新聞同好会

 次の日、レオンは生徒会が主催するイベントに参加しました。しかし、まず彼が気づいたのは、屋上への鍵が新しくなっており、もう自由に出入りできなくなっていたことでした。レオンはこれが先生による対策かもしれないと考えましたが、確証はありませんでした。


 イベント自体は、学校の部活動や同好会についての説明会でした。生徒会は学校の部活動のバリエーションが少ないと感じており、多様な部活動を盛り上げるためにこのようなイベントを企画していました。同好会が一定のメンバーと担任を得られれば、正式な部活になる可能性もあると説明されました。


 屋上への自由なアクセスがなくなり、新しい居場所を求めていたレオンにとって、同好会のアイデアは魅力的に映りました。同好会を組織すれば、学校から活動のための部屋を割り当てられるという点が特に興味を引きました。


 レオンは同好会の申請書を前にして、何をテーマにするか考え込みました。彼にとっては、あまり労力を要しない活動が理想的ですが、同時に先生に対して一定の活動を示す必要があります。


 そこでレオンは「新聞同好会」を立ち上げることを思いつきました。この同好会では、学校のさまざまな出来事や噂、謎について調査し、記事にすることができます。これはレオンが自分の興味を追求するとともに、学校の他の生徒たちとの接点を持つ絶好の機会になります。


 レオンは新聞同好会の設立に向けて一歩を踏み出すことに決めましたが、同好会を設立するには最低でも二人以上のメンバーが必要でした。このルールに直面し、レオンは一瞬困惑しましたが、すぐに解決策を思いつきました。


 彼は水鳥川紫苑に目を向けました。彼女は生徒会会長としての立場を持ちながらも、レオンと屋上での一件以来、彼女には何か共感を感じていました。彼は紫苑に、名前だけを貸して幽霊部員になってもらうようお願いすることにしました。これならば、紫苑は実際に活動に参加する必要はなく、レオンは新聞同好会を設立することができます。


 放課後、レオンは決意を固め、水鳥川紫苑に直接話しかけることにしました。紫苑はレオンが近づいてくると少し驚いた表情を見せましたが、彼が話し始めるとじっと聞いていました。


 レオンはまず、屋上に入れなくなったこと、新しくなった鍵について説明しました。そして、学校にまつわる謎や噂の話に移り、これらの謎を追究するために「新聞同好会」を立ち上げたいという彼の計画を紫苑に伝えました。


 紫苑はレオンの話を聞いた後、一瞬考え込みました。屋上へのアクセスができなくなったこと、そして学校の謎についての話に興味を持っている様子でした。彼女はレオンの提案に対して、「それは確かに興味深いわね。謎を探求する同好会ね…」とつぶやきました。


 紫苑は少し考えた後、レオンの方を向いて深く息を吸い込みました。彼女の表情には決意が見え始めていました。


「分かったわ、レオン。私、君の新聞同好会に名前を貸すことにするわ。ただし、私が直接活動に参加することはないでしょうけれどもね。」


 紫苑の声には慎重さが滲んでいましたが、同時に何か新しいことへの興味も感じられました。


 レオンは心の中で安堵しました。水鳥川紫苑の協力を得られたことで、彼の新聞同好会設立の計画は大きく前進しました。彼女の名前を借りることで、同好会の申請を進めることができるようになりました。


「ありがとう、水鳥川さん。本当に助かるよ。」


 レオンは感謝の言葉を述べ、これからの活動について少し話しました。彼は学校の謎を追究し、記事にすることに興奮していました。


 これでレオンは新しいスタートを切ることができ、学校での彼の日々に新たな意味が加わりました。同好会を通じて新しい友達を作り、また、学校の謎にもっと深く迫ることができるかもしれません。レオンの新しい冒険が始まるのです。


 新しい部屋が割り当てられたことにより、レオンは新聞同好会の活動を始めることができました。彼が期待していたのは普通の教室のような場所でしたが、実際に割り当てられたのはかなり狭くてボロボロの物置のような部屋でした。


 初めて部屋に足を踏み入れたレオンは、その状態に少し驚きましたが、すぐに現実を受け入れました。「まあ、1人で活動するんだし、いいか」と彼は思い、部屋の掃除を始めました。


 掃除を終えると、レオンは部屋に置かれていた小さな机の前の椅子に座りました。遠くからは学校の生活の声が聞こえてきますが、この部屋は静かで、他から隔離された感じがしました。レオンにとっては、これがまさに必要としていた居場所でした。周囲の騒音から離れ、彼は自分の考えに没頭できる環境を手に入れたのです。


 ある日、レオンが同好会の部屋で調査に没頭していると、意外なことに、幽霊部員であり、実際の活動への参加を断っていた水鳥川紫苑が部屋に訪れました。レオンは彼女の訪問に驚きましたが、同時に好奇心も感じました。


 紫苑は部屋に入ると、周囲を見渡し、「ここがあなたの同好会の部屋なのね」と言いながら、興味深そうに環境を観察しました。彼女の様子は普段の高圧的な姿とは異なり、どこかリラックスしているように見えました。


 レオンは紫苑に向かって、「水鳥川さん、ここに来るとは思わなかったよ。何か用かな?」と尋ねました。紫苑の突然の訪問には何か理由があるかもしれません。


 紫苑はレオンの問いに答えながら、彼女自身が居場所を求めていたことを静かに明かしました。「正直に言うと、私も居場所を探していたの。でも、どうすればいいのかわからなかったわ。」紫苑の声には、普段の自信に満ちた様子とは異なる、迷いや躊躇が感じられました。


 レオンはこれを聞いて、紫苑が持つもう一つの側面を理解し始めました。彼女もまた、学校での立場や周囲の期待とは異なる、自分だけの場所を求めていたのです。


「ここは静かで、誰にも邪魔されない。君がもし良ければ、ここで一緒に何かするのもいいと思うよ」とレオンは提案しました。彼は紫苑に対して、新聞同好会の活動に参加することを勧めましたが、それ以外にも、単に静かな時間を共有する場所としても使えることを示唆しました。


 紫苑は確かに「幽霊部員だから」と主張していましたが、彼女はしばしば新聞同好会の部屋を訪れるようになりました。その行動は、照れ隠しのようなもので、彼女自身がこの新しい場所とレオンの会社に心地よさを感じていることを示していました。


 レオンは紫苑がますます頻繁に部屋を訪れることに気づき、彼女にさらに歓迎の気持ちを示すために一歩を踏み出しました。「昼休みに、お弁当をここで食べて良いよ」と彼は紫苑に声をかけました。これは単に食事の提案を超えて、彼女をこの場所の一員として受け入れ、共有する意思の表れでした。


 紫苑は最初は驚いたように見えましたが、レオンの提案に対して徐々に温かい反応を示し始めました。彼女の頻繁な訪問と、レオンの歓迎の姿勢は、二人の間に新しい友情の芽生えを示していました。


 昼休み、レオンと紫苑は新聞同好会の部屋でお弁当を囲みながら、ゆっくりと会話を楽しんでいました。窓から差し込む柔らかな日差しの中、二人は何気ない雑談から徐々に深い話題に移っていきました。


「ねえ、レオン。君はここにいるとき、どんなことを考えるの?」紫苑が穏やかに尋ねました。彼女の声には、真剣な興味が込められていました。


 レオンは少し考え込んだ後、静かに答えました。「うん、色々だけど…ここでは自分自身と向き合えるんだ。普段は見過ごしてしまうような、自分の心の内側の声に耳を傾けることができるんだ。」


 紫苑はレオンの言葉に深くうなずき、彼女自身の心の中も少しずつ開いていきました。「私もそう。普段は皆に期待される役割を演じているけれど、ここではただの私でいられるの。それがどれほど心地いいことか…」


 二人の会話は、学校にまつわる謎へと自然と繋がっていきました。レオンは最近の調査について紫苑に話し始めました。「実は、学校の屋上の謎について色々調べているんだ。噂によると、そこには何か秘密が隠されているらしい。」


 紫苑の目が輝きました。「それは興味深いわ。もしかしたら、私たちの同好会でその謎を解き明かすことができるかもしれないわね。」


 彼らの会話は、互いの心の内側を探り、同時に学校の謎を追求することへの興奮と好奇心に満ちていました。この小さな部屋は、二人にとって大きな意味を持つ場所となっていました。

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