最終話 オシマイ
…目を開けると、見知らぬ場所にいた。
「あれ、ここ…どこ?」
ベットから体を起こすと何かが下に落ちる音がして、それを拾い上げる。
(これって、VRゴーグル……?)
疑問に思っていると突然、扉が開いて警察官らしき人物が2人、部屋に入って来た。
「えっ…なに?」
「…っ!生存者を発見!!…保護します。」
「お怪我はありませんか?」
「…無いですけど…あの、何があったのか僕、さっぱりで…」
二人が一瞬、目配せをしたと思ったらすぐに僕の方を見る。
「…そうですか。ここは危険ですので、外にあるパトカーに行きましょう。」
「後、パトカーに入るまで目隠しをしてもらいますが…よろしいですか?身の安全を考慮して、こちらで誘導しますので。」
「あっはい…分かりました。」
言われるがままに、目隠しをして手を繋ぎ…階段を降りて…歩いて……そうしているうちに、目的地に到着したのか、警察官の1人が僕に話しかけてくる。
「目隠しを外してもいいですよ。」
「…はい。」
目隠しを外すと、パトカーの中にいた。
「…ご苦労。後はこっちでやる。お前らは捜索を続けろ。」
「「はっ!!」」
運転席にいるらしい人物に敬礼をしてから、二人は去っていった。暗がりで顔はよく見えなかった。
「……シートベルトをつけろ。」
「あっ、はい。」
シートベルトをつけると、パトカーが発進した。しばらく無言で車を走らせていると、男が唐突に言った。
「…災難だったな。」
「あの、すいません。僕…何があったのか分からなくて。」
「ハッ、そうかよ。」
獰猛に笑う男に僕は少し怯えつつも、その態度とかが何処となく誰かに似ている気がした。
「俺を怖がってるか?……佐藤やまね。」
「…え!?何で僕の名前を…。」
「楓さんとか零士の野郎とか…糞ボンクラとかに聞いてねえのか?一度会った気がしたが…」
それを聞いて僕は確信した。
「もしかして……栄介さんですか?聖亜くんのお父さんの。ホワイトデーの時に…」
「おっ、やっぱ俺の事を知ってたのか!てっきり酒の飲み過ぎで俺が作った妄想か思っちまったぜ。」
「あはは…はい。聖亜くんがよく栄介さんの事を話していますから。」
「アイツがぁ?どんな話だよ??」
「そ、それは……」
———本当、マジで根っからのガキなんだよなぁ。あのクソ親父は。
——毎日、事あるごとにぶん殴ってくるんだぜ?…まあ、全力で俺も応戦するけどな。
——は?一度会ってみたい??……あー意地でも会わせねえから安心しろ。絶対面倒な事になるだろうからな。
(うん…言える訳がない。)
「おい、どうした?」
「えっとその……」
「チッ。あのボンクラ……帰ったらボコす。」
やまねの態度で栄介は察したようだった。心の中で山崎に謝罪する。
「大丈夫か、お前?」
「…大丈夫です…けど。」
——体が重くて…とても眠い。
「…ハッ、少し寝てろ。家に着くまでまだ時間がかかるからな。」
「そう…します。」
やまねは目を閉じ、その数秒後に眠りへと落ちていった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
家に着き、パトカーを止める。
「おい、着いたぞ…起きやがれ。」
「…すぅ…すぅ……」
起こすために思いっきり頬を叩こうとして…思わず動きが止まった。
「…っ、姉…さんっ……」
「……チッ。」
一旦外に出て、苦しそうに眠るやまねを渋々背負う。
「鍵は……あ?開いてやがる。」
違和感を覚えながらも栄介は靴を脱いで、家の中に入る。
「相変わらず…変わらねえのな。」
その古めかしい廊下を歩きながら、葬式ぶりに居間に入るとそこには……見覚えのある人物が座布団に座っていた。
「……は?何でいやがるんだ??」
「やあ、お邪魔してるよ。やる事も済んだし、それに一年忌だからね…あいつの。」
「いやまだだろ。おい…不法侵入でひっ捕えてやってもいいんだぜ?」
「勘弁してくれよ。あの戦線を戦ったよしみでさ…それに、今日は非番なんだろ…栄介?社畜の鏡だね!」
「……ケッ。」
「ははっ、図星だね。お勤めごくろうさん!!あーでも確か今の君は警察官じゃなくて自衛隊の幹部なんだっけ?…いやぁ本当に出世したねぇ……会いたかったよ。」
「言いたい事は沢山あるが…」
黒い軍服を着た男は、背負われているやまねを見る。
「彼女…いや彼が…そうか。生き残ったのか。あのデスゲームに。」
「コイツを寝かせたいんだが…部屋とか知ってるか?」
「…ちょっ、ガン無視かよ!?…酷いなぁ。」
「生憎と…死人と話してる暇ねえんだよ。」
「死人…ね……分かったよ。」
そう言って、男は立ち上がった。
「案内してあげようか?」
「…癪だが頼むわ。」
「あいあーい。」
先導されながら男は栄介に話しかける。
「私に言いたい事があるんじゃないかな?」
「そうだな……その軍服、懐かしいな。」
「でしょ?結構気に入ってるんだ。この服。」
「それにあの頃の姿のまま…か。」
「まあね……あはっ。いいでしょ?」
「やっぱり、幻覚や亡霊の類か…酒の量、少しは減らした方がいいな。」
「ここに存在してるよ私!?何なら触ってみるかい?」
「はぁ?…気持ち悪いからいいや。」
「…っ、こいつ。一応私の方が年上だぜ?」
「その見た目で言うのかよ?説得力の欠片もねえな。」
「…ぐっ。それは否定できない…っ。」
雑談をしながら歩き続けていると、男が部屋の前で止まった。
「…ここだよ。」
「ハッ、ありがとな…亡霊。」
「だから、亡霊じゃないって。」
襖を開けてやまねの部屋に入り、布団に寝かせて毛布をかけていると後ろから何かが投げられて、床に落ちたそれを拾い上げた。
「これ…家の鍵……か?」
「戸締まりはしっかりとするんだよ、栄介。」
「それくらい分かって……は?」
栄介が振り返ると、いつの間にか男の姿が影も形もなく消えていた。
「やっぱり、亡霊だったか…いや、まさか…な。」
煙草も暫くの間は禁煙すっかと呟きながら部屋を出る。
「…栄介…さん?」
「あ?お前起きてたのかよ…」
「あの人は…一体誰なんですか?」
布団の中にいるやまねを見ずに、栄介は適当に答えた。
「俺以外、ここには誰もいなかったぜ?まあしいて言えばそりゃあ、あれだ…集団幻覚って奴だな。」
「でも、確かにそこに…」
「忘れろ…じゃあな。鍵は明日、ボンクラに渡しに行かせるからよ。」
そう言って襖を閉めて栄介は立ち去って行った。
「……。」
(とりあえず、もう今日は寝よう。)
そう思って毛布を頭まで被った。
……その翌日、目を覚ました僕は姉さんを起こしに行った。
「…あれ、姉さん?」
普段なら布団で寝ている筈なのに…屋敷中探したけど……いなくなっていた。
その後、姉さんが行きそうな場所に行ったり主治医の人にも話を聞いたりしたけど…結局、見つけられなかった。
——きっと、楓さんは見つかるぜ…俺も協力するからな。
——やまねちゃんの為なら、私も全力を出して探すよ。
——なに楓殿が!?…そ、そうか…フッ、このアタシに任せておきたまえよ。
そう言って、皆は僕の事を励ましてくれたけど…なんで…
(…絶対見つからないって思っちゃうんだろう?)
寝つきはいい方な筈なのに、今日も明日も明後日も…残りの夏休み期間中もずっと姉さんが心配で寝る事はできなかった。
それだけじゃない気がしたけど、それはーー
始まりー説明ー出会いーギルドー再会ーー策謀ー性悪ー1周目ー2周目ー願いー追想、足掻きーーー贖い
ブツッ——ザザッ……
忘却ー不明ー削除ーLOSTー排除ーー頓挫ー添削ー消滅ー虐殺ー◾️◾️◾️ー楽しい、楽しい
———消失。
「………。」
その事を考えるのは…もうやめることにした。
(…今は、姉さんを探さないと。)
そう決めて、ガチリと思考を切り替えた。
——殺戮の限りを尽くした少年は、その事を忘却…したように演じる事を決めて生きていく。
楓と再会を果たし、その偽りの決意が破綻して心が壊れるその日まで…ずっと。ずっと。
BADEND
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