―06― ユメカ、禁断症状に悩む
どうやらわたしが格付けSSSのポーションを作ったことが世間に拡散されたようで、チャンネル登録者が増えていく一方だ。
まだ配信を始めて二日だけで、チャンネル登録者がニ万人を突破した。
フハハッ、わたしってダンチューバーの天才か。
このままわたしのかわいいさが認知されれば、華月リアンちゃんみたいになるって夢も案外簡単に叶えられるかも。
「今日も気持ちよく眠れそう」
これでさらにポーションも飲めたら完璧な夜なんだけどなー。
そう思いながらわたしは眠りについた。
はぁ……はぁ……ヤバイ……禁断症状が。
ポーションを控えていると夜中に禁断症状を発症する体質なの忘れてた……!!
わたしは三ヶ月もポーション飲めてないんだよ!
あぁ、頭が痛いよぉ!! 目がバキバキする!! 心臓がさっきからおかしい。
苦しい……!!
この苦しさを紛らせてくれるのはポーションだけなんだ!
あぁああああ、ポーションが飲みたいよぉおおお!!
そうだ今なら〈アイテムボックス〉に〈スライム一本締め〉が入っている。グヘヘ、だったらポーションを飲めるかもしれない。
あぁ、でも、今飲んだら、せっかくポーション中毒から脱して、健全な配信者になりそうだっていうのに、また元に戻っちゃうかも!
それだけはいやだぁああああああああ!!
ポーション飲みたいポーション飲みたい! けど、我慢しないと!
あぁ、わたしはどうしたらいいのぉおおおお!!
「もう朝か……」
禁断症状のせいであまりぐっすり眠ることができなかった。
寝不足だけど仕方がない。
今日もダンジョン配信がんばろう。
◆
「今日の配信は、スライムだけを狩ってレベルはあがるのか? レベルが2になるまで帰れません、をやります!」
【これは楽しみ】
【応援する!】
【がんばれ!】
昨日バズったおかげでチャンネル登録者は増えた。増えた登録者をファンにできるかは今日の配信にかかっている。
そこでなんの企画をやるか考えた結果、でた結論が耐久配信である。
耐久配信は配信界隈では人気なコンテンツだ。
けれど、体力的に何度もできないため、ここぞというときにやるのがおすすめだってネットの記事に書いてあった。
スライムだけでレベルを1から2にあげるには、どれだけ効率的にやっても一日はかかるはず。
時間がかかっても大丈夫なように、食料など万全な準備はしてきた。
「スライム狩りがんばるぞー!」
それからわたしの耐久配信は幕を開けたのである。
あー、しんど。
配信を始めてからおよそ八時間。
スライムこれだけ狩っても、まだレベル2にならないとか、ふざけてんのかな。
誰だよ、こんなクソみたいな企画考えたやつ。あ、わたしか。あはっ、あはは……。
【ユメタン大丈夫?】
【しんどそう】
「ユメカはまだまだ大丈夫ですよー! みんな心配してくれてありがとうございます!」
こんなときも笑顔でいなければいないんなんて、アイドル配信者ってしんどいな。
【休憩がてらポーションでも作ったら?】
「確かに、いいアイディアですね! 早速、スライムの素材でポーションを作ってみようと思います!」
〈スライム一本締め〉を作ったら多少気力が戻った。20匹スライムを狩ったから、ポーションの数も20本ある。
これだけおいしそうなポーションがあるのに飲めないなんて、余計しんどい気がしてきた。
あぁあああああ、ポーションのみたいよぉおおおおおお!!
「流石にもう限界……」
さらに五時間後、わたしは四つん這いで倒れていた。
足がいたーい。もう歩きたくなーい。
途中休憩を挟んでいるとはいえ、すでに13時間以上スライムを倒し続けている気がする。
倒したスライムは32匹。これだけ倒してもレベルは2にならなかった。
【企画倒れかな?】
「いえ、今日はダンジョンで一泊しようと思います! こうなるかもしれないと思い、念のため準備をしておきました!」
【そういえば、この企画レベルが上がるまで帰れませんだった】
そう、あくまでもレベルがあがるまで家に帰れないのであって、ダンジョンで寝るのはオーケーである。ふふふっ、こうなることは想定済みなわけだ。
ダンジョンで野宿するのは珍しいことではない。むしろ深層の攻略は行くだけでも1日以上かかるため、野宿が必須であったりする。
そして、ダンジョンにはいたるところに隠れ家と呼ばれる魔物が侵入できない場所がある。そこでなら安全に一泊することができるわけだ。
この一層にも隠れ家は存在するのは事前にリサーチ済み。
「おー、意外と広い」
一層のダンジョンの壁にある小さな穴をくぐると、そこには三十平米ぐらいの広さの空間があった。
わたし以外に人はいない。まぁ、一層でわざわざ野宿をしようとする探索者はわたしぐらいだろう。
あらかじめ〈アイテムボックス〉にいれておいた寝袋を取り出しては床に広げる。
あとは夕飯を食べるだけ。
このときのために、カップラーメンを持ってきたのだ。外でカップラーメンを食べるのなんか憧れてたんだよね。
ポーション作ったときみたいに沸騰させたお湯でカップラーメンに注いで待てばできあがり。
「ん〜〜っ、おいしい!」
なんでだろう? いつもよりおいしいかも!?
【おいしそう】
【おいしそうに食べるユメタンかわわ】
「ふふふっ、視聴者のみんな羨ましいですか? でも残念、これは全部ユメカのもので〜す」
そんな感じで視聴者と交流しながら食べ終える。
「今日の配信はこれで終わりです! 明日は朝九時から配信しますね〜」
【乙】
【乙】
【おつかれー】
コメントを一通り見終てから配信を終える。
ふぅ、あとは寝るだけだー! キャンプとかやったことないから、なんだかドキドキする。
意外と寝心地がいい。
今日は疲れたからぐっすりと眠れそう。あとはポーションさえ飲めたら最高なんだけどなぁ。
◆
「うっ……」
わたしは意識を取り戻す。
やばい……、持病の禁断症状が。
どうしよう!? ポーションがほしくてたまらない!?
さっきから手汗がやばいし、目はギンギンだ。どうしようもなく苦しい!!
きっと、ポーションを飲めば苦しみから解放されるどころか、幸せに浸れるんだろうな。
そういえば、〈アイテム・ボックス〉に今日つくったポーションが入っているんだった。
無意識のうちにわたしは〈スライム一本締め〉を〈アイテムボックス〉から取り出していた。
これよ、これ……!!
わたしが求めていたのは!
『ユメカ! ポーション乱用はダメ、絶対!』
頭上に、天使の衣装をきた小さいわたしが現れた。
あ、あなたは……! わたしのなかの善良な意識!!
『ポーション中毒だなんてバレたら、ファンのみんなががっかりするわ! せっかくファンが増えて投げ銭をたくさんもらえるようになったというのに、全部台無しにしていいの!?』
そ、そうよね……。
せっかくファンが増えたのに、ポーションなんて乱用しちゃダメだよね!
『おいおい、一つぐらいならポーションを飲んでもいいじゃないかよ』
ふと、天使の隣に悪魔の姿をした小さいわたしがいた。
あなたは、わたしの中の邪悪な意識!!
『よく聞け、ユメカ。今は配信を切っているんだぜ。だから、ポーションを一つ飲んだぐらいで誰にもバレやしないっての。ポーションを我慢して辛いんだろう? だったら、飲んじゃえよ。きっと最高にハイになるぜ』
確かに、悪魔の言うことももっともな気がする。
一つぐらいなら飲んでも大丈夫だよね?
『ちょっと、あなた! ユメカを誘惑するんじゃないわよ!』
『うるせぇ! お前は黙ってろ!』
『いたっ! よくも叩いたわね!』
『いてっ。てめぇ、よくもやってくれたなぁ! この! この!』
『いたっ。いたっ。わたしだって~! えいっ! えいっ!』
天使と悪魔が殴り合いの喧嘩を始めちゃった!?
わたしはどうしたらいいの……!?
『おっしゃぁあああああ、俺様の勝ちだぁあああ!!』
数十秒後、悪魔がガッツポーズをして叫んでいた。天使は隣で『バタンキュー』と言って倒れている。
『ユメカ、〈スライム一本締め〉を飲んじゃえ! 一本ぐらい飲んでもバレやしないって』
そうよね、一本ぐらいなら大丈夫よね。
よっしゃぁあああああ! わたしは飲むぞぉおおおお!!
ゴクリ、とわたしは〈スライム一本締め〉を飲むのだった。
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