ってたんだ。


 ママロボットは見るからにロボットだし、施設にいる子供たちをみんな、いい子も悪い子も、素敵な子も素敵じゃない子も、それから新入りのあたしのことも、平等にお世話する。


 あたしは、そんなママロボットを信頼していた。


 本当のママとは真逆だからだ。


 うちのママは、弟のことばっかり大事で、あたしのことはちっとも好きじゃなかったみたい。


 ちょっと目があっただけで、トサカを逆立てたニワトリみたいに怒って、たたいたりつねったりしてくる。


 ごはんは一日一回くれてたんだけど、それも三日おきとかになって、ちょっと思い出したくない嫌なことが他にもいろいろあって、結果、あたしは施設で暮らすことになった。


 あたしは、ずっとビクビクしていた。


 ママと弟と暮らしている時は、ママのことだけ警戒していればよかった。


 でも、施設にはあたしと似たような境遇の子たちがたくさんいて、中にはうんと意地悪な子や、力の強い子もいる。


 ちょっと気を緩めたら、なにかひどい目に合うんじゃないかと思ったのだ。


 だけど、ママロボットのことは警戒せずに済んだ。


 だって人間じゃないから。


 はじめて会った時は、大きなボウリングのピンが浮いているのかと思った。


 ボディは真っ白で、頭・肩・胸・腰の凹凸で、かろうじて女のひとなんだなってわかる。


 ディスプレイでもある顔は、のっぺりした白塗り。


 足は、ない。物知りなジュンが言うには、ママロボットは風と磁石の力で、ちょっとだけ浮いているらしい。


「ママはすばやいんだ。摩擦抵抗がないから、音も立てず、スムーズに動く」


 そう説明するジュンは、自分のことでもないのに妙に自慢げだった。

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