第7.3話 バックスクワットの基本(1)

「次は、バックスクワットの1RM推定だ!」


バックスクワットは、ウェイトを利用して行うスクワットとしては、もっとも基本的であるとも言える代表的なスクワットだ。ウェイトを使ったスクワットとについて語られるときに、単にスクワットと表現される場合、バックスクワットを示すことも多い。


「これからバックスクワットの1RM推定をするが、その前に、そもそもバックスクワットをどのようにするのか、そこからやろうか!」


バックスクワットは、ウェイトを用いて行われるスクワットのうち、おそらく最も行われているスクワットではあるが、実はエラーが発生しやすく難易度が決して低くない、そんなエキササイズだ。

エラーに気が付かず、そのまま重たいウェイトでバックスクワットを繰り返してしまい、怪我をしてしまった、そんな話をこれまで何度も聞いてきた。


そうならないためにも、バックスクワットそのものをどのように行うのかにこだわることも大事だとフジカルは考えている。


「バックスクワットに関して、色々な人が色々な意見を言うこともあるが、今回は2014年の論文[Myer2014]が推奨する方法を使うことにする」

「この2014年の論文は、バックスクワットのアセスメントを論じている」

「アセスメントというのは、評価や分析を行うという意味だ。要は、バックスクワットがちゃんとできているのかを見分けようってことだ」


「まずは、軽い木の棒を使って荷重しない状態でのバックスクワットをやりながらフォームを確認しようか!」


そう言って、フジカルは太さ3cmぐらいのひのきの棒をエリカに渡した。

うまく使えば、鈍器として、もしくは棒術で使えそうな、そんな棒だ。

しかし、武器としての攻撃力はハガネの剣よりは弱そうだ。


「こんな軽い棒を使ってバックスクワットをするんですか?」


エリカが不思議そうに質問した。


「そうだ。バックスクワットを行うときと同じように棒を持つことで、肩甲骨の位置が実際のバックスクワットに近い形になることが促進されるんだ。これは、ウェイトを抱えるのと同じ体勢でしゃがむ時の課題を探すためで、ウェイトによる負荷とは関係なく発生している課題をチェックするんだ。」


「よし。じゃあ、まずは、この棒を抱えた状態でバックスクワットをやってみよう!」


「まず、最初に棒の持ち方だが、棒を首の裏側の肩に乗せ、手のひらを前に向ける形で棒を握ろう。このときの両手の位置は、肩幅よりも少し広いぐらいの位置だ」

「棒が肩に触れる位置は、後部三角筋の部分だ。頸椎の7番目、C7の直下ぐらいだ」


と言いながら、フジカルはエリカの後部三角筋や、頸椎C7の少し下を触って位置を示した。


(C7とは何かの呪文だろうか?)

エリカは疑問に思ったが、あまり深く考えずに今回は流した。


エリカは指定された場所に棒が触れるように背中に抱えた。


「ここで、棒を背中を使って曲げてしまうぐらいのイメージを持ちがなら、実際には追ってしまうような力加減ではなく軽く引っ張ってみよう」

「それによって、脊柱起立筋などの背中を伸展させる筋群であったり、広背筋などを活性化させ、体幹部の剛性を高めて安定させ、怪我のリスクを下げることもできる」


エリカは、何度か背中に担いだ棒を曲げるイメージを持って引っ張っているようだ。

実際には棒が大きく曲がるわけではないので、外部から観測していると、なんとなく力を入れているようにしか見えないかも知れないが、この試行錯誤も大事な時間である。


「次は、足の位置、スタンスだ。」

「足はだいたい肩幅ぐらいが基本としては推奨されている。」


「なぜ肩幅ぐらいか、だが、足のスタンスが広すぎると、スクワットで身体を下げていくときに、膝蓋骨(しつがいこつ)や、脛骨と大腿骨の間を圧縮する力が肩幅のときと比べて15%増す可能性があるとする論文[Escamilla2001]がある」


「逆に、極端に狭い足幅では、膝の前部に対する剪断力(せんだんりょく)が大きくなってしまうという可能性が考えられるようだ[Myer2014]」


フジカルが何を言っているのか良くわからなかったエリカは質問した。


「剪断力ってなんですか?」


「剪断力というのは、逆方向にかかる2つの外力によって、特定の箇所がズレるように切断されるような力の働き方だ。刀で切るようなイメージで考えても良いかも知れない。」

「この剪断力という力の働き方は、運動という視点で身体を考えるときに大きなポイントになることが多いので、良い子のみんなは、覚えておこう!」


「良い子って、誰に向かって言ってるんですか???」


「まあ、いい。スクワットについて続けよう!」


「バックスクワットをするときの足の向きだが、つま先は正面を向けるか、外側に向けたとしても10度ぐらいの開きにしよう。極端につま先を外側に向けるバックスクワットは、基本的なバックスクワットとしては推奨されない。ただし、足の位置やつま先の向きによって身体に加わる刺激も変わってくるので、それを有効活用するという明確な目的があって行うのであれば、それを否定するものもない。目的に応じて足の位置や向きを戦略的に使うこともできるわけだ。」


「さて、じゃあ、今度は、実際にしゃがんでみようか!」



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参考文献

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[Myer2014]

Myer, G. D., Kushner, A. M., Brent, J. L., Schoenfeld, B. J., Hugentobler, J., Lloyd, R. S., ... & McGill, S. M. (2014). The back squat: A proposed assessment of functional deficits and technical factors that limit performance. Strength and conditioning journal, 36(6), 4.

https://doi.org/10.1519/SSC.0000000000000103


[Escamilla2001]

Escamilla, R. F., Fleisig, G. S., Lowry, T. M., Barrentine, S. W., & Andrews, J. R. (2001). A three-dimensional biomechanical analysis of the squat during varying stance widths. Medicine and science in sports and exercise, 33(6), 984-998.

https://journals.lww.com/acsm-msse/fulltext/2001/06000/a_three_dimensional_biomechanical_analysis_of_the.19.aspx

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