第26話鍛冶師ベルク 牛丼
今一度リンネ堂のスタッフを紹介しようと思う。
まずはセバス・バルバトス、グランディル従者部隊、序列3位、色々な古傷が原因で半ば引退していたところ、いつきの料理で完治、リンネ堂の執事、ホールを担当する。
リリア・ユーティス、グランディル従者部隊序列6位、セバスと同じく古傷にて引退を考えていたところ、いつきの料理で完治、まだ23という若さで完全完治した今、セバスに匹敵する程の戦闘能力を有する。
アレックス 王宮の料理人から使徒いつきの手伝いとして選抜される。
ロック 孤児、いつきの弟子になりたいとウナギ屋台の子達とは別に弟子入りした。
ニア 龍族のお姫様であり小竜、非常に可愛らしい見た目をしているが戦闘能力は高い。
シルフィエット・グランディル 通称シルフィ リンネ堂のオーナーでいつきのお目付け役、主にいつきのマネージャーだと理解してもらえれば。
とこのメンバーがリンネ堂の主なスタッフ達である。
昼にはリーズナブルな値段で、普段いつきが食べる様な洋食、和食、中華なんかをメニューに出し、夜はコース料理がメインの貴族向けの料理を出している。
料理はもちろん、治癒、病気の完治目的来るお客様が絶えない、成長促進の効果もあり、味も美味である為一般客も大勢がいつきの料理を求めている。
さて、それでは本日のリンネ堂の料理は、牛丼である!!!
ダンジョン産の炎牛とろける差しやしっかりした赤身の肉がメリハリを演出し、そこにこれまた高ランクの朱雀の卵を浄化し清潔になった生卵をつかう。
銀貨三枚ではとても食べる事はできないはずの値段の超豪華な牛丼に、客はもう列を作りながらにこにこ顔がとまらない状態であった。
グランディルにきたばかりの、かつて伝説といわれていた鍛冶師ベルクは銀貨三枚を必死に握りしめてため息をついた。
傷が治る料理?古傷までも?そんな料理あるわけない、そう思いながらも匂いにつられて、こんなバカげた列の中に並んでいる。
かつては伝説や鍛冶の神などといわれていた頃の面影はもうなく、色々な人間に騙され、信頼や信用をなくし、自身の鍛冶公房までなくなり貧民街で違法な安酒を飲む日々、手は震え、かつての繊細な仕事などはもうできない程、壊れてしまった体達、こうなるように仕組まれたと知った時にはもう何もかもが遅かった。
自然と震える体、手足、自信を失い悲しげな顔をして、今日の飯が最後かもしれないという気持ちでリンネ堂の列に並んでいた。
自然と列が進む度に見えてくる、高級感あるレストランの外観に薄汚れた自分が入れるのか怖くなってくる。
店の前までくると、これまた立派な執事が笑顔で出迎えてくれた。
嫌な顔一つせず、席まで案内されると、何故か頼んでもない水とタオルが渡される。
それらが無料だと聞いて、温いタオルに手や顔をうずめるとすぐに真っ黒になってしまったが、さっぱりとして気持ちよかった。
水を飲むと、冷たい水が喉を通って胃に落ちていく感覚がわかるほど、味もよく澄んでいて気持ちよくてうまい!
出す料理が決まっているのか、メニューに悩むことはなかった。
牛丼がだされる。
これは?米という穀物に肉が乗っただけか?スプーンですくい口に入れると、これが美味い!肉が美味い!だがそれだけじゃない、この味!王玉玉ねぎの甘味と甘辛いタレ、こってりとした肉の脂がさっぱり、美味く濃厚に食える!赤身とのバランスが神がかっている。
「はぁはぁはぁ・・・・美味い、なんて美味いんだ」
ジンと温かみが体に広がていくと、震えが次第に収まっていく、関節の痛みも、そしてなくなったはずの指たちがむずむずと伸びあがってきた。
「体が熱い!生命に溢れる!傷が!ああっ震えがおさまっていく、足も手もなくなってから気づいた大切なものたちが戻ってくる!」
そして牛丼を食う、これがまた一段と美味く感じる!味覚まで生まれ変わって、繊細な味を感じ取れるようになったのか?料理人の細かな気配りを感じる。
暖かい味わい、ヒョロヒョロガリガリだった体が全盛期の自分に戻っていく。
料理の美味さと、体の治癒の快感と温かさで、もう頭はどうにかなりそうだった。
自分は今幸福にと幸運に包まれている。
紅ショウガ?これをまた全体にちらして食べる。
これもいい!酸味で引き締まって美味さがまたぐっとベクトルが変わる!美味い!添えてあった卵を割り、周りの人間の様にかけて食う!美味い!黄身が濃厚でタレや肉と抜群に合う!食い終わる頃には体は完全に健康に、昔の自分にもどっていた。
いささか物足りなさを感じていると、おかわりができるという。
たまらず注文して食う!やっぱり涙が出そうになるくらい美味い!顔が歪む!極上の味に顔が歪む!牛丼とはこうくうものなのだといわんばかりに、大口に掻っ込む。
のど越しがいい!美味い美味いと食っていると、執事さんがいっぱいのジョッキをテーブルに置く、中身はビールだった。
「いいのかい?」
「貴方の新たな門出に」
低く渋い声が俺を寿ぐ。
「ハァハァハァ・・・・」
がっとビール瓶をつかむと、唾を飲み込んで、思い切ってぐっと飲む。
「美味い、美味すぎる」
今までの酒は?全部腐ってでもいたのか?そう思わせる程、生まれ変わった今の自分には美味すぎる、喉を刺激する泡、通り抜ける感覚。
最高だ!最高すぎる!
そして健康な体!おれはまた鍛冶が出来る!仕事ができる!生きていける!生きていけるんだ!
ここの食事で俺は確かに生まれ変わった!
もう傲慢な神の鍛冶師はいない、そこにはベルクただのベルクがまた蘇ったのだ。
人は何度でもやり直せる、きっかけがなければ無理なこともあるけど、俺はまた立ち上がれる。
一から始めなおそう、そしてまた金を稼いでここで飯を食うんだ。
俺はリンネ堂を見渡し、深々と頭を下げ、店を出た。
さぁ、進もう、少しでも前に。
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