魔王様(仮)との共闘 その2
身を翻して突進を躱し、ステップ回避やスライディングで引っ掻きや振り回す尻尾の攻撃範囲外に逃れ、どうしても避けるのが無理なものだったり、マオを狙った攻撃だけはフラッシュガードでやり過ごす。
攻撃は確実にカウンターを当てられるか、向こうに余程の隙が生まれた時、もしくは多少危険を冒してでも大ダメージを与えられる時だけ。
我ながら消極的な立ち回りだという自覚はあるが、一回でも攻撃をまともに喰らえば一発KOも十二分で有り得る状況だ。
多少DPSが落ちることになったとしても、最優先はとにかく生き残ること——二対一の数的優位を保ち続けることだ。
それが一番勝算があって戦闘内容の安定にも繋がる。
何故なら、
「ブレイ、術を発動するわ! 合わせて!」
「了解!」
グラトニーリザードが僕と叩き潰そうと、右前脚を大きく振り上げた瞬間、
「アイスエッジ!」
「雷刃衝!」
——氷と雷の交錯。
マオの魔術によって放たれた氷塊の刃がガラ空きになった腹部を切り裂き、僅かに怯ませたところにすかさず僕が追撃に雷撃の一閃を傷口へ叩き込む。
更にもう一撃パワースラッシュ……は無理そうだから普通の斬撃を浴びせた直後、フラッシュガードで振り下ろされる右脚を受け流す。
「くっ!!」
盾と接触した途端、重い衝撃が全身に伸し掛かる。
HPを確認すれば、ゲージが残り一割を下回っていた。
——そろそろ回復しないと、か……!
ギリギリまで我慢していたけど、流石にこれ以上はフラッシュガードでも耐えきれない。
「マオ、ごめん! ちょっと離れる!」
「承知したわ。ここは私に任せて慌てずに回復なさい」
「うん、ありがとう!」
礼を告げながら僕は、グラトニーリザードから距離を取り、回復術の発動待機に入る。
当然、発動待機中は無防備な姿を晒すことになる。
かなり遠くまで離れたものの、術を発動させるのはギリギリ間に合うかどうか……
恐らくここが一番の負けポイントだと思われる。
——尤もそれは、僕一人で戦っていたのであればの話だけど。
「——マジックルイン!」
僅かな発動待機を挟んでからマオが純粋な魔力の弾丸を放つ。
魔術士の初期スキルである攻撃術が僕を追いかけようとしているグラトニーリザードの背面を捉えると、
「さあ、おいでなさい。少しの間、私が遊んであげるわ」
マオは不敵な笑みを浮かべ、綺麗な所作で手招きしてみせた。
グラトニーリザードがゆっくりとマオの方を振り向く。
刹那——狙いを僕からマオに変え、凄まじい勢いで彼女に襲いかかる。
本来なら後衛が接近されるなんて状況はピンチ以外の何者でもない。
けれど、マオは余裕たっぷりな微笑みを微塵も崩すことなく、猛攻の悉くを躱して見せる。
加えて僅かな隙を見つけては、きっちり反撃のマジックルインを放っていた。
「凄いなあ……!」
術の発動に注力しつつも、マオの身のこなしに思わず感嘆の声を上げる。
僕よりも敏捷が低いはずなのに、全くそれを感じさせない軽快な足運びだ。
いや、軽快というより……のらりくらりって表現した方が近いかな。
何にせよ、自らを魔王と豪語するだけの実力は確かだった。
これだけ立ち回れるならソロで挑みに来るよね。
納得しつつ、僕はようやく発動準備の整った術を発動させる。
「ファーストエイド!」
全身を淡い緑を帯びた白の光が包み込み、消失していたHPが全快する。
直後、グラトニーリザードがマオへ攻撃するのを中断し、狙い澄ますようにして僕に振り向く。
回復した途端にターゲット変更……ヒーラーを優先して狙う仕様でもあるのかな。
でも、今は逆に好都合だ。
ヘイト管理をしなくても勝手にさっきの状態に戻してくれるから。
「マオ、お待たせ! ここからは僕が引き受けるよ!」
「分かったわ! 頼むわよ!」
そして、その後も何度かマオと囮役を交代しながら着実にダメージを積み重ねていく。
繰り返すこと計五回、戦闘が始まってから六度目の回復を終えてから少し経った頃だった。
「——っ、ブレイ!!」
唐突にグラトニーリザードの行動に変化が生じる。
頭上に影が覆い被さると同時、マオの慌てた叫び声に身体が咄嗟に反応する。
盾を構えつつ、全力で後ろに飛び退く。
数瞬遅れて頭上を見上げれば、グラトニーリザードが後脚で立ち上がりながら大口を開いていた。
「あ、まずい……」
ドラゴン型のモンスターが敵に向けて口を開いたとなれば、次に何が起こるかなんて容易に想像がつく。
案の定と言うべきか、次の瞬間、視界一面が灼熱の炎に包まれた。
——火炎ブレス。
全身を焼かれかけるも、間一髪のところで火炎の範囲外に逃れる事には成功する。
回復したばかりのHPがまた半分近く減っちゃったけど、九死に一生を得ただけでも僥倖と言うべきだろう。
「ありがとう、マオ。君がいなかったら間違いなく今ので死んでたよ……!」
「どういたしまして。それよりも……厄介なことになったわね」
「……うん。ドラゴンと炎の息はよくある組み合わせだけど、あんな感じに足元に向かって吐かれると迂闊に近づけなくなっちゃうもんね。攻撃範囲も広いから、近づき過ぎると離脱が間に合わなくなりそうだし」
本来であれば、こういう時には術スキルに攻撃方法を切り替えて……って、いきたいところだけど、あのドラゴン、火属性に耐性ありそうなんだよなあ。
だから、ファイアボールを撃ったところで大したダメージにはならないと思う。
ファイアボールで攻めるのは完全な無駄行動……とまで言うつもりはないけど、だったら雷刃衝かファーストエイドのどちらかにMPを使いたいかな。
「とりあえずあの炎ブレスには注意しながら、ヒットアンドアウェイを徹底してより堅実に攻めて——っ!? マオ!!」
「きゃっ!?」
叫ぶと同時、僕はマオを抱えて地面に飛び込んだ。
背中を熱い何かが掠めると、後方にあった壁に激突し、爆散する。
振り向けば、何かがぶつかったであろう岩の壁がドロドロに融解していた。
直撃していれば、まず間違いなく一撃で消し飛んでいたと思われる。
辛うじて避けれはしたけど……それよりも、だ。
「急に押し倒しちゃったりしてごめん。大丈夫?」
「え、ええ……謝らなければならないのは、むしろ私の方よ。ごめんなさい、助かったわ。油断していたつもりはないのだけど、まさか異なる炎ブレス——火球ブレスも使ってくるなんてね……!!」
淡々と言うマオの額には冷や汗が流れている。
「それに加えて、今の攻撃……気づいて?」
「……うん。今のは——」
「——明らかに私を狙った一撃だったわ。さっきまで貴方にヘイトを向けていたにも関わらず……ね」
近づけば広範囲に拡散する火炎を吐かれ、離れたらプレイヤーを狙い撃つ強烈な火球が飛んでくる。
……うん、なんかいきなり負けイベ感が漂ってきたなあ。
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