第20話 ダンジョンには、確かに夢と希望が……って違う?

「さて、準備はいいか?」


俺はレイナたちに視線を送ると、三人は緊張した面持ちのままコクンと頷く。


「ねぇ、本当に行くの?」


心配そうに声を掛けるミィナ。


「大丈夫だ、ミィナの創ってくれたポーションも山ほど持ったし、万が一に備えての食料も万全だ。」


あと……。


口には出さなかったが、女神ちゃんのギフト、今日の分はまだ何も降ろしていない。


初見の……、しかも虹色の扉という、前人未到のダンジョンだ。


何があるか分からないため、下手にスキルを決めなほうがいい。


俺は、ミィナにいない間の事を任せると、扉に手をかけ、ゆっくりと開く。





「ふわぁぁぁ……。」


「これがダンジョン……。」


「広い……にゃ?」


マーニャが何とも言えない声をあげる。


目の前には草原が広がり、一見広く見える。


しかしよく見ると背の高い草に紛れているが、10M程先には壁が見える。


その先を追うと、やはり先の方に壁が見える。


壁がなければただっぴろい草原と言えなくもないのだが、その壁が妙な圧迫感を醸し出し、見た目より狭さを感じさせるのだ。


「まぁ、ダンジョンだからな。それよりトラップに気を付けて進むぞ。」


「任せるにゃん。」


マーニャはそう言うと先頭に立ち歩き始める。


マーニャは獣人だけあって、俺達より感覚が鋭い。


そして、普段の調子からは考えられないほど慎重に進んでいる。


俺の気配探知にも、魔物の気配は感じられないし、ここはマーニャに任せて後をついて行くか。


俺達は、壁沿いにダンジョンの中の探索を始めるのだった。



「んー……。」


「マーニャ、どうしたの?」


2時間ほどして、マーニャが少し迷いを見せたので、レイナが声を掛ける。


「にゃんか、おかしいニャ。」


「ん、おかしい。」


マーニャに応えるようにアイナも追従する。


「とりあえず、敵の気配も感じないし、休憩にしようか。」


俺はそう言ってその場に腰を下ろす。


ここまで、モンスターにもトラップにも出会っていないため、いささか退屈していたこともあり、みんなも素直に腰を下ろし、荷物を降ろしてくつろぎ始める。



「それで、何がおかしいんだ?」


俺はみんなにお茶を入れたカップを渡し終えてからマーニャに声を掛ける。


「ウン、にゃんかね、おにゃじ所グルグル回ってる気がするにゃ。」


「同じ所?」


……確かに見回す限り草原で、景色の変化に乏しいけど。


「ウン、マーニャの言う事に間違いない。」


アイナがそう言って石板を見せてくる。


そこにはアイナが書いたと思われる地図……と言っても四角と矢印が書かれているだけだが、その矢印が途中で同じところを重ね書きされていた。


「うーん……じゃぁ、休憩が終わったら戻ってみようか?」


現段階では、確実にループしているかどうかは分からない。


そしてこの手のループの脱出法の一つに、前進せずに後退するというものもある。


その事をみんなに伝えると、レイナが不安そうな顔をする。


「どうした?」


「うん……もし、ループしてたとして、ずっと抜けれなかったらって考えたら怖くなって……。」


俺はそんなレイナに優しく声を掛ける。


「大丈夫だ。とりあえず食料も一ヶ月以上持つだけ持ってきてるし、それだけの時間があれば、入り口にぐらいは余裕で戻れるって。俺を信じろ。」


「……ん、カズトさんが言うなら信じる。」


レイナは少し頬を赤らめ、俺から視線を逸らす。


えっと、これは、フラグが立ったってやつ?


「……甲斐性なしが、頼もしい。」


「レイナちゃん乙女もーどにゃ。」


「マーニャ、どう見る?」


「……甲斐性ナシはヘタレにゃ。とりあえず大丈夫……と思うニャ。」


「ヘタレが寝てるときに襲う?」


「レイナちゃんをセットクするのが先ニャ。」


「そうね。」


……なにやら二人が、ぼそぼそと怖い相談をしているんだが……。


ウン、聞かなかったことにしよう。



「さて、そろそろ出発しようか。」


俺はアイナに、入り口を目標に向かうように告げる。


アイナはマーニャと並んで石版とにらめっこしながら来た道を戻り始めたのだが……。




「やっぱりおかしい。」


本日二度目の休憩。


結論から言おう。俺達は迷っていた。


アイナの石版を元にすれば、ここから西に100mも行けば出口……と言うか俺達が入ってきた扉があるはず。


しかし、ここから西側、というのは俺が今もたれている石壁の向こう側と言う事で……。


「私達が入ってから、真っ直ぐ東を目指してたよね?……壁にぶつかったのって100mぐらいだった?」


レイナがぼそりと呟くとアイナが首を横に振る。


「1kmほど歩いても先が見えにゃかったから、そこから南に進路を変更したにゃ。」


マーニャがそう答える。


「そう……じゃぁ、この壁は?」


レイナが青ざめた顔でそう呟くが、アイナもマーニャも答えられない。


俺はそんな会話を聞きながら、ある仮説を立てる。


……まさかな。でも……。


俺はその仮説を実証するためにも、ある程度の時間を必要とするので、ここで思い切って決断を下すことにした。



「よし、少し早いが、今日はここで夜営だ。」


俺の言葉に、三人娘は少しだけ、ほっとした顔を見せた。


ずっと歩き回って、訳の分からない現象に巻き込まれて……きっと自分たちが考えている以上に疲れていたのだろう。


ウン、ムリはいけない。こういう時は……。


俺は収納から、あるものを取り出す。


村に着いてからは使う事の無かったものだが、こういう所では役に立つ。


「カズトさん、それは?」


「お風呂だよ。以前ミィナと旅している時に使っていたものだ。」


俺が取り出したのは直径3mの幹をくりぬいた樹の湯舟だ。


女の子3人なら、余裕で一緒に入れるはず。


「疲れた時はお風呂に限る。俺が見張っているからゆっくり入って疲れを癒すといいぞ。」


俺がそう言ったのに、三人は誰一人として服を脱ごうとしない。


「どうした?遠慮しなくていいんだぞ?」


「カズトさん、本気で言ってる?」


レイナが責めるような目でそう聞いてくる。


「イヤだなぁ……、俺がこんな所で冗談を言うとでも?」


「……ここ、遮るもの何もないよね?」


レイナがジト目で俺を見る。


「だから俺が見張りをするんじゃないか。俺は気配感知も使えるし、怪しい者が近づいてきたらすぐわかるからな。」


「怪しい者……。」


アイナが俺を指さす。


……人を指さしちゃいけませんって教わらなかったのかな?


でも仕方がないじゃないか。誰かが見張っていないと。


……まぁ、その見張りの時に、見えちゃうのは不可抗力……そう不可抗力なんだ。


「……そんな言い訳しなくても、一緒に入ればいい。」


アイナがそんな事を言う。


……なんですとっ!


『よしキタッ!女の子からのお誘いだぜ。ここは余裕をもって混浴に臨むんだ。』


『だめよっ!、そんな欲望に流されちゃいけないわっ!』


悪魔君と天使ちゃんのバトルが始まる。


「私達は夫婦。一緒に入っても問題ない。」


さらに追い打ちをかけるようにアイナが言う。


「ソ、ソウダネ……夫婦だもんね……。」


『その通りだっ!何の問題はないっ!』


『ダメぇ、正気に戻ってぇぇ……。』


「それとも……カズト様は一緒に入るの……イヤ?」


アイナが耳元でそんな事を囁く。


「い、いや、そうだな……一緒に、入るか……。」


……はい、陥落しました。


脳内では、天使ちゃんを足蹴にした悪魔君がガッツポーズを決めている。


……仕方がないじゃないか。こんなかわいい子達が、一緒に入ろうって誘ってくれてるんだぞ。しかも、名目上、俺達は夫婦。指一本触れていなくても夫婦なのだ。混浴ぐらいいいだろ?

村では新婚さんが混浴してるんだぜ?俺達が混浴して何が悪い。


……あ、ちょ、ちょっと息子さん、今はまだ大人しくしててね。


俺のリビドーにむくッと起き上がる息子をあやしながら俺は服を脱ごうとするが、顔を赤らめたレイナがやってきて「脱がせてあげる」と囁く。


……これはっ!

とうとう、とうとうしちゃうのか、卒業!

しかも相手は三人?

誰?誰と卒業する?


俺の頭の中が混乱している隙に、レイナがギュッと抱きついてきて……俺の腕を後ろに回して縛る。


「え?」


何が起こったか分からずにいると、背後にいたマーニャが俺に目隠しをして縛る。


「あの……えっ?」


「こうすれば安心。」


アイナの声が聞こえる。


……ですよねぇ。分かっていましたとも。


……くそっ、期待させやがって。いつかヒィヒィ言わせてやるからなっ!


「心配ない、ちゃんと一緒に入る。」


アイナの声がしたかと思うと、俺の衣服がゆっくりと脱がされる。


……え?


時々肌に触れるアイナの感触からして、彼女はすでに一糸まとわぬ姿のようだ。


ふと動いた瞬間にポッチみたいなのがあたるのは……


目隠しされ、自由も奪われているが……これはこれでいいかも……。


何か、新たな性癖に目覚めそうだった。

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