第二章◇公爵令嬢リリーと聖剣と魔剣
第34話…貴族会議
「今日は会議の日だから、お城はバタバタしてるでしょう?」
「雰囲気は。俺たちは普段通りだな。バタついているのは大人達ばかりだ」
今はユウとリリーの同じ選択授業が始まる前で、並んで席に座っている。
表情は変えないがユウは内心大喜びだろうなぁと、タナー小公爵は後から眺めている。
今日も学園は普段通りの何気ない一日になりそうだ。
◇
皇帝は帝国内の貴族をまとめ上げるのだが、フィズガ帝国ほどの大きさになると隅から隅までということにはならない。
公爵家は、オウカ、タナー、コガヤの三家から成り、帝国が築かれた時から変わらない。この三家の支配力によって、帝国が基盤を強固なものに出来ていると言っても過言でない。
今日は領地を持つ12の貴族たちが集まって帝国の行事や領地の報告をする、半年に1度の貴族会議の日。
以前は数年に1度だったが、皇帝が即位した年にスパンを短くした。皇帝が汚職やら何やらを暴き倒し、揉めに揉めて多くの当主や家門が一新されたのは、この会議だ。
証拠集めや新制度を考えたのはオウカ公爵だが、全て皇帝に仕切らせて、自分は表舞台には出ないように図らった。
今では、己の身の潔白を示すための大切な場となっている。
進行役は2年毎の持回りで、今年はタナー公爵だ。
「皇帝陛下に、ご挨拶申し上げます」
タナー公爵の礼に合わせ、他の12の貴族たちも礼をする。
「ああ、始めてくれ」
◇
黒幕がコガヤ公爵であるという確信を得るために、オウカ公爵は少し小細工をしてみた。
「子供騙しだけどね。きっと噛みついてくるはずだよ。彼が黒幕なら、証拠の残る痛い条件だからね。そして僕たちは、そこから彼が何を欲しているかを探れる」
やってみる価値はありそうだということで、宝石の取引について、通常であれば特にスルーできて、"もしコガヤ公爵が一役かんでいたら嫌がるであろう"ある決め事の提案を出してみることにした。
オウカ公爵家の暗躍の者達を使って調べてみたが、公爵家のセキュリティはやはり強固で限界があった。
ただ、少しわかったことは、スモス子爵領で採掘された大き目の宝石をコガヤ公爵家が最近よく購入しているということだった。
そこに何かしらがあるのでは、とオウカ公爵は考えた。
品質が良い、以前から欲しかった、細工をして売る……色々な言い訳が通る事だが。
マリルの件とも何点か都合好く重なっているので、とりあえず疑ってみることにしたのだ。
"領地を越境する場合、宝石の取引は書面として残し皇城へ報告すること"
この会議でテンプレを渡し、報告は魔法具で簡単に済ませられる。なので、そこまで事務作業が多くならないので大丈夫だと、事前にスモス子爵にも確認を取っている。
というか、今まで領地内でも無かったのが驚きだと、オウカ公爵は呆れていた。
◇
「発言を致します。それは帝国としては行わないことになっている、産業への介入になるのではないでしょうか」
出た
オウカ公爵もウィステリア候爵のパクツも、呼吸を乱さずピクリとも動かず、視線も動かさない。いつも通り聞くのみに徹している。
動揺や高揚を見せてはいけない。
皇帝は先ほどまでの議題をしていた貴族たちへの対応と同じ様に、目線だけをやった。
オウカ公爵の思惑通りに発言を始めた、
コガヤ公爵に。
コガヤ公爵は、皇帝やオウカ公爵よりもかなり年上で、2人の父親世代に近いくらいだ。
当主として長らく在籍しているが、貴族としては珍しく親しい間柄の人間がおらず、全てにおいて謎に包まれている。
オウカ公爵が若くして切れ者で評判が良いのを、同列の公爵位の当主として微笑ましく見ている。いや、そんなことはなく実は妬ましく思っている……
と、両極端の噂が立つような人物で、実のところ本当はどうなのか、誰も知らない。
不気味なくらい、何も知られていない。
事前に相手を分析した上で対応策を練っていくオウカ公爵としては、出来れば最も敵にしたくない人物だった。
何を目的にしているのか、全く見当が付かないのが厄介で、オウカ公爵をイライラさせている。
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