第7.5話 バックスクワットのエラー修正(1)

「さて、さっき発見した課題への対処法も少しやっておこうか」

「まずは、頭のポジションの修正だ!」

「頭のポジションの修正で大事なのが、トレーニングを行っている本人が自分の頭の角度を自覚しながらバックスクワットを行えることだ」


「2015年の論文[Kushner2015]では、バックスクワットを行う際の頭のポジションを自覚しながら修正する方法として、豆が入った袋を頭の上に乗せてバックスクワットを行うことが推奨されている」


「せっかくだから、タヌキを頭に乗せてみようか」

「マミー、出てこいー」


とフジカルが呼ぶと、異空間からひょっこりとマミが登場した。


「はいー。お呼びでしょうか?なのです」


「体重を軽めにした状態で、ちょっとエリカの頭に乗ってくれ」


「拝承なのですー」とマミが頭に乗った。


「これ、もうちょっと何とかなりませんか?さすがにやりにくいんですけど」


と困惑するエリカ。


「しょうがない。じゃあ、今回は、小さな豆、小豆(あずき)が入ったお手玉にしようか。マミ、お手玉に変身してくれ!そしてエリカは、それを頭から落とさないようにバックスクワットをやってみようか!」


マミは妙に可愛らしいメルヘンチックな模様がついたお手玉に変身し、エリカは、それを頭に乗せた。


お手玉を頭に乗せて、棒をかついでバックスクワットを10回繰り返すエリカ。当初は、しゃがむと同時に頭が前に出て視線が床に向かっていたエリカだったが、頭に乗せたお手玉を落とさないようにするために視線が前を向きながらしゃがむようになった。


頭を動かすな、という指示をしたとしても、本人が自分の頭と地面に対する傾きを自覚するのは難しい。自分自身の身体を意識するのではなく、頭の上に乗せた物体という、身体の外部にある物体と頭の関係という、外的フォーカスの方が、結果として求める身体の角度を実現しやすい場合もあるわけだ。


全ての場合において外的フォーカスが優れているわけではないが、自分自身の身体を意識する内的フォーカスとの使い分けを上手に使うことが、効率の良いトレーニング指導で求められることもある。

外的フォーカスを使うのか、それとも内的フォーカスを使うのか、その選択も、運動に関連する指導においては重要である。

声の掛け方は、キューイング(Queing)と呼ばれるが、どのようなキューイングを行うのかによって、多くの人々が思っている以上に結果や効果が変わってしまうこともあるのだ。


そして、求める結果を出す方法はひとつとは限らない。


「今回はお手玉を使ったが、頭の上に何かを乗せるという方法以外にも色々と方法があるぞ。たとえば、少し離れた壁に目印を作って、そこを凝視し続けながらバックスクワットを行うという方法も2015年の論文[Kushner2015]は推奨している。」


「壁に目印をつけるようなことができない場合、たとえば、外でトレーニングを行うようなときには、こうやって目の前に立って、見つめ合うというのも方法のひとつだ!」


そう言いながらフジカルは、少し離れたところで立った。


(こういうシチュエーションで見つめ合うのって、どうなのだろう?)

そう思いながらも、少し離れたところに立つフジカルの目を見つめながらエリカはバックスクワットを行う。


「他にも頭や視線を維持する方法はあると思うので、必要に応じて工夫してくれ!」


このような頭の位置や視線といったエラーは、ちょっとした意識で修正できる場合も多い。非常に地味だが、見落とされがちなであるとも言える。


今後、エリカがグループに対して指導を行うような場合もあるだろうが、そのときには忘れずにチェックしたいポイントのひとつだと思う。ただ、首の可動域制限などによってどうしてもできないような場合もあるし、改善しようとする試みで痛みが出るような場合もある。痛みがあるような場合には無理はしないことも大事なので注意して欲しいということを後で伝えないと、そう思うフジカルであった。


「次は、正面から見た時の骨盤の角度を修正していこう」


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参考文献

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[Kushner2015]

Kushner, A. M., Brent, J. L., Schoenfeld, B. J., Hugentobler, J., Lloyd, R. S., Vermeil, A., ... & Myer, G. D. (2015). The back squat part 2: Targeted training techniques to correct functional deficits and technical factors that limit performance. Strength and conditioning journal, 37(2), 13.

https://doi.org/10.1519/SSC.0000000000000130

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