詩③ 傘を貸す親切のお話
ある青年は傘の無い少女を自分の傘に入れて家に送ってあげた。
少女はとても喜んで、彼は彼女の笑顔に心打たれた。
それはいい思い出だと青年は思っていた。
ある日、青年は雨が呪いによって人を蝕む災害に出会う。
この日ばかりは傘を忘れてしまっていた。
傘を持たぬ青年は自らの死が近いと思った。
しかし、近くの老人から傘を一本かしてもらう。
「よいのですか?」
青年は相手の事を気遣うようにして語る。
「いいんだよ、二本持っているからね」
老人は珍しく二本傘を持っていた。そういうこともあるものか、と思ってお礼を言うと。彼はこういった。
「おじいさんも同じ二本もっている少女に出会ったのだよ」
青年は老人から少女の話を聞く。
ある日傘を忘れた老人は、傘を二本持っているという少女に貸してもらう。聞けば、少女は昔傘を貸してもらったことを嬉しく思った経験があるらしい。それ以来、傘を持ってない人用の傘を持つようになったと。
その少女は二つの傘を持っては人に貸して回っているのだ。
老人はその子に感銘を受けて、自分も傘を二本持つようになったのだと。
と、その話を聞いて、青年はふと傘をかした少女の事を思い出す。
あの笑顔の少女ではないだろうか?何となくそう思う。
ふとした自分の親切が彼女の喜びに繋がり、少女はそれから人に傘を貸すようになった。それは自分が喜びを覚えていくためであり、自分の喜びを他者に与えたいと思ってからだ。彼女は人に喜びを与える儀式を繰り返し、何度も再帰するのだ。傘を貸してくれた……その喜びの日に。
雨が止み、災害が通り過ぎていく。青い空が見える。
彼女は今でもこの空の下で、二本の傘をもって誰かに貸しているのだろうか?
元気に、あの時の喜びの笑顔を忘れないで。
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