フェル 森で助けた女性騎士に一目惚れして、その後イチャイチャしながらずっと一緒に暮らす話

カトウ

第1話 出会い

 1 出会い


「じいちゃん行ってくるね!」


 いつものように家を出て、いつものように山に行く。


 僕の住む村はこの王国の端にある。

 一応、領主様がちゃんといるのだけど、領主様の住む街は遠すぎて会った事はない。


 もちろんただの村人が領主さまに会う機会なんて普通はあるわけがないのだけれど、うちの村から一番近くの街まで、歩いて3日、馬なら1日かかる。

 たぶん領主様の住む街までは歩けば10日以上かかるのではないだろうか。

 領主様もわざわざこんな辺境の小さな村に視察に来ることなんてない。


 村には日用品を売っている雑貨屋が一軒あるだけで、他には何もない。田舎の中の田舎。

 キングオブど田舎だ。


 これから始まるのは僕と、そして不器用だけど、とても美しい女性騎士の話だ。


 ここで僕のことを少し話そうと思う。


 僕には前世の記憶がある。

 とは言っても前の人生でどんな暮らしをしてたかとか、どんな風に生きていたかとかいう記憶はぼんやりとしていてほとんど思い出せない。

 前世の自分の名前さえも思い出せないんだ。

 覚えているのは地球の、日本という国の知識だけ。

 あとはなんとなくだけど、前世の僕は料理を作る仕事をしていたような気がする。

 料理に関する記憶がやたらと多いからだ。


 実際この前世の記憶が、今まで役に立ったことはほとんどない。それはここがど田舎すぎるからだ。


 何か便利なものを作ってもらおうとしても、村に鍛冶屋はないし。美味しい料理を作ろうとしても村に売っているのは塩と砂糖しかない。砂糖は村では貴重品だからそんなに買えない。

 それでも、少しでも美味しいものが食べたいから、こうして山に行って食材をさがしているところなんだけど。


 僕が10歳になった頃、両親は山で魔物に襲われて死んだ。父は狩人で、母は薬師だった。

 それからはじいちゃんと2人で暮らしている。

 父からは弓を、母からは薬草の知識と簡単な製薬の仕方を教わった。

 素材さえあれば僕でも中級ポーションまでは作れるんだけど、ここでは山奥までいかないと必要な素材が取れないので、今は初級ポーションしか作れない。


 両親が亡くなってもう5年になる。


 僕は今15歳。

 あと2ヶ月くらいで16になる。


 生まれた月に関わらず、この国では年が明ければみんなひとつ歳をとる。

 今は秋なのでたぶんあと2ヶ月くらい。

 村にはカレンダーのようなものがないので、だいたいしかわからないんだ。

 村長の家には今日がいつなのか知らせる魔道具があるみたい。

 その魔道具を使えば、今がどの季節の何日目かわかるらしい。主に種まきの時期を知るのに使われている。

 その魔道具を使って、年が明けたことは村長が教えてくれるのだ。


 年が明けて春になったら僕はこの村を出るつもりでいる。本当は今年の春に村を出るつもりだったんだけど、村に残していくじいちゃんのことが気になって決断できなかった。

 けれどじいちゃんには、来年村を出ることはもう伝えている。

 その方がいいとじいちゃんも賛成してくれた。


 じいちゃん以外に特に別れを惜しむような友達はいない。小さい頃から前世の記憶のせいで変に大人びた子供だった僕は、村の同年代の子と仲良くなれなかった。


 2つ年上の村長の息子とはかなり仲が悪くて、大人になった今もその関係は最悪だ。

 このままいつか息子が村長になったら、この村に僕の居場所はなくなるだろう。

 ときどき村に来る行商人に自分で作ったポーションを売って少しだけどお金も貯まった。

 独立する準備は着実に進んでいる。


 あ、鹿がいる。


 少し森が開いたその場所に鹿が2頭、日光浴をしてるように佇んでいる。

 秋ももう終わりに近づいて、日差しもだいぶ柔らかくなってきた。木々の隙間からこぼれ落ちる光が優しく鹿たちを照らす。


 息を止めて慎重に弓を引き、狙いをつけ矢を放つ。


 しかし放った矢は直前に気づかれて鹿は逃げてしまった。


 僕の狩りの腕なんて所詮こんなものだ。鹿なんて10日にいっぺん獲れればいいほう。


 僕にチート能力なんてない。


 この世界は魔法があると聞いてワクワクしたけど僕が使えるのは生活魔法だけ。


 一応、火、水、風、土と満遍なく使えるけど、

 火は種火になる程度、水は水道の蛇口くらいの水が出て。風は扇風機程度、土の生活魔法は土が柔らかくしたり、固めたりできる。

 庭で薬草を育てているんだけど、その家庭菜園くらいにしか使えない。

 雑草を抜くときに便利だって程度だ。

 魔法の才能も僕にはなかった。


 ため息をついて矢を回収に行く。


 僕の矢は、動かない的には結構当たるけど、動くものにはあまり当たらない。

 獲物の狩り方を教えてもらう前に父は亡くなってしまった。

 今は父の残した装備を大切に使って、山で狩人の真似事をしている。

 はっきり言えば、僕は狩人に向いてないと思う。狩りが下手なのだ。


 外してしまった矢を回収する。けっこう遠くまで飛んでいた。外してしまった矢を拾って、食べられる野草でも探して今日は帰ろうかと、辺りを探してみることにする。


 あれ?なんだろ。

 少し離れたところで何か光った気がする。


 近くに行って見ると人がうつ伏せで倒れていた。鎧を着てるけど、髪が長いから女の人だろうか?

 慌てて駆けつけて、体をひっくり返し仰向けにする。


「大丈夫ですか?意識はありますか?」


 肩を軽く叩きながら声をかける。

 返事がない。息はしてるが、意識はないようだ。

 額から血が流れている。もうほとんど乾いているが、頭に怪我をしているようだ。

 タオルを濡らしてその血を、できるだけ慎重に拭いた。

 綺麗な人だな。

 その女の人は今まで出会ったことのない、美しい顔をしていた。


 思わずしばらく見惚れてしまう。

 こんな人が彼女だったら幸せだろうな。 


 おっと、早くケガの確認をしないと。


 はっと我に返って傷の手当てを再開する。頭の傷はそんなに深くはない。

 体は、どうかな、あんまり触るのも悪いし、どうしよう。

 足首の方を見たら、左足が少し変な方に曲がっているのに気付いた。

 ブーツを脱がすとどうやら折れているようだ。

 マジックバッグから中級ポーションを取り出す。マジックバッグは父の形見、中級ポーションは母が作った在庫の残りだ。


 きれいな布を出してポーションで湿らし、頭の傷を押さえるように拭いてやる。すぐに傷は塞がって跡も残らない。よかった。ちゃんと効いてる。

 あとは飲ませればいいと思うけど、足が変な方向で固まってしまうのも怖いな。


 ちょうど良さそうな木の枝を拾ってきて折れた足を固定する。

 痛みでが女の人が少しうめいた。


「ごめんねー!足が折れてるから少し固定するね。ちょっと痛いけど我慢して」


 声をかけながら枝で足を固定する。


 首に手を回して女の人の体を少し起こして声をかける。


「中級ポーションだよ。頑張って飲んで」


 女の人の口にポーションの瓶をあてがった。


 女の人は薄く目を明けて少し僕を見て、弱々しく頷いた。

 少しずつ、ゆっくりとポーションを飲んで、女の人はまた意識を失った。


 困ったな。

 とりあえず家に連れていくしかないか。













  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る