第35話 バカなの!?
尊からの、遊園地への遊びのお誘い……しかも、二人きりで。
遊びに行くだけならばまだしも、二人きりだとわかった瞬間、愛はわかりやすくうろたえた。
「どどどっ、どどどっ!?」
「落ち着いて! なにもわからない!」
二人でのおでかけ。たったそれだけで、こんなに狼狽するとは。
ただ、愛の立場を自分のものとして考えた時……自分もこんなんになるかもしれない、と恵は思った。
それはそれとして、落ち着かせなければ。
「とにかく、あいあいはこのデートの誘い、断るつもり?」
「っ、そ、れは……て ていうか、で、デートじゃ……」
「年頃の男と女が、二人きりで、遊園地だよ? これもうどう考えてもデートだよ!」
むしろこれがデートじゃなければ私はたけたけを殴る……と、恵は密かに誓う。
「や、やぁ……くく、クリスマスとかなら、まだしも……ふふ、普通の平日だよ!?」
「そりゃ割引チケットの有効期限が近いからでしょうよ。いやそもそも割引チケットってのもあいあいの想像だけどさ。
というか、あいあいはそんなに、デートだって認めたくないの? 嬉しくないの?」
「そぅ……れは……」
もういい加減腹をくくれ、と言うように恵は真剣な目で愛を見た。
その思いが伝わったのか、愛はみるみる小さくうつむいて……しかし、しっかりとうなずいた。
「そりゃ、本当にで、デートだったら、嬉しいけど……い、今までなんにもなかった、尊だよ?」
「まあ気持ちはわかるよ。あのたけたけが、これまでそんな素振りも見せなかったあいあいをデートに誘うとか……明日地球が滅びるか、近日たけたけが死ぬかって可能性もあるからね」
「そこまで言う!?」
尊がデートに誘ってきたのが、そんなに意外だったのか、恵がわりと失礼なことを言う。
愛も似たようなことは考えていたわけだが。
とはいえ、このまま慌てふためいていてもらちが明かない。
ここは、"尊が愛をデートに誘ってきた"という前提で考えよう。
「で、どうするわけ?」
先ほどの質問に、戻る。
「……行く」
それに対し、愛はしっかりと答えた。
どのみち、これがデートであろうがなかろうが、尊から遊びに誘われて行かない選択肢などないのだから。
「じゃ、早く返信したら? ずっと既読になってる」
「あっ」
指摘されて愛は、画面を見た。
そこには、尊からのメッセージで止まっているトーク画面……尊のメッセージを確認した時点で、それは既読となって尊に伝わる。
つまり、既読のまま返信しない時間が長くなれば、相手にあらぬ誤解を与えかねない。
「悪い愛、変なメッセージ送っちまった忘れてくれ……って、来ちゃうかもよ?」
「わぁああああ!」
既読スルー状態になり、尊の心情としては不安だろう。単にメッセージが返ってこないだけならまだしも、既読スルー。
今までの愛なら、既読がついた時点で少なくとも一分以内には返信していた。
それが、今回はもう五分は既読スルー状態だ。
俺が変なメッセージ送ったから愛を困らせた、と思われても不思議ではない。
そんなことになれば、先ほどのお誘い自体がなくなってしまう可能性が高い。
だから愛は、凄まじいスピードで返信した。それはもう、超速で。
『そ、そうなんだ。二人、二人ね……了解! 返信するの遅れちゃってごめんね、ちょっと驚いちゃって……尊から遊園地のお誘いなんて、夢でも見てるのかなって思っちゃったよ。全然、嫌とかじゃないからね。驚いて返信できなかっただけだからね、そこんとこちゃんとわかってよね。週末ってのは急な気がするけど、ま、まあ尊がどうしても行きたいって言うなら行ってあげなくもないんだからね!』
「数秒でとんでもなくめんどくさい文章打ってる! なにこれ、怖っ!」
ものの数秒で打ち込んだメッセージを送り、返信完了。
それを横から覗き見て、恵は軽く引いていた。
というか……
「なんで最後の最後に古典的なツンデレ!? なんでせっかくのチャンスを自ら棒に振るようなことを!?
バカなの!?」
「あぅあぅ……」
メッセージの最後に、見事なツンデレが組み込まれていた。
こんなもの、向こうの熱が冷めかねないほどの暴挙だ。せっかく尊から誘ってくれたというのに。
素直に『行く』とだけ打てば済むものを、なぜこうなったのか。
「どうすんのよ、これでたけたけが『あ、やっぱいいです』ってなったら」
「うぅう……」
「泣くなら初めからやらないでよ」
先ほどから赤くなったり青くなったり泣きそうになったり、忙しいことだ。
尊のことだ、あんな文章を送ればどうなるかは想像だに固くない。売り言葉に買い言葉というやつだ。
そんな中で、愛のスマホが着信を知らせる。
返ってきたメッセージには、なにが書かれているのか。確認するのが怖い。
だが、確認せずにいるのも、また怖い。
だから愛は、勇気を振り絞ってスマホの画面を、見た。
『あぁ、どうしてもだ』
「わっ、あいあいっ」
そのメッセージを見た瞬間、まるで沸騰したかのように顔が真っ赤になった愛は、後ろに倒れそうになる。
それを、とっさに恵がキャッチ。
まさか、このような答えが返ってくるとは思わなかったのだろう。
「でも、たけたけってば本当にどうしちゃったの……まさか偽物!?」
「やめてよそういうこと言うの!?」
「あはは冗談冗談。それにこんな長々尺取ってんのにそんなオチはあり得ないって」
「なんの話!?」
なんにしても、尊から送られてきたメッセージ……それに愛は、今度こそ素直な気持ちを返す。
『私も……行きたい、です』
と。
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