眠たい日

三月

第一話


 机の上に投げ出されたぼくの手に握られているのはバイアグラ、ではないけどよく似た青い錠剤タブレット


 シアン化合物と総称されるソレは、表面が少しざらついていた。


 ある種の経口薬が色付きなのは誤飲や混入(作為に関わらず一服盛るなんて)を防ぐためだというが、今度についてはその心配はない。誤用がいつの間にか人口に定着するなんて良くある事だし。ただ生憎あいにく具体例は出てこない。

 そして舌先がつばも出ない位に乾いていたからさっき珈琲を淹れてきた、これで飲み下してしまえばたぶん意識の間隙に収縮した筋肉やら腕が机のインクやら何やらを薙ぎ倒し、あとの数行はみんな駄目になる。


黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒汚黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒汚汚黒黒黒黒黒黒黒黒赤赤黄黄黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒赤赤黄黄黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒…


 結局、それが問題だった。ぼくには最後の数行がどうしても思い浮かばない。なにか意味深長で、致命的クリティカルな文句で終わらせるべきだろう。そう決めて数分間幕引きに相応しい言葉を探し、珈琲も二杯分すっかり飲み干し、もう一杯と席を立った時にこんな馬鹿らしいルーティンを続ける価値はそんなに無いと思い至った。


 だから、出前を頼んだ。

 注文を繰り返すとペパロニピザ、サイズL、アップルパイにソーダ。たった今そんなCMを見たからだ。絶対に食べきれない量だが問題はない。

 

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