第2話 ご主人様はアホですね。

カランカラーン……。


ドアを開けると来客を知らせるベルが甲高い音を立てる。


「へいらっしゃい、就労人をお探しで?」


「あぁ、女の子、出来れば美少女で、夜のご奉仕をしてくれる子を探している。」


俺がそういうと、胡散臭そうな目で俺を見る店の主人。


「……まぁいいでしょう。こちらへ。」


俺は店の奥へと通される。


そこにはステージがあり、その上に10人ほどの、15歳から25歳ぐらいまでと思われる女性がずらりと並ぶ。


みんな薄い布をまとっているだけなので、透けて見えはしないが、身体のラインははっきりとわかる。

ささやかなふくらみから、圧死しそうなボリュームまで様々だ……。

何がって?……それ聞いちゃう?分かるだろ?男のロマンが詰まっているものだよ。


「右から金貨25枚、27枚、30枚……。」


奴隷商の声が続く。一番左端のささやかなものを持った娘が一番高く、金貨65枚とのことだった。


「なんでそんなに差があるんだ?」


と聞いてみると、一番左端の娘は年が一番若く(聞いてみると13歳だそうだ)、初物ということと、そういうのが最近お貴族の間ではやっていて中々手に入りづらいためプレミアがついているそうだ。

それでも彼女はまだ安いほうで、奴隷商がここ最近扱ったものの中には金貨100枚を超えたものもいるそうだ。

ちなみにその娘の年齢は10歳だという……異世界でも業が深い連中というのはいるもんだね。


「で、お客様はどの子をお求めで?」


「いや、あの……これで買える娘っていない?」


俺は、いないだろうなぁーって思いながら大銀貨を見せる。


「お客さん、ふざけてるのかい?冷やかしなら……って、アイツがいたか。」


奴隷商は別の部屋に、俺を案内する。


しばらく待たされた後、奴隷商が薄布をまとった一人の少女を連れてくる。


「お客さん、大銀貨一枚ならこの娘しかいません。ですが……。」


「買ったっ!」


俺は少女を一目見るなりそう叫んだ。


年の頃は13~14歳の俺好みの美少女。


本当は相場がどれくらいのモノか?どれくらいためればどの程度の娘が買えるのか?を調べに来ただけなのだが、持ち金で買える……しかも好みドストライクの美少女となると買わないわけがない。


「ですがお客様、その娘は……。」


「安いってことは訳アリなんだろ?それくらいわかっているよ。でも買う。早く手続してくれっ!」


奴隷商の態度から、訳ありとはいえ、この価格が格安なのも分かる。

だったらここで買っておかないと、次に来た時には売り切れている可能性が高い。


田中和人29歳独身、童貞……長年夢みた初エッチ、しかも好みの美少女。更に奴隷であれば、俺が下手でも文句は言わないはずだ。というか、何か言われるのが嫌で、今までなんとなく避けてきたのだが……大丈夫、奴隷は文句を言わない、言わせない!



「まぁ、お客様が納得してるならいいんですがねぇ……。」


その後も、奴隷商が何か言っていたが、妄想にふける俺の耳には入ってこなかった。


契約書にサインし、大銀貨を支払うと、俺は普通の服に着替えた少女を連れて宿屋へ向かう。


先に食事をしてもいいんだが、することで頭がいっぱいになった俺には、他事なんか考えられなかった。


部屋に入ると、俺は少女……ミィナという名前らしい……をベットに座らせ「脱げ」とさっそく命令したのだった。


「嫌です。なんで脱がなきゃならないんですか?」


「いいから脱げよ。命令だぞ。……えぇいまだるっこしい。」


命令だと言っているのに、脱ごうとしないミィナの服に手をかけ、強引に脱がせようとする。


「いやぁぁぁ!」


バッチーンっと大きな音を響かせて、ミィナの平手が俺の頬を打つのだった。



……

……

……


「……ご主人様はアホですか?」


俺が長々と語り終えると、少女……ミィナが深々と溜息をつく。


「女神さまにあったというのは眉唾物ですし、イセカイ?っていうのはよくわかりませんが、ご主人様が無知なのはよぉぉぉくわかりました。本当であれば通報するんですが、せっかく買ってもらったのに初日で返品となると、私としても都合悪いですからね。今日のところは豪華な食事で手を打ちますよ。」


「あー、それなんだが……。」


俺は手持ちのお金をミィナに見せる。

大銅貨4枚と銅貨2枚……これが今の全財産だ。


この宿は二人で1泊大銅貨1枚で食事は別。通常の食事で朝銅貨2枚、夜銅貨3枚だ。もちろん一人分。


取り合えず3泊分を先払いしたが、それ以降のことは考えていなかった。

豪勢な食事となると大銅貨の1枚や2枚は軽く飛んでいくだろう。

そうなれば4日後には俺が奴隷落ちになるに違いない。


「はぁ……本当にご主人様はバカですね。ご主人様は就労者の衣食住の面倒を見る義務があるんですよ?」


「……面目ない。」


俺は落ち込む。


いや、、確かに奴隷だぁ、エッチが出来る~って舞い上がっていたけどね、まさかこんな罠があったとは。


エッチも出来ない少女に全財産の殆どをつぎ込んで、残ったのは美少女の罵声と数日分の生活費のみ……何やってんだろ、俺。



「はぁ……、まぁ、とりあえずご飯に行きましょう。3日分は払ってあるんですよね?」


「あぁ……一人で行って来いよ。……何も食べたくない。」


俺の言葉を裏切るようにお腹がきゅるるーと鳴く。

よく考えてみれば、この世界で覚醒してから何も食べてない……そういえばリンゴはどこにやったっけ?


「身体は正直ですね。」


「煩いよ。」


……それは俺が言うはずだったセリフだ。


やめてぇと泣き叫ぶミィナに「ぐへへ。身体は正直だぜ?もっともっとと言ってるぜ。」というはずだったのに……。


「はいはい、ご主人様には、私に食事を与える義務があるのですよ。そして就労者一人では食事をさせてもらえないのです。」


「そうなのか?」


「そうなのです。だからご主人様が契約違反で犯罪就労者になりたくなければ、私を連れて食事に行くしかないというわけです。」


「……犯罪者は勘弁してほしいな。」


俺は仕方がなく、重い身体を上げて、ミィナと下の食堂へ降りていくのだった。




「……で、寝るときはどうするんだ?」


食事を終えて部屋に戻ってきた俺とミィナ。


安い部屋なのでベッドは一つだけだ……というか、俺は一つのベッドであんなことやこんなことをしながら寝るつもりだったので他の事は考えていなかった。


「……仕方ないですね。床で寝るのは嫌だし、一緒のベッドで寝ましょう。」


「いいのか?」


俺は思わずミィナを見る。


「ベッド一つですし、さすがにご主人様を床に寝かせるのは契約に違反しますから……仕方がないじゃないですか。」


「あ、あはは……、そうだよな、仕方がないよな。」


俺はそういいながら、早鐘のように鳴り響く心臓を押さえるので必死だった。


「でも、手を出したら通報しますよ?」


「い、いや、ダサナイヨ……。」


……俺の理性を信じよう。宝くじの3等以上が当たるくらいには信頼できるはずだ。


「ふふぁぁぁ……。お腹いっぱいになったら眠くなっちゃいました。細かいことは明日考えることにして今日はもう寝ましょうか。」


『寝ましょう……寝ましょう……寝ましょう……寝ましょう……寝ましょう……寝ましょう…………』


ミィナの言葉が頭の中でリフレインする。


美少女から一緒に寝ようと誘われたのは初めてのことで、それだけでもう、俺の理性は一杯一杯だ……。


「そ、そうだな……。」


俺は上着を脱ぎ、下着だけになってベッドへと入る。


背後で、するするっと、衣擦れの音がする……うぅ、辛抱溜まらん。


毛布がそっと持ちあげられ、するりとミィナが入ってくる。


「ご主人様、おやすみなさい。……襲っちゃいやですよ、信じてますからね。」


ミィナがそう耳元で囁く。


くぅっ、これは襲ってくれって言ってるんじゃないか!


俺はさりげなく寝返りを打つ振りをして体勢を入れ替えミィナの方へ向く。


ミィナは疲れていたのか、すでにすやすやと安らかな寝息を立てていた。


……襲いたいっ!……だけど、こんな無防備な顔で寝てる娘を……信じるって言ってくれた娘を襲うなんて……


……いや、コレは据え膳という奴ではないのか?だったら襲わない方が失礼に当たるだろ?



俺の中の天使と悪魔がせめぎあい、かろうじて天使が勝つ。


しかしその時、ミィナが俺の腕に絡みついてきてギュッと抱き寄せる。


……あの、ミィナさん、当たってますよ?


何が、とは言わない。


成長期なのだろう、ミィナのソレは、希少価値に近いモノだったはず。だけど腕に当たるふくらみはしっかりと柔らかさと大きさを主張していた。


そんなことをされれば、当然俺の中の悪魔が立ち上がり復活する。


しかも、どこぞの少年漫画のようにパワーアップしての復活だ。


俺の中の天使が必死になって抵抗するが、パワーアップした悪魔の前には成す術もなく打倒される。


悪魔のささやきのそそのかされて、俺はゆっくりと顔を近づけて……。


「うぅん……、ご主人様ぁ……信じてますよぉ……むにゃ……。」


……寝てるんだよな?


ミィナのタイミングのいい寝言のおかげで、ギリギリのところで天使が逆転のカウンターを放ち、悪魔を倒す。


……そうだな、大人しく寝よう。


俺は天井を見上げながらそっと目をつむり眠りに落ちた……。


……。


……。


……。


……って眠れるわけないじゃないかよっ!


俺は結局、悶々としたまま朝を迎えるのだった。

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