第8話 お料理♪お料理♪

「ねぇねよ! よく聞け! 今日は僕が特別に今日だけ珍しく気が向いたから今日ほんとに特別にお昼ご飯を作ってやろう!」

(おいおい、文がぐちゃぐちゃだぁ……てか今日って何回言うんだよぉ)

「そ、そう? まぁあんたの手料理なんて食べたことないし食べたいかもー」

「何作るの?」

「聞いて驚くなよ……」


緊張と共に唾を飲む、綾花はいったい何を作るのか……?


「オムライス!」

「いや普通に難しいぞ!?」

「いや! 大丈夫! イメトレはした!」

「おいおい、大丈夫か?」


とてつもなく不安になる風花だった。


ご・ふ・ん・ご


「ぎゃあああああああああ!」


キッチンから叫び声が突き抜けてくる。

指を切った? 何があったんだ?

不安に駆られた風花はキッチンまで走る。


「どうしたの!?」

「玉ねぎが目にしみる……」

「それだけか!」

「痛いもん……」


しょうもなくて呆れると共に、何も無くて安心する風花だった。


「分かった、分かった、玉ねぎだけは私が切るよ」

「うん……お願い……」


目に涙を浮かべながら上目遣い。

やっぱり可愛い。


「はい、切り終わったよー」

「ありがと! ねぇね!」


そのうっすらと涙を残した目でにっこりと綺麗な笑顔をくりだす。

風花の心にクリーンヒット! ダメージは絶大だ!


(やっぱりこの子天使だー!)

「じゃ、じゃあ頑張ってね」

「うん!」


無邪気に笑う綾花。

やっぱり可愛い。


キッチンから色々な音が聞こえる。

金属と金属が擦れる音。

コンロに火をつける音。

何かが床に落ちる音……

卵が粉砕される音……

何かを強打する音……


いや! 大丈夫か!?


そんなこんなでついにオムライスが出来た。


「わぁ……」


そこにでてきたのとても綺麗なドレスドオムライスだった。


「あんた意外と料理出来たんやねぇ、見直したわ」

「やろ! 食べてみてー!」

「うん、じゃあ」


「いただきます!」


2人の元気な声が部屋に響く。


風花は柔らかそうなオムライスにスプーンを通……そうとするが……


バキッ……


明らかにオムライスからは聞こえてはいけない音が聞こえた。

まるでプラスチックを割ったかのような音だ。


「ね、ねぇ……あんたなんか硬いもの入れたー?」

「ん? 入れてないよ?」

(嘘だろぉ? じゃあなんの音なんだよ!)


恐る恐るオムライスの中をのぞき込むと、そこには綺麗な赤色のチキンライスではなく漆黒の何かが待ち構えていた。

これは……ブラックホールなのか……?

そう錯覚するほど漆黒だ。

体が食べることを拒否する。

だが綾花の前だ。残すことは出来ない。


「い、いただきます……」


恐る恐る口に含もうとする。


(あ、あ、あ、味はお、美味しいかも……だし)


覚悟を決めて口に含んだ瞬間。

口の中にほのかな卵の甘みとケチャップの甘み。

それを引き立てるスパイスたち。

正体は掴めないが何かとてつもない深みを出している何か……これは隠し味か。

とてつもなくバランスの良いハーモニー。


「いや、うんま!」

「まじ? やったー!」

「ほんとにこれ美味しい!」


風花はあっという間に完食していた。


「そんな美味しかった?」

「うん、めっちゃ」

「じゃあまた作ってあげる」

「え、それはいいかな……」

「へ?」


綾花から気の抜けた声がこぼれた……

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る