第47話

私はとっさに力を発動させる。

 だが、彼女は守護の宝輪で守られていてびくともしない。

 完全に理性を失っていた私はやみくもに魔力を使ってエリザベートを攻撃する。

 心の中には憎しみが悔しさが、お母様の事やカロリーナの事が頭の中に溢れて私は泣きながらそのパワーを送り続けていた。

 どれくらいそうやって魔力をエリザベートに向けて攻撃していたのだろう。

 次第に彼女の顔が苦しそうに歪み身体が揺らいでいく。

 守護の宝輪が真っ赤になり彼女の腕を焼いている。



 どういう事?彼女を守るはずなのに、宝輪は彼女を傷つけている。

 次第にエリザベートは髪を振り乱し、あらん限りの声を張り上げた。

 「ぎぃやゃぁぁー」

 「ど、どうして‥私を守るはずの‥ぎゃやぁぁぁ」と絶叫を上げた。

 エリザベートはばたりと倒れた。

 それはあっという間の出来事で誰にも止められなかった。


 私は息も絶え絶えにアルベルト様に走り寄った。

 彼の意識はなく顔色は真っ青でもはや一刻の猶予もなかった。

 トルーズ様もリンデン様も走り寄って彼の傷口を抑え出血を抑えようとする。

 「いやぁぁぁ、アルベルトしっかりして」

 頭の中が混乱してパニックになる。


 嫌だ。嫌だ。彼が死ぬなんてそんなの許さない。

 「死なないでアルベルト。いやぁぁ。いやぁぁぁ、いやぁぁぁぁぁ」

 私は狂ったように何度も叫んだ。

 ああ…神様。奪わないで。お願い私の愛する人を死なせないで…

 心臓が四方に引きちぎられるような感覚。

 脳が煮えたぎった鍋みたいに今にも破裂でもしそうなほどに熱くなって行く。

 お願い。お母様。カロリーナ私に力を貸して…

 手をかざして彼にパワーを送る。

 「死なないでお願い。アルベルト。死んじゃいやぁ…」

 最後の力を振り絞るかのような叫びは何度も天を焦がすかのように、その声は波動を引き起こし窓ガラスが割れた。

 そこに渦が巻いてその渦は空高くまで伸びて行った。

 悲鳴が叫び声がその渦の中を音速で駆け抜け天にまで声が届くみたいに。



 いきなりジグザグに稲妻がとどろく。

 すると空が真っ暗闇に覆われて真っ二つに割れた。その暗闇の隙間から細長い光がふたつのびて来た。

 その光はアルベルトの身体をふわりと包み込んで彼の身体は宙に浮いた。

 そして身体中は光に包まれてまるで触手のような光の筋が彼の傷口をふさいでいく。

 心臓にも肺にも頭にもそれらの触手が伸びて、まるで命の源を注ぎ込むように。

 やがてアルベルトの顔色が次第にほんのりピンク色になり真っ青だった唇にも赤みが戻って来た。

 「ああ…あるべると、さ、まが…」


 そしてアルベルトが目を開いた時いきなり光が激しく瞬いた。

 3人の目にはフラッシュのように閃光が走り目を開けていられなかった。

 次に目を開けるとアルベルトは床に横たわっていた。

 彼は傷ひとつない身体になって。


 ふっと私の脳芯にふわりと声が届いた。

 『シャルロットもう心配いりませんよ。あなたの大切な人を死なせたりしません。もう二度と私たちと同じ悲しみは味わってほしくないのです。幸せになって心から祈ってますよ』

 あなたは…もしかしてお母様なの?

 私の愛しい人を助けてくれたのね。ありがとうお母様、それにもう一つの光はカロリーナなのね。ああ‥ずっとわたしを見守ってくれてたのね。

 『シャルロット、もうあなたを助けてはあげられませんよ。あの櫛が私たちを導いてくれたのですから。でもその力は一度っきりなのですよ。だから次は自分の力で成し遂げるしかないわ。早く告白しなさい』

 『そうよシャルロット、彼はあなたを愛してるわ。真っ直ぐ彼の腕に飛び込むのよ。じゃあ、そろそろお別れよ。幸せになってシャルロット心から祈ってるわ』

 待ってお母様。カロリーナも…ああ、もっとお話がしたい。

 だが声はもう聞こえては来ない。

 ”お母様私を産んで下さってありがとう。カロリーナ本当にありがとう…かれをたすけてくれてありがとう。”

 私は心からお礼を言った。



 「シャルロット大丈夫か?」

 さっきまで瀕死の重傷だったアルベルト様からそう言われる。

 私はまだ放心状態で、彼が私の手をつかんだ。

 「あ、あるべるとさま…」

 「怪我はないか?」

 そう言われてやっと現実に戻る。

 「あっ、はい。大丈夫です。それにしても奇跡ですわ。アルベルト様がご無事で…」

 「ったく!君って人は…」

 私はアルベルト様の勇ましい姿を見て一瞬きょとんとなる。

 彼ってこんな人でした?こんなに素敵で頼もしい男だったかしら?


 「さっきに光は何だったんだろう?見たかリンデン」あっけに取られていたトルーズ様が声を発した。

 「ええ、トルーズ様本当に奇跡ですよ」リンデン様も同様に狐につままれたみたいな顔をしていた。

 「神様の仕業ですよ。アルベルト様は死んではならないお方ですもの」

 確かに神に近い人たちだわ。天に召された人なのだから…私は自分で言って納得する。

 「ああ、まさにシャルロット様のおっしゃる通りですね。アルベルト皇王のご誕生に神も祝福されたのでしょう」

 「みんな何を言っているんだ?神様がいるはずがない。いたらとっくに俺は…まあみんな無事で良かった」

 アルベルト様も自分が刺されたはずと思い出したらしい。

 傷もなければ傷みもない身体に驚いているようだった。



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