第4話 秀才ポンコツお姉さん、酔っ払ってやらかす「ふはははっ! どうだどうだっ! 拙者の胸は? なかなか良い胸だろう? ほれほれっ!」

「優斗くんの幼馴染ちゃん……本当にクズだねっ! 大学落ちた瞬間に別れて、その日のうちに他の男と【幸せ】しちゃうなんてっ! 人間じゃないっ! 正体はぜっーたいダンゴムシ! アホっ! バカっ! マヌケっ!」

「しーっ! 静かにしてくださいっ! みんな見てますから……」


 酔ってしまった有栖川さんを、肩に抱きながら歩く俺。


「優斗くんパパもクソっ! 大学落ちたからって息子を追放するなんてっ! このぉぉぉ、ビックリササキリモドキっ!」


 ビックリササキリモドキって何だ……?


 家まで行くのはやめておこうと思っていたけど、


 この状態で有栖川さんを、一人にできない。


「有栖川さん……家、どこですか? 家まで送りますので」

「ふにゃふにゃふにゃ……駅からちょっと行ったマンションで……」


 もう呂律が回ってない。


 仕方ないな……


「財布、見ますね」

「ふにゃふにゃ……いいよぉ? 優斗くんになら、お金ぜーんぶあげちゃう」


 俺は有栖川さんのバッグから、


 財布を取り出す。


 ルイ・ヴィトンの、立派な財布だ。


 財布から住所がわかりそうなものを探す。


「あ、免許証だ。えーと、住所は東京都渋谷区……」

 

 俺はスマホの道案内アプリで、有栖川さんのマンションを探して。


「ふはははっ! どうだどうだっ! 拙者の胸は? なかなか良い胸だろう? ほれほれっ!」

「わっ! ちょっと! やめてくださいよ……」


 よくわからないキャラになりきって、


 俺に胸をぎゅうぎゅう押し当てる有栖川さん。


 セクハラ(?)を受けつつも、なんとかマンションを見つける。


「すげえマンションだ……」


 いわゆるタワマンってやつだ。


 普通の大学生が、一人で住むような場所じゃない。


「もしかして、有栖川さんってお嬢様?」

「ふへぁ? おじょちゃま……??」


 今は、とてもそう見えないけど。


 ……まあいいや。とにかく中に入らないと。


 ★


「うわあ……すげえ汚い……っ!」

「こらっ! きちゃないと言うにゃ!」


 有栖川さんを抱えながら、やっとの思いで部屋まで辿り着いたが。


 ドアを開けると、想像を絶する汚部屋で——


「まあいいっか……俺が住むわけじゃないし」


 玄関にそのまま置いておくわけもいかず。


「お邪魔しますー!」

「えへへ……いいよおー」


 俺はリビングまで有栖川さんを運ぶ。

 

 真ん中に大きなソファーがあったから、


 そこに有栖川さんを寝かせる。


「有栖川さん、今日はいろいろありがとうございました。じゃあ、俺は帰りますから……」

「らめぇ……っ!」


 有栖川さんが俺の手を掴む。


「有栖川さん……?」

「今夜だけ、今夜だけでもいてほしいの……っ!」

「でもそれは——」

「あたしと一緒にいるの嫌? つまんない? お金ならいくらでも払うから……お願いっ!」


 さっきまで酔っていはずなのに。


 急に、哀願するような顔をして。


「お願い……今夜だけで本当にいいから……」


 今にも泣きそうに、目に涙を溜めている。


 まるで捨てられた子犬みたいに。


 放っておけない気持ちになる。


「……わかりました。じゃあ今夜だけ泊まらせてもらいます」

「ありがとう……っ! 優斗くんっ!」

「ぶ……っ!」


 有栖川さんに抱きつかれて、


 たわなな胸に包まれる……!


「すーすー」


 寝息が聞こえる。


「朝まで、この状態かよ……っ!」

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