コンセプトは勇者らしく

 ——ロールプレイングゲーム。


 まだゲームに使える容量がバイト単位だった古の時代から存在するこのジャンルは、僕——結城和臣かずおみが最も好きなゲームジャンルだ。


 自分の分身となる主人公を操作して広大な世界を冒険し、立ちはだかる数々の苦難を乗り越え、最後に世界を救い、大きな宝を手に入れる。

 そこに至るまでの過程は、まだ幼い頃の僕をただひたすらに夢中にさせる魅力があった。


 まだ十七年の人生ではあるけど、僕が今までに遊んできたRPGは多種に渡る。

 フルダイブ型のVRゲームは勿論のこと、2Wayerを始めとした据え置き型や携帯型といったように機種を問わずに、国民的と謳われるまでのメジャーどころから隠れた名作と呼ばれるマイナー作品、果ては上手く褒め言葉が見つからない評価に困るようなゲームも一通り網羅してきた。


 少なくとも、人並み以上にはRPGをやってきた自負はある。

 だからこそRPGについてはそれなりに語れる自信はある。


 ストーリー、戦闘システム、グラフィック……etc。

 RPGの好きな要素を挙げれば色々あるけど、中でも一番はやっぱり主人公——つまり勇者の存在だ。


 どんな困難や恐怖に立ち向かう勇気。

 弱きを助け、強きを挫く為に奔走する優しさと誇り高い精神。

 己の信念や使命を全うしようとする強い覚悟。


 これらの要素は、僕を勇者という存在を好きにさせるには十分過ぎた。

 だけど、僕が勇者に魅入られる最大の要因になったのは——勇者の戦い方だ。


 様々な武器と多彩な魔法を使い分けて強敵を討ち倒していくその戦い方に幼い頃の僕は、どうしようもないくらいに魅入られたのだ。

 僕が昼休みにやっていたデビクエ4の主人公がまさにその戦い方の体現者だった。


「はは……本当、我ながら変な理由で好きになっちゃたなあ」


 でも、それが紛れもない事実なのだから仕方ない。

 苦笑を溢しつつ、僕は今し方フルダイブ用のVRデバイスに挿入したゲームソフトのパッケージを眺める。


 アンラベル・ジェネシス——通称”アンジェネ”。 

 今から丁度二ヶ月程前に発売されたフルダイブ型VRMMORPGで、サービス開始から僅か一ヶ月足らずで歴代のVRMMORPGの登録者数と同時接続人数をぶっちぎりで上回ったというVRゲーム史上最高傑作と名高い作品だ。


 ゲームの舞台は、昔のRPGによくあった古典的な剣と魔法のファンタジーの世界をベースにしながら、魔導科学という数千年前に滅亡したオーバーテクノロジーがある事でSF要素も上手い具合に組み込んであるという。

 とはいえ、この手の設定は、The・TaleシリーズとかFrist・Fabulaシリーズとかでも見られるからそこまで珍しい訳ではない。


 じゃあ、何がアンジェネを爆発的なまでの人気作に押し上げたのか。

 それは単に他の追随を許さない圧倒的なクオリティと自由度にあった。


「……よし、準備も整ったし早速プレイしてみようっと」


 期待を胸に僕はベッドに横たわり、ゲームを開始することにした。








 MMORPGの醍醐味の一つといえば、操作キャラの見た目を好きなように調整することができるキャラメイクにあると僕は思っている。


 ゲームの世界に自分という存在を根差して楽しむ以上、操作キャラの見た目は大事な要素になり得る。

 だから人によってはリアルの自分の姿を反映させたり、理想の自分の容姿にするべく何時間もかけて設定する人もざらだというが、既存のプリセットを組み合わせるだけでも個性あるアバターを作れそうなくらい選択肢に溢れていた。


「うーん、これだけ多いと悩むなあ……」


 僕自身としてはアバターの見た目にあまり拘りはないタイプだが、パーツごとに膨大なプリセットがあると、どれにすればいいのかすぐに決められなくなる。

 けどこうやって時間をたっぷり使ってキャラの見た目を固めていく一見すると無駄に思える作業を経ることで、よりゲームの世界を楽しむ為の布石になる。

 なので、折角だしここはじっくり決めていくとしよう。


 それから暫くして。

 完成したアバターの見た目は、亜麻色の髪で碧眼の青年だった。


 モデルはデビクエ4の主人公だ。

 キャラメイクのあるゲームでは、彼を参考にして見た目を決めている。

 僕の唯一の拘りだ。


 キャラメイクが完了すれば、次はジョブ設定だ。

 画面が切り替わり、表示される職業の数に僕は思わず息を巻く。


「うわ……凄いな。職業と適正武器の組み合わせでジョブ決まるから、数がとんでもない事になってる」


 職業や適正武器によって初期ステータスにパラメーター補正、それにスキルの習得しやすさが変わるというから、ここは慎重に選ばないとだけど、何のジョブにするかはもう決めてある。


「騎士(片手剣使い)……うん、これで決定っと」


 騎士系統は全体的なステータスのバランスが良いだけでなく、装備可能な武器の種類が多く癖もない謂わば初心者向けのジョブだ。

 その代わりにステータス補正が複数に掛かることで補正値が低く、そのせいで特化ビルドとは相性が悪いから、上級者になるに連れて採用率が低くなっているらしい。


 まあでも、今のところ特化ビルドにする予定はないから騎士でいいかな。


 ジョブが決定したら、次に設定するのは”スキルシード”の設定だ。

 恐らくこれがアンジェネ独自の要素と呼べるかもしれない。


「スキルシード……そうそう、これがあったからアンジェネを始めたんだよね」


 スキルシードは、その名の通りアビリティの種だ。

 育成することでジョブの垣根を超えたスキルを習得することができ、成長させていけばより強力なスキルを習得する事が可能になる。


「えっと、どれにしようかな……」


 スキルシードは”双剣術”や”無属性魔術”といったように細分化されている。

 おかげでその数はジョブよりも更に膨大で、これによりプレイヤーの独自性が際立つようになっている。


 最初にセット可能なスキルシードは三つ。

 この三つの枠を使って何を選ぶかは完全にプレイヤーの自由だ。

 今の自分に足りないものを補うのもよし、更に自分の長所を伸ばすもよし、今後を見据えたスキルシードをセットしておくのもいいだろう。


 僕の場合であれば、不足を補う構成にするのが良いかなと思っている。

 具体的ににするかは決めていないけど、方向性はある程度固めておいてある。


 僕がこの手のキャラメイクをする際に重要視しているのは、どれだけ勇者らしい戦い方を再現出来るか、だ。

 ただ勇者と一言で言ってもこの世のゲームの数だけ勇者がいるわけで、一概にこれが満たせていれば勇者らしい構築——勇者ビルドだと断定はできない。

 でも、あくまで僕の持論として勇者ビルドには幾つか定義がある。


・全体的に高水準なステータス

・剣を中心に複数の武器を扱える

・攻撃と回復どちらの魔法、呪文を扱える


 少なくとも以上三つが僕の中での勇者ビルドの定義となっている。


「となると……これとこれ……あとこれ、かな?」


 色々悩んだ末、僕が選んだスキルシードは”治癒術”、”炎魔術”、”雷剣術”だ。

 物理職の騎士では魔法系のスキルは習得できないから、それを補うための治癒術と炎魔術、余った一枠で更に剣技に強化をかける為に雷剣術を選んでみた。


 属性を炎と雷にしたのには特に理由はない。

 強いて言うのであれば、炎と雷って勇者っぽいよねってそれだけだ。


「……うん。とりあえずは、こんな感じで良いかな」


 後からでも修正は効くだろうし、それより一刻も早くゲームを開始したい。


 そんなわけでスキルシードの設定を終えると、最後にプレイヤーネームの設定に移行する。

 だけど、これに関しては迷う必要はない。


「ブレイ……っと」


 結城→勇気→braveブレイブ→ブレイという如何にもな安直ネームだ。

 けど、僕個人としては分かりやすくてお気に入りの名前だ。


「よし、それじゃあ……アンジェネを始めるぞー!」


 そして、僕は意気揚々とキャラメイクの完了ボタンをタップしてみせた。

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