左遷社畜の俺、スキル〈星猫アプリ〉で崩壊ダンジョンの脱出目指し攻略中

小日向ななつ

第1章 ダンジョン崩壊から始まる人生の転機

◆1◆ 俺が左遷された理由《わけ》

 俺の人生は順風満帆だった。苦労したものの国立大学に入りその後はやりたいことを見つけ、ずっとそれにのめり込んだ。いつしか趣味でしかなかった地図作成が花を開き、そのスキルに目を止めたダンジョン調査会社に入社することになる。

 入ったばかりは初めてづくしで苦労したものだ。だけどどうにか仕事を覚え、顧客に満足してもらえる仕事をしてきた。


 いつしかこの仕事が俺の生きがいに変わっていたが、全てを終わらせる出来事が起きる。


「コスト削減のために全部安物にしろって、そんなのありえませんよ!」

「予算を考えろ! 大体なんだこの出費は。そんな金、あると思うのか!」


 それは首都近くに出現したダンジョン調査をするために行われた事前会議でのやり取りだった。俺が所属するチームは成績が優秀だったということもあり、恩師である会長直々に孫の面倒を見て欲しいと頼まれ一緒に調査することになったんだ。

 だが、何を思ったのか次期社長の肩書きがあるバカ孫こと森居義樹が命にも関わるアイテムと装備を全て安いものに変えろと言ってきた。


「それ以上の利益があるでしょ! そもそも命を落とすかもしれない新規ダンジョンですよ。できるだけ万全な状態で突入するのが当たり前でしょ!」

「その利益が出費よりもなかったらどうする!? いいか、今回のアタックは人数も減らす。俺とあと三人で調査だ」

「死ぬ気ですか! 新規ってことはどんなトラップやモンスターが待ち受けているのか全くわからないんですよ。それなのに最低限の人数でアタックって――」

「ええい、うるさい! 二流大学出身のお前が次期社長の僕に口答えするな! いいか、これは決定事項だ!」


 そう森居が言い切ると、見ていた取り巻きが「バカな奴」「ウケる」という小バカにした言葉が聞こえてきた。だけどそんな言葉を聞いても俺は引き下がることができない。

 俺達の命、そして会社の命運がかかっている事業だ。それをこんな形で失敗し、何もかも終わらせるなんてことはしたくなかった。


「考え直してください! 下手したら死者が出るかもしれないんですよ。その責任をあなたは取れるんですか!」

「そんなことは起きん! 俺が選んだ人材は特にな!」

「ダンジョンに潜ったことあるんですか? 地図はいつも頼れませんよ。今回は特にです。モンスターは地位なんて知らないし気にしない。弱いと判断されれば真っ先に襲われます。あなたはそんな危険地帯を――」

「うるさい! もう黙れ!」


「黙りませんよ! いいですか、あなたは厄災星級と想定されるダンジョンを安い装備で、必要最低限しかない安いアイテムで、右も左もわからない状態で進むんですよ。もしかしたら自分が死ぬかもしれない危険地帯を進むんです。それをわかっているんですか!」


 力を込めて俺は問い質す。すると完全に言い返せなくなったのか、森居は力一杯に会議室のテーブルを両手で叩いた。

 一気に空間が静かになると、森居が俺を睨みつけながら決定的な言葉を言い放つ。


「もういいと言っているだろ、甲斐界人。そこまで僕の邪魔立てするならこっちにも考えがある。お前はクビだ」

「……は?」

「どっかに行け! もうお前の顔なんて見たくない!」


 このバカヤロー。そんな権限なんてお前にはないだろうが。

 そうか、そういう態度か。会長に恩があったからちゃんと育ててあげようと思ったがもういい。

 こんな奴との仕事なんてこっちが願い下げだ。


「わかりました。もう口出ししません。荷物をまとめて出ていきますね」


 俺がそう言い放つと部下がざわついた。しかし、俺を切った当人はとても満足そうな顔をしている。

 勝ち誇ったように笑い、何かを叫んでいるがもうどうでもいい。俺は部下に目配せし、適当に切り上げろと伝えて部屋を出た。

 乱暴に扉を開き、閉じることを忘れ怒りに任せ通路を歩く。後々、俺を見た同僚が「とても怖かった」と言われるほど顔に怒りが出ていたようだった。


 こうして企業を上げた大切なダンジョン調査に俺は参加せず、次期社長であるバカ孫の森居義樹が先頭に立って準備を進めることになり、結果は当然失敗に終わった。

 運良く死者は出なかったものの心配してついていった部下を含め半数以上が大ケガをするというもので、森居は無様に逃げ帰ってきたらしい。しかもかすり傷程度で泣き喚いたそうだ。


「こうなったのは全て甲斐界人のせいだ! 俺は悪くない。悪くない!」


 だが、あろうことか森居は失敗の責任を全部俺に押しつけようとしてきたんだ。次期社長の言葉ということもあり、俺は役員会議に呼び出され、その当時のことを聞かれることとなる。

 しかし、多くの役人は森居の息がかかっていたらしく全然俺の言葉を聞いてくれなかった。


 たまたま話を聞きつけ駆けつけてくれた会長のおかげでクビは免れたけど、それでも俺にとってあまりいい時間ではなかったな。


 こうして俺は出世コースから外れ、地方へと左遷されることになる。何もかも最悪な結末を迎えた俺だが、それが大きな転機になるなんてことをこの時はまだ知らないでいた。

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