第13話獣王国 フィリア・ガルディア

 フィリア・キングスフィールが今夜お客として店まで来る。 

 

 まだまだコース料理として、意外性や勢い、驚きなどあまりない日本でいったら古臭いコースなのかもしれない。 

 

 それでも適当にならず、最善を尽くして調理した。 

 

 彼女の怪我の度合いなんて僕にはわからない、願うのはいつも傷や病気で苦しんでいる人が綻ぶ笑顔を見せてくれるような。 

 

 この世界にはない新しい味の想像、この世界の人が日本の、あっちの世界の調理法で調理された料理に、その歴史に重厚さと時の流れや、人間の歴史の一部でも感じてもらえるように、僕と言う料理人の影なんか見えなくて、なくていい、ただあるのはこちらの世界とあちらの世界との会合、そしてこれから開かれるであろう道の一旦でも感じとってもらえれば、そこに料理人の影は必要ない。 

 

 今やれる事は基礎の繰り返し、ミスをしない事、料理人としての我の様な個人をみせず、あくまでも基本を忠実に、だれが作っても地球を思い描けるようなそんな調理。 

 

 フィリア・キングスフィールが到着し、メイドに車いすをおされ来店する。 

 

 その姿は、豪華なドレスに身にまとっている。 

 

 それでも隠し切れない欠損部分、大きく肉の削がれた腕に足、顔にもヴェールを纏っているが、剥ぎ取られた顔から頭皮などもわかってしまう。 

 

 聞けば内臓も一部失っているという、その状態で、そんな状態でありながらも神の奇跡で生き延びてしまったのだと。 

 

 自分の太ももをつねった。 

 

 必死で涙が流れない様に、幼い子達を守ったと来たが僕からしたらフィリアですらまだ幼く見える。 

 

 そんな少女が今のような姿になり、僕と対面した時謝罪したのだ。 

 

 「もうしわけありません。使徒様、名誉の負傷とはいえ私は醜いでしょう?気分を害してしまったらごめんなさい」 

 

 僕は驚きながらも、さっと言葉を返す。 

 

 「貴方ほど、勇敢で美しい女性は世界を探してもそういませんよ。さぁお席の方へどうぞ」 

 

 俺の一言に彼女は驚き、メイドと付き添いの獣王様はニヤリと嬉しそうにわらった。 

 

 最初はスープ、「黄銅芋とポロネギ、雪牛のミルクをつかったヴィシソワーズスープになります」 

 

 「ほう、にてもやいても食えん黄銅芋をスープに?しかも牛の乳を使ったスープなぞ聞いた事もない」 

 

 そういうとキングスフィールがすっとスープを飲むと顔をほころばされた。 

 

 「これは!冷製スープ、味も悪くない!驚きなのはあの芋から作れたって事だ!」 

 

 メイドがお嬢様失礼しますと給仕をすると、フィリアも声を上げた。 

 

 「美味しいわ!飲みやすく濃くのあるスープ!はれ!?体が!?」 

 

 スープを飲むと直ぐに治癒の効果がじわじわと出始める、彼女の体は緑に少しずつ光始めた。 

 

 「暖かく優しい光、体の外も中も・・・・・」 

 

 「私の古傷や無き指達まで、慰めるかのような緩やかな癒し、風や振動で染みていた痛みもなくなっていく・・・・・」 

 

 次に前菜「冬牛のミルクのチーズに大地の実(アボガド)と夢とろサーモンを重ね合わせてみました」 

 

 「ふむ、悪いがどれも聞いたことのない素材だ」 

 

 「ええ、グランディルでは酪農をしている村が中々無くて、乳を手に入れるのに苦労しました。大地の実もあまり食用として好まれておらず、夢サーモンも雑魚扱いでした。夢とろサーモンに名前を変えたのは、とろけるほど美味しいからですよ」 

 

 「ふ~む、使っている材料は雑魚ばかりと?ふむ、んん!んお!これは!いいではないか!なんと!美味いぞ!使徒殿!雑魚ばかりなどと落胆させておいて!うまいではないか!?」 

 

 「チーズは食べた事ありますけど、これはそれとは違う見たい!大地の実のねっとりとサーモンの味がいいです!そして凄い力が溢れて来る!どんどん痛みが消えていく!」 

 

 食事にあわせてゆっくりだが、手術の様に治療が進んでいく。 

 

 本人が一番強い実感を覚えながら、味と治癒の快感の波を味わう。 

 

 魚料理 「ななつぼしのサンマのルロー、オスフリットになります。 

 

 丸められ香ばしく焼かれたサンマが二つに、上には中骨がかりっかりになって乗っている。 

 

 「素材はともかく、見た目に関しては美しいの一言である。だがサンマか、魚はものによっては臭くて苦手なのだ。これは・・・・・ぬぅ!美味い!どうして苦手な物がこうも美味いのだ!素材がとくべつなのか?嫌、ななつぼしサンマは庶民よりももっと下の階級の人間に好まれていたはずだ。王族に出す素材ではないと思うのだが、この美味さはなんだ!ううんむ!力が漲る!体内が清浄化されたのか!?気や魔力までこれ以上にないくらい純粋だ!」 

 

 「みて!お父様!」 

 

 「フィリア・・・・お前・・・・・顔が・・・・顔が!ああっ!!美しかったフィリアの顔が!戻りつつある!」 

 

 「食いちぎられた、筋肉達も再生を始めたの」 

 

 「ああっ食の使徒様!いつき殿!なんて感謝を言えば!」 

 

 「いえ、むしろ劇的に治療できなくてゆっくりで申し訳ないです。もう少し料理にお付き合いください。王牛のローストビーフです」 

 

 普通のローストビーフと違うのは、通常は薄く薄く切り取るのだが、ステーキの倍ぐらいの厚さに塊みたいに切り分けたローストビーフにソースがかけられている。 

 

 「王牛か、ここでやっと聞きなれた素材がきたな。だが肉・・・・・ステーキではなく?中心も妙にピンク色をしているな」 

 

 ローストビーフはピンク色の部分がまさに主役、ここの部分が多ければ多い程料理人の技術は高い。 

 

 「これ!?すっごく柔らかい!しっとりして赤身の!お肉の味をしっかり感じる!そしてこのソーズ!それにこのお肉の歯ごたえ、プチプチってしてザクザクしてる不思議!」 

 

 「なるほど!?これは噛むのが快感になる!味もいつもの王牛よりも遥かに美味い!それにしても、神々のポーションじゃないにしろ、あれだか色々なポーションや高位から希少性のあるポーションを使っても治らなかったフィリアが、私の目からは完全に回復した様に見える。どうだ?まだ痛い所や違和感はあるかい?」 

 

 「使徒様の料理で完全に治ってしまったみたい!それに味も素晴らしく素敵だった・・・・・・。肌や毛並みも色んな所が以前以上にいいみたい!私達獣人は魔力を感じずらいはずなのに、物凄く魔力を感じ取れる。体内の魔力路も、私以前より爆発的に強くなっちゃってるみたい。お父様もなんか見た目が若くなってない?」 

 

 「見た目が?どれ?ぶふぉ!本当だ!若返っとる!傷も消え!欠損した指もある!フィリア・・・・・お前も元に戻って・・・・・・どれだけ嬉しい事か!ああっ流石は使徒様だ!」 

 

 「もう元の姿に戻れないと思ってた。それでも弟を妹を守れた事を思えば、それでも生きていられた。でも刺すように襲てくる痛み、皮膚以外から感じる刺激が段々私を蝕んだ。死んだ方がいいと思った事もないわけじゃないわ。ただ残された時間、痛みに耐え続けるだけの置物になるのは辛く、修復できない見た目に、私を見る子供や他の人たちの目に怯えるばかりだった。それが、こんなに完全に!こんなに完璧に!こんなに生命に溢れ躍動的に!以前よりも強く蘇るなんて!!だれが考え付くかしら!一度死んだ私は、生まれ変わって無敵の肉体を手に入れたみたい!使徒様に感謝を」 

 

 勇敢で美しい獣人の姫に送る、万感の思いを乗せた渾身のコース料理。 

 

 ソルベとデザートは親子の笑顔は絶えず、久しぶりに心から笑い楽しんだデザートに幸せな夢をみたのだった。

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