拾陸話 ゲンジツ

ーーー『AI事件』(一部抜粋)


7月23日。最新の人工知能『蒲公英』を搭載した最新型のVRMMOのβ版に抽選で選ばれた千人のプレイヤーが参加した。


24日の昼頃…いつまでも帰ってこない事に違和感を持った人々が地元警察に通報。場所が場所なだけあって駆けつけた時には夜になり、元々建物を守っていた警備隊はすでに壊滅。1000人中997人が死亡、1人が行方不明。生き残ったのはたったの2人のみだったという。


その原因は、人工知能『蒲公英』の暴走だと世間ではそう言われている。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


24日の朝。


一つのビデオレターが谷口に届いた。



——やあ兄様、私だ。早速で悪いけどこれを見て欲しい。



その内容を全て見てから谷口はノートパソコンをすぐに閉じて歯噛みする。


(……マズイ、しくった。)


即座にスマホで連絡する。


「ふぁ…なによタニグチ……こんな朝早く」


「さっさと自慢の部隊を引き連れて来てくれ、場所は…富士の樹海の南部付近だ。地図は追って送るから…」


「?、??何があったの…そんなに慌てて」


「頼む…ライカちゃん。今は何も考えずに来て欲しい。君の力が必要なんだ。」


「あ、あたいの力!?……いいわよ。今回だけ特別に来てあげるわ!感謝なさいっ!!」


「ありがとう…じゃあ、また後で。」


電話を切ってから着替えを始める。



「…やまねちゃん。」



着替え終えてそう呟きながら部屋を出た。


………


……


谷口が建物付近まで来ると、入り口前で白い軍服姿の金髪赤眼のおかっぱの少女が仁王立ちしていた。軍帽からは寝癖が飛び出ていた。


「…やっと来たわね、遅いじゃない。」


「ライカちゃんさ…いや、何でもないよ。」


「っ、何よ!!言いたい事があるならハッキリと言いなさい。」


「…道中で富士カステラ買ってきたからさ、食べるかい?」


「えっ、いいの!?」


持っていたカステラが入った袋をチラ見せすると、途端に目を輝かせた。


「涎を垂らしちゃってまあ、朝食を食べてなかったのかな?」

「あ、それはっ…アンタが早く来いって言ったから…普段はこんな感じじゃないんだからね!!」


恥ずかしがって谷口をポコスカと叩いていると、黒服がライカに耳打ちする。


「ライカお嬢様…」

「ちょっと何よ!…ええ…なら殲滅なさい。」


さっきとは一転して、真剣な表情で言った。


「…中に警備隊がいるみたい。」


「警備隊……ね。中に入れてくれそうかな?」


「交渉はしたけど…今、決裂したから…これから建物を制圧するとして…んー、後6分くらいで中に入れるわよ。」


「そうかい。流石は世界最強の闇マフィア。格が違うね。」


「ふふん。潜ってきた修羅場の数が違うのよ。」


ライカが指を鳴らすと、近くにいた黒服達が、二人分の長椅子や丸テーブル、ティーカップや小皿が用意された。その大きな椅子にライカは飛び乗る様にして座る。


「…よっと。さあ朝食の時間よ。そのカステラを渡しなさい。あたいが切り分けてあげるから。」

「……分かったよ。どうせ、時間もあるし。」


渋々、谷口も座るとティーカップに紅茶が淹れられる。


(…今から考えても仕方ない…か。)


そう思いながら、建物の制圧が終わるまでの束の間のティータイムを楽しんだ。


……


「制圧…終わったわよ、タニグチ。」


「そうかい……ありがとう。」


「ねえ、本当にいいの?別にアンタを手伝ってあげてもいいのよ??」


「うん。これは私の問題だからさ。ライカちゃんが罪悪感を感じなくてもいいんだよ?」


「でも、そのチケットは元々あたいが……」


ライカの唇に指を当てて黙らせた。


「…っ!?」


「それに、この規模の部隊だ…私としては頼もしい限りだけど、そろそろ撤収しないとマズイんじゃないかな。このままだと日本は火の海になるよ?……冗談抜きで。後は私達がやるからさ…ね?」


「ふん…分かったわよ。」


撤収よ。そう言った途端、椅子や机が片付けられ上空から無数の輸送機やヘリが集まりそこからロープを垂らし、それを黒服達が登っていく。


「お嬢様。撤収準備、完了しました。」


「カステラ…美味しかったわ、また馳走なさい、タニグチ。」


「はいはい。気が向いたらまた買ってあげるよ。」


黒服に抱えられながらライカはヘリに乗り、あっという間にどこかへと消えて行った。無言で空を見上げていると複数人の声が聞こえ、心を切り替える。


「谷口様、到着しました!」


「…よし、君達はプラン通り人工知能『蒲公英』の奪取を頼むよ。」


『はい!』


「で、君達は生存者の確認。見つけ次第私に連絡よろしく〜。」


『了解です。』


「じゃあ君はいつも通り、私の護衛を頼むよ。」


「…分かった。」


谷口はスマホを取り出し、連絡を取る。


「本部にいる残りの人員で、この事件を揉み消す…は流石に無理そうだから、露見した時にマスコミどもとか警視庁とかその他諸々にある程度の圧力を入れといて。」


『えー!?……マジですか??』


「手段は問わないからさ。何、奴らの弱みを握ってるのは私達なんだ…手段とか方法はそっちに任せるよ。」


『え、いやでも』


谷口は電話を切った。その時には既に谷口と護衛と呼ばれた同年代の男しか残っていなかった。


「…そろそろ我々も向かった方が。」


「うん、そうだね。今頃、皆はやる事をやり始めてる頃だろうし…じゃあ、行こっか☆」


「…はい。」


男が先に建物へと入り、その後に谷口も続けて入った。


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それを引き起こした犯人は、主催者の棚田早八名が最有力であるとテレビや新聞といったメディアではそう報じられた。


その後、何百人もの警察が来て捜索したが、結局、人工知能『蒲公英』を見つける事が出来なかった。


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静かな廊下を2人は歩く。所々に血が弾丸が飛び散った形跡はあったが、死体は見当たらなかった。


「流石ライカちゃんだ…警備隊の死体は一箇所に集めてるのかな?」

「…そうみたいだ。」


男が先導して扉を開けてみると…そこには死体が積まれていた。


「ここはメイン会場か。単純にこの建物の中で一番広い場所だし…理にかなってはいるね。」


「……。」


「寄り道してる場合じゃないな…早速、本命に行こうか。」


「…はい。」


2人はメイン会場を出て、少し歩いた先の階段を登っていると、振り返らずに男が谷口に問いかける。


「…無理してないか。」


「えっ、私がかい?」


「…もし違っていたのなら…申し訳ないが。」


谷口はすぐに返事をしようとしたが、咄嗟に声が出なかった。


「…やはり、そうなのか。」


「……今日はよく喋るね…アレイ君。」


「…たまにはな……それに……」


「それに?」


先に階段を登りきって、谷口の方に振り返る。


「俺みたいな壊れた道具に…価値を見出してくれた恩人だ…だから、心配もする。」


「……」


「ハッキリ言うが、主…ここに来てからずっと様子が変だ。」


「……は」


見破られている事に驚きつつも、谷口は内心ではその事がとても嬉しかった。


ーー『不安?心配事??…あっはー!!…今更何を言ってるんだい、◾️◾️◾️。そんなの君にとっちゃあ、日常茶飯事だろ?そんなん考えずに進んでいいんだぜぇ〜??それを私達が側でサポートしてあげるんだしさ。』


(…ああ。そうだったな。)


谷口は階段を登りきり改めてアレイを見た。


「ありがとね、アレイ君。私を心配してくれて…もう大丈夫だから。」

「……ならいい。」


照れたのか、そっぽを向いて男…アレイは廊下を歩き出した。谷口はそれについて行く。目的地まで何も喋らなかった。


「…ここだね。」


谷口がいくつかある内の一つの個室の扉の前で立ち止まった。


「確認しようか…ここは3階でこれが、306号室だよね?」


「…はい。」


「私はこの部屋に用がある。だから、アレイ君は……」


「4階の405号室へと向かえ…か。了解した。」


アレイは谷口にある物を手渡した。


「…いざとなったら使え。」

「お、おう…ぶっちゃけ使いたくはないけどね……でも、有り難く頂いておくよ。」


返事もせずに、スタスタとアレイは廊下を歩いて行くのをため息混じりに見送りつつも、谷口はドアノブに手をかける。



「……。」



そして谷口は扉を開けて中に入った。


































































































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