第54話 相容れない存在
「意外と簡単に開けられてしまったか。少し甘く見たな」
まあいい、と利苑が一人で呟くのが、かすかに聞こえてきた。
小さく震えるコハクを大事そうに抱えた冬夜が、警戒しつつ、利苑の方に顔を向ける。
「人格が入れ替わるって……」
「たまに雰囲気が変わるんです」
コハクが抱えられた腕の中でまだ震えながら、冬夜の顔を見上げた。
「言われてみれば、前に会った時とはちょっと違う気もするかな……」
冬夜が口にした言葉に志季はまた首を捻り、さらに問う。
「二重人格ってことか?」
「そこまではわからないんですけど」
すみません、とコハクが謝ると、志季は柔らかく笑みを浮かべてみせた。
「とりあえず変なやつだってことはわかったから、気にすんな」
そう言って、コハクの頭をポンポンと優しく叩く。
そこで冬夜が利苑に向けて、怒りをあらわにした。
「何でこんなことを……! コハクは関係ないんじゃないの!?」
きつく睨みつける冬夜を気に留める様子もなく、利苑はあっさりと言ってのける。
「こんなこと? その猫はお前らの仲間だからだ。私はお前ら、
「復讐って……」
利苑の口から発せられた言葉に、冬夜たちは一斉に息を呑んだ。
確かに、手紙には似たような文言が並べられていたが、まさか本当に復讐だったとは。
冬夜たちは頭のどこかで、手紙に書かれた内容を
利苑はさらに続ける。
「お前らは何をしたのかわかっているのか?
「古鬼? 昔に玖堂家が退魔したっていうあれか。やっぱり関係者だったんだな」
志季が「なるほど」と、納得したように腕を組む。
「でも、何で古鬼の関係者が今になって俺たちを狙うの?」
退魔したのは俺たちじゃない、と冬夜が首を振って答えると、途端に利苑の表情が険しいものに変わった。
「玖堂の人間はすべて私の敵だからだ。退魔した人間はもういない。復讐するならその子孫になるのは当然だろう?」
「でも、それは古鬼の自業自得だろ。自分たちだって散々好き勝手やってきたんだから」
「……うるさい。とにかく私にとって玖堂の人間やその仲間は邪魔者だ。もちろん退魔師も全員だ」
呆れた様子の志季に、利苑は恨めしげな視線を投げつける。
そこで、冬夜が真剣な表情で一歩前に出た。
「そう。お前の言いたいことはわかった。俺たちは
「ああ、そういうことだ。わかればいい」
ようやく満足げに頷いた利苑に向けて、冬夜は改めて口を開いた。
「ところで、本物の『利苑』はどこにいるの?」
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