【アフターストーリー】マザー・アタック!(3)

 慌てて部屋の奥にもどり、昨日私がきていた服……スーツなわけだけど、それに着替える。

 でも、よかった。

 掃除と洗濯はしてあるから、部屋に下着が転がってるなんてことはない。

 でもこの状況、どうすれば?

 とりあえず、マユさんに連絡したほうが……


「着替えたかしら〜?」

「あ、はい!」

「じゃあ、あがるわね〜」


 ひぃぃぃぃ、スキがナイ!

 パニックだ。

 過去にないくらいのパニックだ。

 とにかく、失礼のないようにしなくては!


「あ、何か飲みますか?」


 まだ目を合わせるほど心の余裕がなく、パタパタと台所に逃げ込む。


「あら、何があるのかしら?」

「珈琲と、紅茶と……あっ、あとインスタントならチャイもあります」

「ふうん。じゃあ、珈琲をお願いできる?」

「はい! ミルクは……豆乳しかないんですが」

「じゃあ、豆乳でお願い」


 くすくすと笑う声が聞こえた。

 いまの返答、なにか失敗したかな?


「お昼作ってたの?」

「あ、はい。マユさ……真由美先輩、急に会社に呼び出されて、そろそろ帰ってくるはずなので」

「あらぁ、感心ね。ちなみに、何を作ってたのかしら?」

「ナシゴレンを……あとは、ご飯と一緒に炒めるだけなので……あ、お母様の分も用意しますか?」

「私、さっき軽く食べてきちゃったから、大丈夫よ。ありがとうね」

「あ、いえ……」

「あと真由美のこと、いつも通りの呼び方でいいわよ?」

「は……はい」


 大丈夫、私?

 何か、やらかしてない?

 いや上半身裸のまま抱きついた時点で、やらしてるんだけど!


「どうぞ……」


 恐る恐る目を見ながら、温めた豆乳を泡立てて作ったカフェラテを差し出す。

 お母様は笑顔で軽く会釈をし、上品に口をつける。


「それで……いろいろ聞きたいのだけど」


 ……で、ですよね。

 今の一言で私の心臓が口から出てきそうですよ、お母様。


「真由美、今朝連絡したんだけど出てくれなくって。もしかして、朝早かったのかしら?」

「あ……えぇっと……たしか、八時過ぎくらい……ですかね」

「あぁ〜じゃあ、ちょうどお家を出たころだったのね〜」

「そ、そうですね。アハハ……」


 だめ、もう無理。

 マユさん、たすけてー!


「あなた、スーツよね? 昨日は、お泊まり?」


 めっちゃ、スーツだったー!

 休日のお昼にスーツって、お泊まりしたのバレバレじゃーん!


「外に干してあるのも、あなたが洗濯したのかしら? 時間的に真由美が洗濯したわけじゃ、なさそうだけど?」

「あ、はい。昨日はお酒を飲んでしまい、ご迷惑にもお泊まりをしてしまいまして……せめての罪滅ぼしにと」

「罪滅ぼしって、アハハ!」


 大ウケされた。

 やばいやばいやばい!

 マユさん、早く帰ってきてー!


「あと……どうして、あんな格好で抱きついてきたのかしら?」

「そ、それは……間違って私の下着も洗濯してしまいまして、それで着る物がなくてですね……ついでに、マユさんをびっくりさせようと思って、抱きついてみた次第でして……」

「それはびっくりするでしょ、アハハ!」


 激ウケされた。

 マユさん、ごめんなさい。

 もう、ダメかもしんない。


「あの子、そんなに仲の良いお友達いなかったのに……あなた、珍しいわね〜」

「そうなんですか?」

「ふふ。私としてはぁ〜、半同棲してる男の人とかが出てきたらぁ〜、面白かったんだけど〜」


 すみません、半同棲してます……女ですけど。

 というか、私という存在……いつか話さなくては、ならないのでは。

 そこでまた……


 ピンポーン♪


 ナイスタイミングで、インターホンが鳴った。

 続いて、扉がトントンとノックされる。


「か、帰ってきましたね!」


 私は逃げるように玄関へ走り、藁をも掴む思いで扉を開ける。


「おかえ……えっ?」


 そこで私は、またしても言葉を失った。


「あぁ、君か。久しぶりだね。真由美、いる?」


 そこに立っていたのはブルームーンPこと、蒼井 つきさんだったのだ。

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