14 発覚した悪役令嬢の欠点。

 料理部の部員たちは、当然ながら俺たちの……というよりダニエラの登場に腰を抜かしそうな勢いで驚いていた。

 どうやらダニエラファンも数人いたようで、ワッと彼女の周りに二、三人の男が群がる。案外料理部にも男が多いのだなと俺は思った。


 そうこうしているうちに騒ぎを聞きつけて奥からやって来たのは……とんでもない美少女だった。


「――っ」


 思わず俺は息を呑み、固まってしまう。

 ここ数日でとんでもない美少女なんて見飽きるほど見ているはずだった。ダニエラもそうだし、飯島もそう。今まで美少女なんて何の縁もなかった男だなんて思えないくらいに接している。

 なのにそれでも耐性のない俺はこんな反応を返すしかなかった。


「……誠哉の女好き」


 ボソッと隣……明希の方からそんな声が聞こえて来たが、これが健全な男子高校生の健全な反応だと思うのだが。


「あらあら、何の騒動かと思ったら、あなたが近頃有名なダニエラ・セデカンテさんですか? こんにちは〜。

 すみません、今部長が席を外しているんですよ〜。わたしは副部長の海老原凛です。何のご用でしょう?」


 海老原凛? どこかで聞いたことのあるような気が。

 とここまで考えて俺は気づいた。そうだ、校内三大美少女……ダニエラを入れて四大美少女になったのだったか? ともかく我が校トップクラスの美少女の一人の名前であると。


「うわっ……これは」


 何かまたとんでもないことが始まる気がする。

 そんな俺の予感をよそに、男たちを振り切ったダニエラは静かな笑顔を浮かべて西洋風のお辞儀をした。


「ごきげんよう。ワタクシがダニエラ・セデカンテで相違ありませんわ。エビハラ様、実はワタクシ、あなた方のブカツに入りたいと考えておりますの」


「あっ、入部希望ですか〜。嬉しいです! 部長の代わりに歓迎しますよ〜」


「海老原さん、この子外国人だから変なこと結構言うと思うけど大丈夫かな?」


「もちろん。というかセデカンテさんって本当に外国人なんですね? 日本語ペラペラだし青髪だし珍しい〜」


 話はそんな風にして意外とスムーズに進んだ。

 もちろん書類を提出したり諸々の作業はあったが、なんと翌日からの入部が決定。部長がいなのに副部長の彼女が決めて大丈夫なのだろうか?と思うが他所の部活のことなので口を出さない。

 ちなみに俺はダニエラに「ワタクシの護衛なら付き添っていてくださいませ」と言われ俺も料理部への入部を余儀なくされた。今までずっと帰宅部だったのに……。俺の平穏な生活がどんどん崩れていく気がする。



***



「いやぁぁぁぁっ、助けてくださいまし!」

「何してんだダニエラ! やめろッ」


「あぁ、火が! 魔法が使えないので消せませんわ!?」

「魔法とか言うなっ。とにかく水を持って来い水を!」


 容姿端麗、頭脳明晰、運動神経抜群。

 誰もが羨むような完璧美少女ダニエラの欠点が一つだけわかってしまった。


 彼女、料理がめちゃくちゃ下手なのである。

 俺は両親共働きのため中学の頃から料理を作るようになったのでそれなりに自信があるからはっきりと言えることなのだが、ダニエラの手製料理は俺が初めて作った料理の何倍も不味かった。というかもはや炭である。


 それだけではない。料理途中には材料をぶちまけるわ火を燃え上がらせるわで本当に大変だった。


 才能がない。そうとしか言えなかった。

 ちなみに俺が作った料理は普通のものだったが、ダニエラが酷すぎるせいで周りから賛美されたほどだ。


「あちゃー、ダニエラさんメシマズ属性だったか……」


 俺の話を聞いてケラケラと笑う明希だったが、俺の心労も少しはわかってほしい。

 当のダニエラは「これからは料理修行を頑張りますわ!」と意気込んでいるし、ただただ先が思いやられる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る