第20話 ギルド

 20 ギルド  

 

 店を出るときにサイモンさんに冒険者ギルドの場所を聞いたら、「門を入ったところにでかい建物があったの、気づかなかった?」と呆れた顔で言われた。


 はい。確かにありました。それっぽい建物が。


 駆け足でギルドに向かう。


 時間は2時前。早く登録しないと依頼が受けられない。


 ギルドに入ると中は閑散としていた。

 ちょうど空いてる時間だったのだろう。急いで受付に行く。


「すみません、冒険者登録をお願いしたいのですが」


「登録ですね。何か身分を証明するものはお持ちですか?」


 金髪の優しそうなお姉さんが対応してくれる。

 僕は身分証、フェルはさっきもらった証明書を出す。


「はい、お預かりします。えーとケイさん?年齢は15歳、え?ほんとに15歳ですか?あ、失礼しました。問題ありません。お返ししますね。もうひとりの方は……すみません。お名前伺ってもよろしいですか?あ、フェルさん。ではちょっと簡単にご説明しますね」


 見本としてギルドカードを引き出しから取り出して受付のお姉さんは説明を始める。見本のカードにはFと大きめの文字で書いてある。


「特別な紹介がない限り皆さん一番下のFランクから始めるのですが、1つだけ注意がございます。最初に登録いたしまして、そこから3ヶ月依頼を受けませんと、ギルドカードは失効になってしまいます。これはFランクだけに適用される決まりでございまして、Eランクからは減点処分で済むのですがFランクは登録が抹消されてしまいます。なので、まずは3つ、簡単な依頼をこなしてください。そうすればひとつ上のEランクに上がれます。そうなりましたらそれからは1年に一度、簡単な依頼を引き受けるだけで、身分証としてお使いいただけます。依頼は難しい依頼ばかりではございません。街中での配達の仕事など女性でも簡単にできる仕事もご用意しております」


 受付のお姉さんはマニュアルでもあるのか、フェルのことを身分証を作りにきただけの人だと思って流れるように早口で説明する。


「あのー、大体の話は人から聞いてますので説明はそのくらいで大丈夫です。それで、言いにくいんですけど……僕たちとにかくお金がないんです。ここに来る途中で、冒険者の人から、登録料は最初の依頼で支払えるって聞きました。今から依頼をこなしてお金を払いたいんです」


 受付のお姉さんはちょっと驚いた表情をしてから、その表情を曇らせ、気の毒そうに僕たちを見る。


「すみません。その制度は3年前に終了してしまったんです。カードだけ受け取っていなくなり、そのあとその身分証を悪用する事件が相次ぎまして…」


 少し沈黙が続いた。


「失礼ですが、今手持ちでおいくらくらいお持ちでしょうか?」


 僕が銅貨で26枚だと答えると同情した顔で受付のお姉さんが言う。


「それは……確かに厳しいですね。1人だけギルドカードを発行して、依頼を受けてもらうにしてもこの時間ですと、そんなに稼げる依頼はありません。森での薬草採取で、ギリギリ登録料に届くか届かないくらいか…でも森には魔物がおりますし、かなりリスクもございます。ギルド側といたしましたらあまりオススメできるようなやり方ではないのですが……」


 受付のお姉さんが困っているのに気づいたのか、奥からスキンヘッドのガタイのいい年配の男性がカウンターに来た。


「どうした?なんか揉めてんのか?」


 そう言ってスキンヘッドの男が書類を覗き込む。

 受付の女の人がその人に事情を説明すると。

 その男は顎髭を撫でながら、


「なるほどな。金がなくて登録もできないか。明日また出直せって言ってもな、金が無いことには変わりない。宿にも泊まれねーしな。そこの2人、もう少し近くに来い。ちょっと顔をよく見せてみろ」


 そう言われてカウンターに近づくと、その男が僕とフェルの顔を順番に覗き込む。


「んー。まあいいだろう。この登録用紙に名前と出身地、それから自分の歳をかけ。他は空欄で構わないぞ」


 そう言ってその男は僕とフェルに登録用紙を渡す。


 登録用紙に記入して用紙は受付のお姉さんが回収した。

 男はギルドカードの発行をするように指示してから、僕らに地図を見せて説明を始める。


「いいか?これがそこにある南門だ。こっから30分ほど南西に行けば森がある。そこで薬草を4束集めてこい。ひと束10本だぞ。多少痛んでいてもいいから急いで集めてこい。南門は6時で閉まるからその前には帰ってこいよ。あまり森の奥には行くな、ゴブリンが出るからな。浅いところでも今ならけっこう取れるはずだ」


「あの、僕たちナイフくらいしか武器を持ってないのですが、それでも大丈夫ですか?」


「なんだ武器もねえのか。浅いところなら大丈夫だと思うが……確かにちょっと危ねえかもしれんな」


「ギルドで何か中古の武器とかないですか?僕たちが買える値段の」


「中古って言っても、最低でも銀貨数枚するぜ。お前らほとんど金がねえんだろ?」


「お願いします。木刀でも何でもいいんです。武器になりそうなものをください!」


 そう言って深く頭を下げる。


「木刀はさすがに倉庫にはねえな。あー、ボロボロの剣ならあるぜ、たしか誰かが拾ってきたやつが。錆びてて全然切れないが、素材はそこそこ優秀でな。まあ木刀の代わりにはなるだろう。それなら譲ってやってもいぜ」


 それでもいいから譲って欲しいと言うとその男は奥に引っ込んでいった。

 入れ替わりで、受付の人が戻ってくる。


「ではこちらのカードのこの部分に血を1滴垂らしてください。はい、あ、もう大丈夫ですよ。お待たせいたしました。こちらがお2人のギルドカードになります。申し遅れましたが、わたくし、サリーと申します。依頼を受けて戻られましたら、わたくしをお呼びください。登録料の件もあわせましてこちらで精算致します」


 サリーさんは早口でそう言った。

 ギルドカードを受け取って見ると自分の名前、年齢、とFと大きく書かれた文字。

 裏面を見ると何か書き込めるようになっていたが、僕たちのギルドカードには何も書かれていなかった。


「待たせたな、これなんだがいいか?ちょっとそっちの嬢ちゃん、振ってみろ」


 男が戻って来てフェルに錆びたボロボロの剣を渡す。フェルはそれを2、3度振り、問題ないと言う。


「金は……そうだな、お前らいくら持ってるんだっけ?」


 そう聞かれて銅貨26枚と答える。


「じゃあ銅貨5枚でいいぜ。サビを落とせばまだ使えるかもしれねえが。そのままでも殴る分には、硬えし使えないこともないはずだ。カードは受け取ったか?そしたら早く行ってこい。薬草40本はけっこう大変だぜ。門が閉まる前に急いで帰ってこい」


 そう言ってその男性はギルドの奥に引っ込んでいった。

 

 僕たちはギルドを出て、急いで森に向かった。















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