第22話…15年前のお話⑦1つの綻び
何もかもが上手くいくと思っていた。
パクツ騎士のウィステリア候爵への養子入りとココアナ王女との正式な婚約が近付いてきたある日、オウカ公爵家に平民が訪ねて来た。
パクツ騎士の姉だという女が。
幸い、パクツ騎士は皇城の騎士会議に出席中で留守にしていたため、オウカ公爵だけで対応することができた。
お金の無心で来たようだが、今後パクツ騎士に付いてウィステリア領へ行かれては困る。
パクツ騎士とその婦人は魔力の核が似ており、それは家族であることを意味する。
姉だというのは嘘ではないようで、オウカ公爵はどうにかならないかと画策した。
一人で来るわけがない。必ず後に何者かがいるはずだが、それを調べるには時間が無い。
ここに来たということは、要は金欲しさということだろう。
先程から部屋中を舐め回すように見ていることから、きっとそうだと、オウカ公爵は確信しながらいくつか質問をした。
「生活に困っているから少し助けて欲しいと思ったの。出来れば私も一緒に住まわせて欲しいわって。この子も貴族になれば、こんな生活しなくて良いでしょう?」
貴族になれるのは本人だけで、家族や親戚はなれない話をしたが、全く聞き入れない。
しかし、やはり一定額の金貨を渡すことには食いついてきた。
婦人は、リリーと同じかもう少し小さいくらいの乳飲み子を布で自分に巻き付けて、とても大切そうにしている。
「それなら……誓約をしていただけるなら、その子をあなたが望む時からオウカ公爵令嬢として育てましょう。但し、あなたは公爵家には入れませんが。これから、毎月一定額の金貨を支払いましょう」
「じゃあ、誓約しても良いわ」
その婦人は、オウカ公爵の全ての条件をすんなり受け入れ、目を輝かせながら金貨を受取り公爵家が用意した馬車に嬉しそうに乗った。
”パクツ騎士の姉であるとは誰にも言わないこと。パクツ騎士とオウカ公爵家に今後一切関わらず、誓約やその内容も言及しないこと。今後はグローリ伯爵領に住み、マリルをオウカ公爵家に渡したい場合はグローリ伯爵へ連絡すること。”
グローリ伯爵はオウカ公爵の年上の従兄にあたり、絶大の信頼をおいている。困ったことがあったらお互いを頼ることにしている。
特にグローリ伯爵は監視の能力に長けていて、街中を監視することによって治安が非常に安定していることで有名だ。
婦人を乗せた馬車はグローリ領へ向かい、出発した。それより早くグローリ伯爵に連絡が着くように早馬を走らせた。
それらの状況を、オウカ公爵と執事長が二階の執務室の窓から見ている。
「本当にパクツ騎士のお姉様でしょうか?」
執事長が訝しげにしている。
「残念ながら、魔力の根本が似ていたからね。まぁ、誓約も受け入れてくれたし、行きたくても行けない、言いたくても言えないから大丈夫だろう」
「しかし、あのお子様を公爵家に受け入れるというのは……」
流石に執事長も心配そうにしている。
「うん。きっと本人の要求はお金だけだと思うんだけど。何故か貴族にさせたがっていたんだよね」
「何かしらがバックにいるんですね」
「誓約は赤子に効かないし、困った処へ養子に入られると厄介だし……こうすることしか思い浮かばなかった。とりあえず背後に付いてる奴らを探すけど、厳しいかもね。もう尻尾切りをしているかもしれない」
二人は溜息しかつけない。
折角パクツ騎士の門出を祝うだけの良い雰囲気だったのに。
「あの母親はお子様をこちらに預けるでしょうか」
「もしかしたら、いつかは。その時は裏で何かが動いた時だね。それは本当にやめて欲しいけど。……あ、早く妻に説明しないと!! 僕の不貞が疑われる前に」
面倒事は仕事が増えて家族と会える時間が減ってしまうから嫌だと、オウカ公爵は髪をワシャワシャしながら考えている。
もうほとんど見えなくなっている馬車を見ながら、呟いた。
「出来ればこんな所へ来ないで母親と平穏に暮らしておくれ……マリル嬢」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます