第18話 水着新調しないと!



 急に、愛からの視線を受け……山口は、肩を震わせる。

 改めて見ると、少しか弱い印象を受ける。愛にとっての比較基準が尊だからか、それとも愛自身が男らしい活動をしているからか、それはわからない。


 だが、どこか保護欲を誘う彼には、ある種の需要がありそうだ。

 あと、多分メガネを外したら美少年だ。


「えっと……柊さん? ボクになにか……?」


「あ、ごめんごめん。えっとね、山口くんも誘いたいなって思って。

 ね、恵?」


「ぅえ!?」


 今こうして、視線を向けた理由……それは、プールに誘うためだ。

 しかし、それは愛の独断ではない。恵が誘いたいと、言い出したこと。


 それをわからせるため、愛は早々に恵に話を振る。

 まさか突然話を振られるとは、思っていなかったのだろう。普段は出さないような、間抜けな声を出してしまう。


 きょとんとしている山口に見つめられ、恵の顔は真っ赤になっていくが……無言で、こくこくと勢いよく、うなずいた。


「へぇ、俺と山口? そりゃまたどういう組み合わせだよ」


「それは、恵が山口くんをむぐっ」


「いや、ほら、あっはは……まあ、細かいことはいいじゃない」


 余計なことを言ってしまわないために、とっさに恵は愛の口を塞いだ。

 どうやら、二人には恵の意図は伝わってないようだ。ほっと一息。


 落ち着いたところで、恵は愛を解放する。


「ぷはっ」


「もう、あいあいっ。変なこと言わないでよっ」


「あはは、ごめん」


「……また余計なこと言ったら、たけたけへの気持ちバラすわよ」


「すみませんでした」


 そんなこんなで、プールに行くメンバーを誘うことに成功した。

 愛としても、プールなど久しぶりだ。楽しみであると同時、どうしても外せないものがある。


 ……かわいい水着、新調しないと!


「あと、博士にもメールしとかないと」


「あいあい?」


「んー、なんでもない」


「で、いつ行くんだ?」


 片手で手早く、愛は博士にメッセージを送る。

 元々、ヒーロー活動をシフト制にしようと言っていたのだ。そのため、プールの日には休みをもらおう。


 さて、そこで重要なのが、いつプールに行くことにするのか、だ。

 それは博士にも伝えないといけないし、ナイス尊だ。


「えっとね、割引チケットの期間は、ちょうど夏休み中なのよ」


「じゃあ、みんなの予定をあわせていく……ってことでいいのか?」


「賛成」


「ぼ、ボクも」


 夏休みは、すぐそこだ。

 休みの前にはテストがあるが、それも普段通りにあれば問題はない。一応結果を待ってから、約束を取り付けた方がいいだろう。


 そのためにも、みんなで連絡先を交換することに。

 元々、愛と尊、愛と恵、尊と山口は、連絡先を知った仲だ。それを、改めて四人交換して、四人のグループを作る。


「よかったねー、恵」


「う、うるさいなっ」


 グループを作ってしまえば、グループ内のメンバーと、個人的にやり取りすることも出来る。

 さすがに恵にそこまでの度胸はなさそうだが、連絡先を交換できただけでも、大きな進歩だ。


 それぞれの連絡先を交換して、少し話したあと、昼休みが終わる。

 席に戻った愛に、博士からの返信が来ていた。


『お友達とプールか、ええのぅ青春じゃのぅ。じゃあ日時がわかったら、また連絡よろしくぅ。

 その間は、怪人出現の連絡が行かないよう、切っておくからよろしくぅ』


 博士は、メッセージ上だとなんだかいろいろはっちゃけている。


 怪人出現の報せが入らなければ、愛が怪人のことを気にすることもない。

 この間のショッピングモールのときのように、怪人が同じエリアにでも現れない限り、愛はプールに専念できる。


「~♪」


 まだ日程も決まっていないが、久しぶりに羽を伸ばすことのできる日に、テンションが上がっていく愛であった。



 ――――――



「あー、水着かぁ。確かに、去年のはもう入らなくなってるなぁ」


 放課後。プールに向けて、水着の相談を恵にしていた愛。

 愛と同じく、恵も新しく水着を買おうと、考えていたのだ。


「そうだよねぇ、山口くんにかわいいの見せたいもんねぇ」


「そんなんじゃ……なくも、ないけど……」


 今回、水着を見せたい相手がいる。その相手のために、かわいい水着を買いたいというのは、愛だって同じだ。

 とはいえ、恵の場合、本人が言うように、去年のものが入らなくなった、という理由も多分にあるのだろう。


 恵は、うらやましいくらいのモデル体型だ。

 特にこの一年では結構背が伸び、それにより体型も変動している。


「私も、多分去年のじゃ入らないなぁ。

 胸がちょっと、大きくなってるみたいで……」


「……ちっ」


「!?」


 水着の話もそこそこに、恵は部活動へと向かっていく。

 彼女が所属しているのは、陸上部だ。背が高くすらっとした彼女に、よく似合っているなと思う。


 愛は、部活動には所属していない。

 いついかなるとき、怪人が現れるともわからないのだ。部活動に所属する暇はないのだ。


「尊は、委員会のお仕事だよね」


「おう」


「そっか。じゃ、先に帰ってるからね」


 放課後、基本的に愛は一人で帰ることになる。

 少し寂しさを覚えながらも、下駄箱で靴を履き替え、学校を出る。


 まだ未定ながら、スマホの予定表に四人でプール、と打ち込んで……にこにこしながら、帰宅する。

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