第5.5話 トーマステストで腸腰筋をチェック
「次は、深くしゃがもうとするときに課題になりそうな点が股関節にあるかをチェックしようか。」
「何をチェックするかだが、ざっくりと表現すると、筋肉の"硬さ"だ」
「筋肉は、骨についていて、伸びたり縮んだりしながら骨を動かすわけだが、その筋肉の伸び縮みが十分に行えない場合に、身体の動きに制約が出たりするわけだ。」
「たとえば、筋肉がうまく伸びなくなってしまっている短縮という状態だと、必要なときに筋肉が伸びないので、本来であれば動いて欲しい範囲まで関節が動かないという問題が発生する。」
徐々に早口になるフジカル。
「股関節を動かすための筋肉は複数あるが、どこに課題がありそうかを炙り出すために今回使えるテストがある。」
「MTT、Modified Thomas Test、もしくは、トーマステスト変法、まあ、今回はとりあえず単にトーマステストと言っておこう」
「ということで、トーマステストだ」
「このテストは股関節の課題をチェックできるテストとしてよく使われているが、2022年の論文[Cady2021]では、腸腰筋と大腿直筋の柔軟性を測定する手法として信頼性があると結論付けている」
「少し余談になるが、身長や体重などの明確な数値が計測しやすくてわかりやすい指標とは違って、身体の一部であったり、身体の一部をどれだけ動かすことができるなかどの計測を行いたい場合には、どこを基準にするかであったり、計測する人の技能や知識などの要素によって再現性があったりなかったりしてしまうんだ」
「たとえば、先ほどの足首の角度を測ろうと思うと、どういう方法で測ろうとするのかで結果が変わってしまうんだ」
「そのため、計測方法ひとつに対しても、さまざまな試行錯誤があり、また、その計測方法の信頼性に関しても研究が行われているんだぞ!」
「さて、では、トーマステストをやろうか」
そう言いながら、フジカルはギエルハルドの身長よりも長い台を取り出した。
台の高さは腰よりも少し低いぐらいで、そこに深く座ると足が地面につかないぐらいの高さだ。
「まずは、この台に仰向けに寝転がってくれ。」
「寝る位置だが、膝の裏がベンチの端っこから少しはみ出るぐらいの位置だ。」
「この状態で、片足の膝が胸につけるように両手で抱える!」
「評価するのは、足を抱えてない側の股関節だ」
ギエルハルドが台に仰向けになり、片足を抱える。もう片方の足は台からはみ出た状態で、膝から下は地面に向かっている。
ギエルハルドの伸びている足を見て、フジカルは、
「ギエルハルドの伸びている方の足を見ると、伸びている側の足が少し浮き上がっている。これは陽性だ。」
「この股関節の角度から、腸腰筋に課題がある可能性を推測できる」
と言いながら、次にギエルハルドの伸びている側の足を左右に少し動かしている。
「膝に他動的な抵抗を加えた感じからは、大腿直筋(だいたいちょっきん)ではなく、腸腰筋(ちょうようきん)の課題だと推測できる。」
「あと、大腿筋膜張筋(だいたいきんまくちょうきん)も大丈夫そうだ。」
エリカがツッコミを入れる。
「いつも思うのですが、人間が理解できる言葉で話してください」
「オーケー、オーケー、大腿直筋、腸腰筋、大腿筋膜張筋は筋肉の名前だ!どれも大事な筋肉だ!」
「大腿直筋は、ふともも前面の中央にある筋肉だ。膝を伸ばすときに使われる。ここに問題があると、膝が伸ばしにくかったり、逆に膝が曲がる角度に制約がでることもあるぞ」
「腸腰筋は、大腰筋(だいようきん)と腸骨筋(ちょうこつきん)をまとめた表現だ。」
「大腰筋は、腰椎、要は下の方にある背骨から、大腿骨、要はふとももの骨まで繋がっている筋肉だ。股関節の屈曲などを行う。」
「腸骨筋は、骨盤の裏側から大腿骨まで繋がっている筋肉で、この筋肉も股関節の屈曲に関わっている。」
「大腿筋膜張筋は、骨盤から膝に向かって伸びている筋肉で、外転と内旋などに関わっているぞ」
「さて、腸腰筋が短縮している場合に、深くしゃがむことにどういう制約が発生するか、だが、考えられる制約のひとつに、腸腰筋が引っ張ることで腰を反ってしまい、腰を反ってしまうから骨盤の後傾できずに、本来深くしゃがむときに必要となる股関節の可動域を制約してしまうという問題がある」
「それなので、腸腰筋の課題を緩和することで、深くしゃがみやすくなることが考えらるわけだ」
「ということで、腸腰筋へのアプローチをやってみよう!」
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参考文献
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[Cady2021]
Cady, K., Powis, M., & Hopgood, K. (2021). Intrarater and interrater reliability of the modified Thomas Test. In Journal of Bodywork and Movement Therapies (Vol. 29, pp. 86–91). Elsevier BV. https://doi.org/10.1016/j.jbmt.2021.09.014
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