第87話
「あぁ、滝か」
宮田くんの知り合いのようで、滝と呼ばれた女子は親しげな笑みで寄ってきた。
「宮田くんはもう帰り?」
「いや、他のクラスの様子を見ているだけだ」
「そうなんだ、うちのクラスは門の飾りだからね、頑張ってるよ」
「みたいだな」
「わたし文化委員なんだけど、ほとんど空くんがやってくれてるんだ」
「頼れるやつだからな」
「本当だよ、だからわたしも頑張らないとって思うんだけどね」
黒髪でふわふわヘアの滝さんは文化委員なのに他クラスの男子と話していていいのだろうか。
「あ、そっちは藤田さん?」
「え、うん」
急に名前を呼ばれ、目が合った。
勘だが、女子から好かれそうな子だ。嫌味のない笑顔に可愛らしい顔。元気良さそうだしノリも良さそうだ。
「やっぱり、空くんの幼馴染だよね?」
「うん」
「でもうちのクラス、まだまだ終わりそうにないんだ、ごめんね」
「いいよ」
なんだか良い子そうだ。
明るいし、こういう子が男女共に人気があるんだろうな。
「あ、わたしそろそろ空くんに怒られそうだから戻るね!」
冗談交じりにそう言って、室内へと戻っていった。
空が怒らないことは百も承知であるのに、茶目っ気たっぷりに言う姿は狙ってやっているのか。
「宮田くん、今の子と友達なの?」
「去年同じクラスだった」
「仲良さそうだったね」
「そうだな、良い奴だと思う」
滝さん。同性の私から見ても、初対面にも関わらず好かれそうな子だと思った。
女子のリーダー的存在感。悪い意味ではなく、まとめ役という意味で存在感があった。
恐らく彼女は色んなタイプの友達がいるだろう。そして毎回遊びに行く友達は違う。そんなイメージを感じ取った。
「滝は蒼井とも仲が良いみたいだよな」
宮田くんが言うので教室の中を見てみると、そこには楽しそうに笑いあう空と滝さんがいた。空のあれはいつも通り、外面なので楽しそうに見えるのは当然だ。しかし、なんだかとてもよく似合っていると思うのは私だけだろうか。カップルと言われたら確かにと納得のいく画だ。
「滝と蒼井はよく一緒にいるな」
「え、そう?」
そういえば滝さんのようなシルエットの人間を空の近くで見たような気もするが覚えていない。パっと見、量産型の顔のような気もしなくはない。
私がよく見ていないだけだろうか。
「教室でよく一緒にいるのを見かける」
「へえ」
教室の中であれば私が知らないのも無理はない。空の教室へは用事がなければ行かない。
屈託のない笑顔を作り、滝さんと絵の下書きをしている空。第三者からしたら楽しそうだなあのカップル、という風に見受けられる。しかしよく観察してみると、空の頬に滝さんの髪の毛がサラサラと当たっている。二人で絵の相談をしているからか、自然と近くなる。嫌そうな顔をしない空は流石だ。
「藤田が滝と友達ではないことに驚いた」
「何で?」
「二人ともよく蒼井と楽しそうに話してるだろ。だから意外だ」
「私と滝さんが空と楽しそうに話してたら、仲が良いって思うの?」
「なんというか、同志のようなものかと」
「同志って.....」
「女子は色んな所で繋がっているからな。噂とかもあっという間に広まるだろう。だから繋がりはたくさんあるのかと」
確かに女子は色んな所で繋がりがある。趣味の友達や性格が合う友達、部活などで色々と知り合う場所がある。男子より女子の方がコミュ力が高いと言われているし。
「宮田くんは女子のそういうの、嫌いそうな感じ」
「そうか?まあ、否定はしないな。女子はよく分からん」
「宮田くん今彼女いないの?」
「いないな。俺は、バッサリした女が好きだ」
「あぁ、そんな感じがする」
「好き嫌いがハッキリしていて、何でも言い合える女子が良い」
「女子バレー部のキャプテンとか好きそう」
「む、元カノがそうだったぞ」
予想通りだ。
「いつも蒼井の傍にいる甲高い声で喚いている女は嫌いだ」
「バッサリだね」
「うむ、蒼井はよくあの中で笑っていられるなと感心する」
顔で笑って心でなんとやらだ。
「蒼井も、嫌なものは嫌だと言えばいいんだ。何故言わない」
「……………………空は優しいから」
「その間は何だ?しかし、あれが本当だとすれば蒼井は本当に良い奴だな。非の打ちどころがない。俺なんて好き嫌いが激しいと姉に怒られるんだが」
「宮田くんから見て、空ってそんな風に映ってるの?」
非の打ちどころのない好青年をやっているわけだからそう思ってもらわないと困る、と空は怒りそうだが。
「いや、花井のときもそうだったが、あいつも思うことはあるようだ」
「えっ」
「イメージとしては、溺れている猫を終始笑顔で見ている感じだ。蒼井がそんなことをするとは思っていないが、イメージだイメージ」
なんて酷いイメージ。
「悪い奴ではない。俺は蒼井のことを好意的に思っている」
「そ、そう」
それはすなわち、空の本性に薄々気づいているということでは。
宮田くんは口が堅いし、人を貶めようとするような人間じゃないから心配はしていないけど。
「蒼井の気持ちは、分からんでもない」
「え、と。どういう?」
「…不特定多数の女子の好意は、いきすぎると不快だということだ。おっと、すまん、俺はもうそろそろクラスに戻る」
「あ、うん」
宮田くんのクラスの女子が男手が必要だと、小走りで伝えに来た。短い返事をし、その子の後を追うように去っていった。
宮田くんは今、爆弾を落としていった。
宮田くんも空と同様にモテる男だ。空には何歩か及ばないが。だからこそ、ハエのように群がる女に辟易しているのだろう。その気持ち、俺も分かるぜ、と。
彼は性格が悪いわけではない。ただ正直な人間だと思っている。空に比べれば、正直者な好青年だ。
好青年でも思うことはあるようで、そこは空と同じなのだと感じた。
モテる男というのは皆こうなのか。
宮田くんは「いきすぎると不快」と言っていたから普通の好意であれば嬉しく思う、ということだ。空は、まあ、嬉しく思うことはないのだろう。きっと無関心を貫く。
空は宮田くんが気づいてることに、気づいてるかな。
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