第51話アルベルト視点

 俺はシャルロットの部屋から出るときも踊り出したくなるほどうきうきしていた。

 支度をしていても赤くなったシャルロットの顔を思い出し顔がにやけた。

 コーヒーを飲んでいても何をしていても、彼女が結婚を受け入れてくれたことで気分は舞い上がっていた。


 早速王城に出向き、頭の中で今日のスケジュールを確認する。

 まずはランベラートがやっていた不正をたださなければならない。そのためにはその役職を決めなければ、そしてリシュリート公爵の処分やそれに早いうちに俺の戴冠式も行なわなければ…考えるだけで力が溢れてくる。

 国民には今までの事を改め新しい国となったことをはっきり伝えるためにも必要な事だろう。


 それには、まず俺の右腕になってくれる宰相を決めなければならない。


 信用が出来て気の許せるような相手となると…やっぱりレオンになってもらうしかないか。

 彼の父は元父の宰相だったから、他のものも納得するはずだ。


 そこにロベルトが入って来た。

 「アルベルト殿下お話が」

 「ロベルト入ってくれ、俺も話をしようと思っていた」

 「僕もです。アルベルト殿下、僕は皇王になんかなりたくないんです。父は姉のエリザベートの言う事ばかりに耳を傾けて僕の話なんか聞いてはくれなかった。僕はいつも父の言いなりで、今回の婚約だって僕には好きな女性がいるんです。だから…皇王なんかなるつもりはありません。僕はリシュリート公爵の娘マリエッタと結婚さえ出来れば他には何も望むつもりはありません」

 ロベルトは部屋に入って来ると矢継ぎ早にそう言った。


 そうなのか?まあ事実関係は関係者に尋ねればすぐにわかるだろう。ロベルトの言うことが本当ならそれでいいんじゃないか。

 なんだ、頭を悩ませていたがロベルトがそう考えているならちょうど良かったじゃないか。

 俺はロベルトが何というか心配していた。

 だってそうだろう。いきなり皇王になるって言ったんだから。


 「ロベルト、お前も王族の一員に変わりはないが、俺もこれ以上のごたごたは避けたい。今の話では俺が皇王はなる事に異存はないんだな?」

 俺はなるべく威厳のある態度でそう言う。

 「もちろんです。さっきも話したようにそれでいい」

 「そうか、ではロベルトは公爵になり、貴族議員となるが」

 「ああ、それで問題ない。僕はマリエッタと結婚さえ出来れば…」

 「それで、マリエッタとはもう?」

 「彼女とは結婚を約束してるんだ。もしこのままモンテビオ国との結婚を進められたら駆け落ちするつもりだった。だからアルベルトが皇王になってくれて助かったんだ」

 「そうか…まあ、事実関係を調べてお前がランベラートの悪事に関与していないと分かれば特に咎めるつもりはない。むしろ一緒にこの国の発展に協力して欲しいと思っている。だが、今はまだ確約は出来ない。それはわかってほしい」

 「ああ、もちろんだ。僕はそれがはっきりするまで自室でじっとしている。でもマリエッタにだけは知らしてやりたい。もう心配ないっていいだろうか?もちろん誰かに使いを頼む。僕は王城からは出ない」

 「ああ、それがいいだろう。ロベルト話が出来て良かった。では、急ぐから…」


 俺は議会の間に足を運んだ。

 昨日集まっていた貴族議員たちがざわついていた。


 「皆さんおはようございます。さて今日から私が皇王となり、新しい国を築いて行くわけですが、やるべきことがたくさんあります。ランベラートたちがやって来た不正を調べてもらう方々や新たな法改正や領地や元貴族の方々の事も考えなければなりません。ロベルトがどこまで関与していたかも急いで調べてもらいたい。とにかくやることが山済みですがよろしくお願いします」

 「はい、アルベルト皇王にはまず戴冠式で正式に即位していただけなければ国民に示しが付きません」

 議員の一人が発言する。

 「ええ、もちろんです。戴冠式は準備が出来次第…出来れば明日にでも行いたい」

 「ええ、早い方がいいです。我々も新しい皇王の下でこの腐敗した内政を一日も早く立て直していきたいと思っていますから」

 「ええ、もちろんです。私はもう今までのようにエストラード領、ブランカスター領、リシュリート領などというようなことにこだわるつもりはありません。私はエストラード皇国の代表として平等にそして実力のある人はどんどん起用して行くつもりですので」

 「さすがはアルベルト皇王です」

 「いや、いきなりの変革は戸惑いを起こします。あなたのやる気は認めますがやはり今までの体制の中で行うべきでは?それに次の皇王はロベルト様と決まっていたわけですし…彼が何というかも」

 俺はその男の話の途中で割って入る。


 「あなたのお名前は?」

 「リシュリート領のフォンタンジュ・オズボーンと申します」

 「オズボーン伯爵ですか?」

 「はいそうです」

 「あなたもランベラートにかなり優遇されていた貴族のおひとりですよね?これからはそういった特別措置はありません。私は私のやり方で変革を進めていくつもりですから、それからロベルトと話はついていますからご安心ください」

 「こんな議会やってられない。私は失礼する!」

 オズボーン議員は怒りをあらわにして行故意よく立ち上がると議会の間から出て行った。


 「他にも新しい体制に反対の人はいませんか?気に入らなければ議員をやめて頂いても構いません。その代わりその席には別のものが座るまでです。さあ、ここで決断していただきたい。今までのやり方は間違っていたんです。エリザベートの占いでやってもいない罪に問われたり私利私欲の為に爵位を奪われたり、これからはそんな事はもう絶対に許しません。それに納得いかない方は今すぐ出て行ってもらいたい!」

 会場がざわつく。皆が顔を見合わせて動揺を隠せない様子だ。

 俺は自信たっぷりに言葉を飛ばした。

 これもロベルトがはっきり気持ちを伝えてくれたおかげかも知れない。


 だが、ブランカスター公爵が発言した。

 「アルベルト皇王の言う通りです。ここで今までの全ての膿を出し尽くして新しい風を入れるときです。皆さんも覚悟を決めて下さい」

 「そうだ。そうだ。アルベルト皇王に賛成です」

 次々と議員たちが声を上げた。

 皆の心が一つになった。


 そして新たな国が始まると俺は確信した。

 「皆さんありがとうございます。これで安心して新しい国つくりが出来ます」

 俺はみんなの前で頭を下げた。

 脳内にシャルロットの顔が浮かんだ。もう一日だって待ってはいられないと…

 「あの…ここで私事ですがご報告があります。私はある女性と結婚するつもりです。皇王になった今ふたりで協力してこの国を立て直していくつもりですのでよろしくお願いします」

 「それは国民や私たち二とっても二重のよろこびです。それでお相手のご令嬢はどちらの…?」

 「はあ、ご令嬢ではないのですが、昨日もここにいましたシャルロット、カッセルという女性でして彼女も結婚を承諾してくれたので、式は落ち着いてからになると思いますが夫婦となるのはすぐにでもと思っています」

 「ですが皇王、一国の王ともなればお妃はやはりそれなりに…例えばコンステンサ帝国の王女とか、どちらかの伯爵のご令嬢とかでないと箔が付かないのでは?」

 「いえ、私はそのような事にはこだわりません」


 ブランカスター公爵が難しい顔で話を始めた。

 「アルベルト皇王殿下、ですが、それでは国民も納得いかないのではないでしょうか。大体すぐに結婚は…これから忙しくなりますしいかがなものかと」

 「私もブランカスター公爵のご意見に同意します」

 「私も同意見です」

 次々に結婚は改めた方がいいというムードに傾いて行く。


 「ですが、私の気持ちは変わることはありませんので、まあ次期が早いのは私も認めます。ではこの話はまたということで他の議題に移りましょう」

 「まあ殿下がそう言われるのならば今日のところはこの話は終わりにして、では次の議題を…」

 ブランカスター公爵はそう言って話を別の方に向けた。



 いきなりドアの外が騒がしくなる。

 ノックの音がする。

 「何だ?会議の最中だぞ!」

 「緊急なご用向きです。アルベルト隊長、いえ、殿下大変です」

 そこに入って来たのは国境警備についている白ユリ騎士団第1部隊の副隊長レオンだった。

 「レオン一体どうしたんだ?」

 「とにかく別室に」

 「皆さん。お騒がせした。このものは白ユリ騎士団の副隊長だ。いったん休憩にする」

 俺は議会の中断をした。


 議員たちは休憩するため議会の間を出て行った。

 「それでどうしたんだ?そうだ。レオン俺はランベラートを退位させて次の皇王になったんだ。連絡するつもりでいたが君から来てくれて助かった。実はレオン。君に宰相を頼みたいんだ」

 「はぁ?いったい何があった。アルベルトお前が皇王に?いや、それより大変なんだ。コンステンサ帝国のクレティオス帝がもうすぐここに来るんだ」

 「ど、どういうことだ?まさか、ついに怒りを爆発させて攻め込んでくるわけじゃあ?」

 今までコンステンサ帝国をコケにしたことがわかったらと俺の心臓はひやりとした。

 「いやアルベルト、ではなかった。あの陛下、軍隊を連れているわけじゃないんです。何でもある女性の事で話があるらしくて、いくら聞いてもこれは皇王と会ってからと言われて、それで俺は先に知らせようと思って急いで来たのです…ったく調子狂うな。いきなりアルベルトが新しい皇王だなんて、何だよ。驚かせるな。一体いつの間に…?まあ話を聞くのがアルベルト。いや陛下ならちょうど良かったんじゃないですか」

 レオンは調子を狂わせながらもうれしそうな顔をしていた。


 そこに近衛兵からコンステンサ帝国のクレティオス帝が俺に会いたいとここに到着したと知らせが入る。

 俺は急いでクレティオス帝を迎える準備を整えるように指示を出した。



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