第2章 星猫と一緒に周辺調査
◆1◆ 俺が驚いたリリエルさんの意外な生業
モンスターと化したガラクタを倒した俺は、拠点になるテント集落の周辺調査をするためにリリエルさんが飼っている星猫を借りようとしていた。
倉本、いや亜季と一緒に調査をするから二匹は借りたいところだが、貸してくれるだろうか?
俺はちょっとした不安を抱きながら彼女がいるテントへ訪れ、声をかけて中に入ると星猫達が歓声を上げ出迎えてくれた。
「ビィー」「ニィー」「ウィー」「キィー」
「シィー」「ミィー」「フィー」「アィー」
えっと、ナビィに白と黒、赤に茶トラ、黒ブチやら三毛、見たことないピンクとかいろいろいるな。
というか星猫ってどれも星の模様が身体のどこかにあるんだ。みんな宙をふわふわと浮いているのはデフォなのか。
こうして見ると猫っぽいがなんか違うもんだ。そして普通にかわいい。
そんなことを考えているとリリエルさんが俺達に気づき、声をかけてくれた。
「あら、みなさんいらっしゃい。先ほどはありがとうございます」
「いえ、ナビィのおかげですよ。それにしてもたくさん星猫がいますね」
「ええ、ここに来た時から一緒にいる家族ですよ。彼らがいないといろいろ困ります」
「いいですね、家族。見た感じみんないい子っぽいですね」
「結構イタズラが好きだったり、臆病だったり強がったりしますよ。でもみんな仲良しですね」
仲良しなんだ。
俺が星猫に関心を持っていると亜季がリリエルさんの言葉を聞いて言葉を口にした。
「へぇー、いいですね! 猫ちゃんって結構ナワバリ意識強いって聞きますから大変だと思ってましたけど」
「個で争っていては生き残れない。たぶんそう本能に刻まれたんでしょう。だからこの子達は協力し合うことを覚えたのかもしれないですね」
「頭がいいんですね。あ、この黒い子かわいー!」
「ニィー」
「その子はユニィ。元気いっぱいの女の子よ。あ、ちょっと食いしん坊だから困っちゃうことあるわ」
「へぇー。リリエルってみんなのことわかるんですね」
「長い付き合いですからね。ところで二人は何しに来たの?」
都合よくリリエルさんが話を切り出してくれたので、俺は本題に入る。
用件は二つ。
一つは周辺調査のために星猫を貸して欲しいこと、二つは必要なものがあったら教えて欲しいということだ。
そのことを俺の口から伝えると、リリエルさんは優しく微笑みこう答えてくれた。
「いいですよ。助けてくれましたし、それに周辺調査するなら必要だと思いますし」
「ありがとうございます。俺的にはナビィとユニィを借りたいんですが」
「うーん、そうですね。定期的に帰ってくると思いますから、大丈夫です。ナビィはスマホ、でしたっけ? それがお気に入りみたいですし、外に出たがっていましたからいい機会だと感じてましたよ」
「ありがとうございます! それでその、今必要なものってなんですか? 調査しながら集めようと思っているんですが」
「そうですねぇ、まずは食べられるものですかね。後は薬になる草やキノコ、果物に蜜とかですが」
「えっと、写真とか絵とかあります?」
「ごめんなさい、具体的な資料はなくて。絵を描いてあげたいですが、私は下手で……」
「あー、そうですか。うーん、じゃあ適当に採ってきます。それで使えそうなものがあったら使ってください」
「ありがとうございます。でも、二度手間になると思いますが」
「星猫を貸してくれますから、このぐらいのお返しはさせてください。他に必要なものがあったら言ってください。できる限り用意してみせます」
「いえいえ、そこまでしていただかなくても――」
彼女が何かを言い切る前に、俺の目にあるものが入ってきた。それは鍋よりも大きな釜だ。
見た限り使われていない。所々に亀裂が入っており、おそらく長く放置されていただろう。
「あの、その釜は?」
「あ、これですか? 錬金術に使う釜ですよ。たまたま手に入れたんですが、ここに流れてきたものなのでやっぱり使えなくて」
「錬金術って、アイテム調合ができるんですかリリエルさん!?」
「え、えぇ。ここに来る前はそれを生業にしてましたし」
なんというビッグニュースだ! まさかリリエルさんが錬金術を使えるだなんて。
これを活用しない手はない。上手くできれば調査の危険性が格段に下げられるぞ。
でも、釜が壊れてて錬金術が使えないのか。うーん、どうしたものか。
「界人さーん! 見てください、ユニィちゃんが私のスマホに憑依してくれました」
亜季が嬉しそうに黒い星猫ユニィが憑依したスマホを見せてくれる。
俺はそれを見てピンと来た。そうだ、いい方法があるじゃないか。
「亜季、ニャンコマーケットはあるか?」
「ありますよ? それがどうしましたか?」
「よし、じゃあお前の初回ニャンコインを使って錬金釜を買ってくれ!」
「えぇー! いやですよ! 界人さんのニャンコインを使えばいいじゃないですか!」
「よし、じゃあお前が欲しいのあったら俺が買ってやる。だから錬金釜を買ってくれ!」
「交渉になってませんよ! だいたいなんで私が――」
「俺のスマホは壊れてて使えるかわからないんだ! 後でどうにかするから頼むよ!」
あーだこーだとケンカしつつ、俺はどうにか亜季を説得する。渋々だが、ブーブーと言いながら亜季は錬金釜を買ってくれた。
後はスマホが錬金釜に変化するのを待つだけ、と思っていたら星猫ユニィが口からペッと何かを吐き出す。よく見るとそれは小さなカプセルだ。
どこかで見たことがあるその容器を眺めた後、軽い力で床に投げつけるとボンッという音と一緒に煙が吐き出される。完全にその煙が消えると中から一つの釜が現れたのだった。
「これ、錬金釜だ!」
「え、ピカピカでひび割れなし! すっごい新品!」
いろいろツッコミどころがあるけど、まあいいや。リリエルさんがすごい喜んでいる。
その証拠に「ちょっと待っててね~」といって準備し始めた。
「らーららー久しぶりのー錬金じゅーつー」
リリエルさんはとても嬉しいのか歌いながら錬金釜に何かを入れ始めた。そしてグツグツと煮込み、グルグルコンコンとかき混ぜていく。
そんなこんなで数分ほど機嫌のいい彼女を眺めつつ待つと、唐突に「できましたー!」とリリエルは声を上げた。
見るとその手には冒険のお供【ポーション】がある。それは俺が見慣れている青い液体ではなく、赤い液体だ。
「我ながらいい出来になりました」
「それはよかった。買ったかいがありますよ」
「買ったの私ですよ、界人さん!」
「お二人のおかげです。あ、よかったらこれをどうぞ」
そういって彼女は赤いポーションを俺達に渡してくれた。俺は彼女に感謝の言葉を送り、喜んでいる姿に満足する。
これで周辺調査を楽に進められるかもしれない。そう考えていると亜季がこんなことを言ってきた。
「界人さん、約束忘れないでくださいよ」
根に持ってるなこいつ。まあ、俺が無理して頼んだからな。
ちゃんと約束を守ろう。
「わかったわかった。ちゃんと守るから睨むな」
「わかってますか? 本当にわかってますよね? 約束、絶対に守ってくださいね!」
亜季は上目遣いをして俺を見つめる。あー、こいつ結構小柄だからなかなかの破壊力だな。
ひとまず調査しに行くか。このまま亜季に睨みつけられてたらちょっとおかしくなる。
「ふふ、仲がいいですね」
俺はリリエルさんの言ったことを聞かなかったふりをして聞き流す。亜季は気づいていない様子だが、それでいい。
こうして俺達は準備を整え、拠点の周辺調査を始めるのだった。
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