第6.9話 バリスティックトレーニング

フジカルは、次の練習内容を説明し始めた。


「次は、スピードを意識したトレーニングだ!バリスティックトレーニングをやるぞ!」


2010年の論文[Cormie2010]では、バリスティックトレーニングによってRFD(Rate of Force Development)が上昇するとある。遠くまでジャンプしたいという目的のために、IMTP(Isometric Mid-Thigh Pull)でRFDを計測したが、計測された値を今後のトレーニングで上昇させるために、さっきまでは最大筋力の向上を目指したトレーニングを行った。次は、素早い力の立ち上がりを実現するために、素早い動きを含むトレーニングを行おうというわけだ。


「じゃあ、バリスティックトレーニングとは何か?だが、バリスティックトレーニングは爆発的なトレーニングと呼ばれることもある。要は、爆発的に、ガッと速く一気に力を出すトレーニングだ!」


ときとして、正確な表現よりも、擬音語などでフィーリングを伝えるような方法の方が相手に響く場合もある。パタヘネには、そちらの方が良さそうだとフジカルは思い始めていた。


「ガッっと、速く、一気に、ですね!わかりやすいっす!」


やっぱり、彼には、こういう説明の方が良いのかも知れない。


そして、速く、一気にという意識を持ってトレーニングをすることがRFDを改善するためには効果的であると2020年の論文[Blazevich2020]が示唆している。


この意識による違いは、2016年の論文[Maffiuletti2016]で、IMTP測定時に"速く"と"強く"を組み合わせた掛け声を推奨しているという点との整合性もある。


「バリスティックトレーニングとして代表的なのがメディシンボールと呼ばれる重たいボールを投げるというエキササイズだ!」


バリスティックトレーニングの豆知識としては、バリスティックという単語は"弾道"という意味がある。たとえば、弾道ミサイルは英語でバリスクティックミサイルだ。バリスティックの語源は、投げるという意味を持つギリシャ語から来ているらしい。


今では、勢いをつけてバーベルを一気に持ち上げるようなトレーニングを含めてバリスティックトレーニングと呼ぶ。先ほど行ったケトルベルスイングもバリスティックトレーニングに分類されることもある。だが、もともとは重たいものを投げるトレーニングを指していたのではないかとフジカルは推測している。


そして投げる重たいものとして、バリスティックトレーニングでよく使われるのがメディシンボールと呼ばれている重たいボールだ。メディシンボールを上に投げたり、床に叩きつけたり、壁に叩きつけたりといったトレーニングが行われる。


「じゃあ、マミにメディシンボールになってもらおうか!マミ、メディシンボールに変身だ!重さは3kgにしようか。」


今日は、トレーニングの最初からマミがタヌキ姿で近くをうろうろしていたので、その場で声をかける。


フジカルに声をかけられたマミは、


「拝承!なのです!」


と言って3kgのメディシンボールになった。


そのメディシンボールをフジカルは持ち上げ、投げ方を説明した。


「今回やるのは、メディシンボールバックスローだ!自分の背中側に投げるが、投げる方向としては空に向かってだ。投げる時に、さっきのケトルベルスイングのようなヒップヒンジをうまく行おう!」


そう言ってからフジカルは、メディシンボールを両手で持つ。そして、


「ふんぬらばーーーーー」


と叫びながら、空高くメディシンボールを投げ上げた。



メディシンボールになったマミは、空中で「ああああああぁぁぁぁぁぁーーーー」と叫び、そして落下してきた。フジカルの背後に着地したマミは、またメディシンボールへと変身した。


パタヘネもフジカルの真似をして叫んだ。


「ふんぬらばーーーーーーーー」


叫ぶ言葉に意味はない。ただ、なんとなく叫んだ、そんな感じだ。


パタヘネは、何度かメディシンボールバックスローを行ったが、このエキササイズは思っていたよりも負荷が高かった。3kgを上に投げ上げるのは、やってみると実はまあまあ大変なのだ。パタヘネは4回投げてから休憩した。


エリカがメディシンボールバックスローを行おうとしていたとき、フジカルがメディシンボールになったマミに声をかけた。


「エリカのときは2kgでいこうか」


トレーニングを行う相手によって、メディシンボールの重さを調節した方が良い。最初に開始する重さとして、成人男性だと3kgぐらい、成人女性だと2kgをフジカルは選択することが多い。


そして、エリカも少し恥ずかしながら叫んで投げた。


「ふ、、、ふ、、、ふんぬらば!」


なぜ、「ふんぬらば」という掛け声なのか、特に気に留めるものはいなかった。


2人が何度かメディシンボールバックスローを行ったあと、小休止中に、2人にウェイトトレーニングとバリスティックトレーニングの両方を行う意味を語り始めた。


「さっき紹介した2010年の論文[Cormie2010]では、バリスティックトレーニングによって短期的にジャンプ力を向上させることができるとあるが、長期的な視点でのウェイトトレーニングと組み合わせると、さらに結果が良くなることを示唆している!」


バリスティックトレーニングによって、短期間で垂直ジャンプの能力が上がる可能性があることを示唆する論文があるが、その論文では、ウェイトトレーニングと合わせることで、長期的にはさらにジャンプできる高さが上がる可能性があるのだ。


「なので、今回はウェイトトレーニングとバリスティックトレーニングの両方を行っているわけだ!」


どのようなトレーニングを組み合わせるのか、それもノウハウのひとつと言える。



そして、フジカルが次のトレーニングの説明を始めた。


「さて、次は、プライオメトリクスだ!」



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参考文献

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[Bojsen2005]

Bojsen-Møller, J., Magnusson, S. P., Rasmussen, L. R., Kjaer, M., & Aagaard, P. (2005). Muscle performance during maximal isometric and dynamic contractions is influenced by the stiffness of the tendinous structures. Journal of applied physiology, 99(3), 986-994.


[Blazevich2020]

Blazevich, A. J., Wilson, C. J., Alcaraz, P. E., & Rubio-Arias, J. A. (2020). Effects of resistance training movement pattern and velocity on isometric muscular rate of force development: a systematic review with meta-analysis and meta-regression. Sports medicine, 50, 943-963.


[Maffiuletti2016]

Maffiuletti, N. A., Aagaard, P., Blazevich, A. J., Folland, J., Tillin, N., & Duchateau, J. (2016). Rate of force development: physiological and methodological considerations. European journal of applied physiology, 116, 1091-1116.


[Cormie2010]

Cormie, P., McGuigan, M. R., & Newton, R. U. (2010). Adaptations in athletic performance after ballistic power versus strength training. Medicine & Science in Sports & Exercise, 42(8), 1582-1598.

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