第174話 山田の家で

story teller ~四宮太陽~


「わざわざ来てもらってごめんな」


「いいよ。そんなに遠くもなかったし。はいこれ。コンビニで買っやつだから高価なものじゃないけど」


 俺は山田の家に着き、先程購入したお菓子を山田に渡す。山田はありがとうとそれを受け取ってからキッチンに行き、飲み物と手渡したお菓子を皿に並べて部屋に案内してくれる。


「汚い部屋だけど・・・」


 そう言って山田が扉を開くと先に着いていた架流さんが手を上げて挨拶してくる。


「よっす太陽くん」


「こんにちは架流さん」


 挨拶をかわし、山田に促されるまま床に座る。

 改めて山田の顔を見るが、時間が経過している為か、腫れはある程度引いているように見える。それでも顔に傷が少し残り、赤みもある。

 山田自身も元気がなく、覇気がないと言うか、憔悴しているように思える。


「大丈夫?」


 俺は心配になりそう聞くと、まぁ一応と一言だけ返事が返ってくるが、はやりその声に生気は感じられない。


「早速だけど本題に入ってもいい?」


 架流さんは俺が持ってきたお菓子を1つ手に取り、包装を開けながら俺たちにそう切り出してくる。

 俺は無言で頷き、山田は反応こそしなかったものの俺たち2人の視線を感じたのかゆっくりと話し始めた。


「・・・・・・架流さんに紹介された人から、葛原がカフェで男と会ってたっていう情報を貰ったんだ。その情報を架流さんに伝えようとしたけど連絡が取れないって言われて、俺も四宮に連絡したんだけど同じように連絡取れなくて」


 葛原が会っていた男性と言うのは表の事だろう。

 島にいる間ほとんど電波が届かなかったのでそのせいで連絡が取れなかったのだろう。山田は俺たちに危険を知らせようとしてくれていたのに。

 山田に対して申し訳ない気持ちになるが、今は話の腰を折る事はせずに黙って耳を傾ける。


「それで四宮の代わりに出勤してたら、急に葛原が来て写真を見せてきたんだ・・・」


「写真?」


 俺の問いかけに山田は頷き、呼吸を整えるように深呼吸をする。

 なんの写真だろう?と気になり、催促してしまいそうになるが、その気持ちをグッと堪えて俺と架流さんはなにも言わずに山田が話し始めるのを待つ。


「・・・架流さんに紹介された人たちが殴られた後の写真だよ」


 その時に見た写真を思い出したのか、山田はギュッと目を強く閉じながら弱々しい声で俺たちに伝えてくる。

 殴られた後の写真と一言で説明しているが、山田の様子を見るに、きっと酷い写真だったのだろう。


「なるほどね。自分の周りを嗅ぎ回ってた人たちへの制裁と山田くんへの見せしめってところかな。それで山田くん以外とは連絡が取れなくなったのか」


 たぶんその時にこれ以上俺たちに協力するなと葛原はその人たちに伝えたのだろう。


「それでバイトが終わって帰ってる途中、男の人に声をかけられて、それで、それで、うぅ。わぁぅあぁああ!!!」


 急に山田が取り乱し頭を掻きむしり始めてしまった。

 俺と架流さんはもう分かったから大丈夫!と言って山田の手を止める。

 それでも抵抗してくる山田を架流さんが抱きしめて、大丈夫、大丈夫と言いながら背中を叩く。

 最初は架流さんを引き剥がそうとしていた山田だったが、少しすると落ち着きを取り戻し架流さんに体重を預けている。架流さんはまるで子どもをあやすかの様にそのまま背中を摩っている。

 きっと声をかけてきた男に一方的にやられたのだろう。

 きっと店長の顔を腫らしていたという表現は、気を使った控えめな表現だったのだろう。時間が経っているにも関わらず、未だ完全に治りきっていない山田の傷がそれを物語っていて、思い出したくもないくらいの事をされたのだろう。ここまでしてくるとは思わなかった。


「山田と連絡が取れたのは、俺たちへの警告って事ですかね?」


「恐らくね?山田くんに制裁したいだけなら完全に関係を切れと言われてるだろうしね」


 葛原が山田に対して、俺たちと関わるなと言わなかったとはいえ、さすがにこれ以上山田にお願いするのは酷だろう。

 俺と架流さんは山田を部屋のベッドで横になるように言い、眠りにつくのを待ってから部屋を後にした。


「これでまた葛原の動きがわからなくなったね」


「・・・そうですね。それに山田をあんな風にした男が誰なのか分からない以上、近づいてくる人全員疑わないといけないですし」


 ほんとに信頼出来るいつものメンバー以外の人全てを疑うのは気が滅入ってしまう。

 口で言うのは簡単だが、人を疑うという行為はそれだけで気力を使うのだ。


「別で協力出来る人がいないか探してみるよ。期待はしないで欲しいけど・・・・・・。」


 架流さんなりに頑張ってくれる様だが、誰かを頼るとなると、それと同時にその人を疑わなくちゃいけなくなるし、を見た後じゃ乗り気になれないのだろう。その証拠にいつもの余裕や軽い雰囲気が架流さんから感じられない。


 俺たちは重たい空気を纏いながら、お互いにそれ以上話す事もなく帰路に着いた。

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