第28話 ホーンラビット 2024.01.04改定
28 ホーンラビット
起きたら2人で井戸で顔を洗って、そのあとフェルは王都の外周を走りに行った。
残った僕はご飯を炊いて、その間に水筒に昨日作った麦茶を入れる。
ちょうどご飯が炊けた頃フェルが戻って来た。
味噌汁を作り、作り終わったら空いたコンロで目玉焼きを4つ作る。
その間フェルはずっと素振りをしていた。
セシル姉さんと模擬戦してから、フェルはよりいっそう鍛錬に打ち込むようになった。
そろそろできるから顔でも洗っておいで、と声をかけると、肩にかけたタオルで汗を拭きながらフェルは井戸の方に歩いて行った。
目玉焼きは大きな皿にドンと入れて取り皿で分けられるようにする。
サラダはまた適当にクズ野菜から拝借した。
それでもまだいっぱい野菜は残っている。
フェルが戻ってきたので朝ご飯を食べる。僕が目玉焼きをご飯の上に置いて黄身を傷つけ、中に醤油を垂らして食べていると、フェルもそれを真似て食べた。
それにしてもお箸の使い方上手くなったよな、フェル。
「次から私もこうやって食べる」
口元にごはんつぶをつけて真面目な顔をして言うフェルがかわいかった。手を伸ばしてご飯つぶを取ってあげる。
「こんな風に大きな皿に料理を盛って2人で分け合って食べるのはいいものだな。なんだかケイともっと仲良くなれる気がする」
フェルも僕と同じようなことを考えていたようで、少し嬉しくなった。
お味噌汁もおかわりして残さず食べて、洗い物を片付けたら、今日もあの狩り場に向かう。今日の狩りのやり方は昨日寝る前にフェルと打ち合わせていた。
森の入り口でちょうど良さそうな太めの枝をフェルに切ってもらう。フェルはその太めの枝を一刀両断。切り口も綺麗だ。
この辺を斜めにと枝を持ってお願いすればスパスパ切ってくれてあっという間に10本、太めの杭が出来上がる。
「すごいなこの剣は。ケイが手入れをしてくれたのもあるが、刃こぼれひとつしない。普通の剣ならこうはいかぬぞ、きっと名のある鍛治師の作ったものに違いない。得したな、ケイ」
隅々まで剣を見ながら、フェルは感心したような表情をする。
いや、フェルの剣の腕もすごいから。
剣がよくても普通こんなにスパスパ切れないよ。
「これでも剣術レベル7だからな。こんな枝ぐらい切れて当然だ」
驚いた顔で僕がフェルを見ていたら、そう言ってフェルは少し胸を張る。形の良さそうな胸が上下に揺れた。
そのあと狩り場に向かい、いつものように橋をかけて川を渡る。
昨日刺した木の枝は回収して、太めの杭と交換した。ハンマーは持ってないので、土魔法で土を柔らかくしてから、そこにフェルが杭を押し込んで、また魔法でその土を固める。
しっかり奥まで差し込めてる。これなら安心だ。僕はエサの用意をして、フェルはホーンラビットを結ぶロープを作る。片方に輪を作っておいて、すぐ杭にかけられるようにした。まな板と包丁を河原に用意して、準備は終わり。
ウサギ狩りの時間だ。
エサを広範囲に撒いて、少し離れて様子を見る。
もう弓は使わないことに決めた。使えても最初の方だけだし。僕はフェルの後ろで素材の回収に専念する。
ホーンラビットが10匹ほど出てきたところでフェルと僕は走り出す。
襲いかかって来るホーンラビットをフェルはどんどん切り飛ばしていって、合間に剣の腹や、足で蹴飛ばすなどして僕のところに放ってくる。
すごいなぁ。本当にフェルはすごい。フェルがいなかったら僕はとっくに王都で途方にくれてただろうな。
美人で、可愛くて。なんか最近少し心を許してくれてるみたいだし、出会った頃よりずっと優しい表情をするようになった。
今のフェルの方がずっと好き。ずっと2人でいられたらいいな。
お金が貯まって部屋を借りる時、一緒に住みたいって言ったら断られるかな。変な下心があるって警戒されちゃうだろうか。
ホーンラビットを回収しながらそんな不純なことを考えていた。
ある程度狩りに目処がついたので、僕はフェルから離れて血抜きに取り掛かる。
昨日解体を習った成果か、手際良く捌いてウサギをどんどん川に沈めていく。
フェルがホーンラビットを5匹ぶら下げて河原にやってきた。お疲れ様と声をかけて麦茶の水筒を渡した。
フェルがそれを飲んでいるうちに血抜きは終わり、僕はホーンラビットのツノを落としていく。頭は帰り道森に投げ込むつもりだった。
2回戦目の用意をする。
まずは森側に10メートル。その範囲をまた草むしりして、だんだんと森に近づいていくようにするのだ。
草むしりの土魔法はなんか精度が上がったみたいで、前より広範囲の土を柔らかくすることができた。10分もかからず一気に草むしりができた。
何故だろう。レベルアップとかあるのかな。前より魔法を使うのが楽だ。
同じことをもう一度繰り返して、3回戦目が終わったらもうお昼だ。河原で2人で塩結びを食べた。
梅干しとかどこかで売ってないかな?自分で作れたりしないだろうか。
紫蘇は山で見つけたけど、梅はなかったんだよね。野菜売りのおじさんなら知ってるかな。
のんびり河原で休んでから、狩りを再開する。
休憩後、1回目は良かったけど、2回目はホーンラビットの数がちょっと少なかった。
もっと森に近い方がいいのかなと思って、3回目は森側に20メートル草むしりをしたけど、やっぱり2回目と変わらない数だった。近くに気配はするんだけどな。
もしかしてホーンラビットにもエサを食べる活動的な時間とかあるのかな。午前中の方が活発だったりして。魚釣りみたいに狩るのにいい時間とかあるのかも。
その日はもうそれで帰ることにした。
ウサギの死体をマジックバッグを使い数えてみたら131体。
薬草は21本あった。これはポーションにしちゃおう。初級ポーションのもう1つの材料であるヒール草は、狩り場の上流にいっぱい生えていたので、帰りに必要な数を採取した。
抜いた草はちょっと思うところがあったのでマジックバッグに入れておいた。
131個、頭を森に投げ込むのは結構大変だった。
森に入れれば楽なんだけど、律義に外から一球一球投げ込んだ。
ギルドで精算してもらうと、銀貨28枚になった。
おまけしてやったからお前も手伝え、と昨日の主任のおじさんに言われて、おじさんと2人で、ものすごいスピードで捌いた。
フェルは食堂で待つと言っていたので、解体が終わってそこに向かうと、フェルはセシル姉さんと2人で果実水を飲みながら話していた。
セシル姉さんに挨拶してフェルの隣に座り、店員さんに果実水をオーダーする。
「すごいじゃないかアンタたち。131体だって?さっき解体の若いやつから聞いたぜ。新記録ですって真顔で言ってたぞ。
フェルから解体を手伝ってるって聞いたけど、もう全部解体は終わったのかい?」
セシル姉さんは興奮気味に僕らに言った。
「主任さんと2人でやったので思ったより早く終わりました。2人で半分ずつ。報酬だって言われてホーンラビットのお肉をもらっちゃいました」
「主任って……あー、ダンか!あいつとおんなじスピードで捌けるってのもすごいぜ。お前解体のスキルとか持ってんのか?ダンのやつ王都で1番解体が上手いんだぞ」
「スキルはわからないですけど、解体はその主任さんに教えられたので。ツノは狩り場で外して来たから、あとは身体を捌くだけだし、大した手間ではなかったですよ」
「手間じゃないってそりゃ、あんた自覚がないのかい?新人でそんな解体の上手いやつに会ったことないよ」
セシル姉さんは真顔で僕に言った。
「よし、なんかアンタたちのことが気に入った!明日アタシもその狩りを手伝ってやるよ。どうせ明日も狩るんだろ?この辺でホーンラビットがそれだけ狩れるって南の森の横の荒れ地しかないよね。アタシたちも新人の頃よく入ってたよ。草が邪魔だが、頑張ればけっこうな数狩れるからね。アタシたちは1番多くても日に50体ぐらいだったけど、それでも当時は銀貨10枚貰えて嬉しかったもんさ」
セシル姉さんは早口でそう言う。
「その荒れ地の草、けっこうむしって、広い運動場みたいにしちゃったんです。誰も来ないし、別にいいかと思って。大丈夫ですかね」
「ますますちょうどいいよ。今度やるゴブリンの拠点の攻略作戦は、アタシらのパーティだけちょっと別行動することにしたんだ。こっちも少し思うところがあってね。その荒れ地でゴブリンを誘き寄せて大量に狩ろうと思ってるんだ。ちょうど明日行って草でも刈っておこうかと思ってたところなのさ」
セシルさんは何故か嬉しそうに話す。
「よし、決まりだ。アタシはただのお手伝いだから明日は報酬は要らない。その代わり少し荒れ地の草を刈るのを手伝っておくれ。明日のあんたたちの動きを見させてもらって、問題なければ今回の作戦に特別に混ぜてあげる。報酬もみんなで山分けにしようじゃないか」
フェルが不安そうな顔をする。
「ああフェル、心配しなくてもケイには離れた場所で弓矢を使ってもらうつもりだから、危ないことはないよ。あんたは前衛に入れるけど、ケイはサポートに回ってもらう。もし手が空いたならそのときは弓で攻撃すればいいし、前衛が抜かれてもなんとかなるように、その辺は上手くやるからさ。まぁお姉さんを信じて全部任せなって」
そうセシル姉さんが言うと、フェルは安心した表情をする。
明日は門が開いて、おじさんから野菜を受け取ったら、そのまますぐ狩り場に向かうことにしていたので、とりあえず南門の前で6時半に待ち合わせをすることにした。僕たちは時計を持っていないけど、門のところには大きな時計があるから問題ない。
セシル姉さんと別れて市場で食材を買い足してから、ゼランド商会にテントを買いに向かった。
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