第40話 エレオラの言葉

 金色の明るい光の中、1人の女性が立っていた。


 明るい金髪はゆるやかに波打ち、大きな明るい青の瞳がまっすぐにアレシアとカイルを見つめている。


 手を伸ばせば、彼女が着ている、クリーム色をした帝国風のドレスに触れられそうな気がするくらい、実体があるように感じられた。

 女性は明るい笑顔を見せると、手を伸ばして、アレシアとカイルの頭に触れた。


「エレオラ伯母様」


 女性がうなづくと、アレシアはひとつの物語が映像となって頭の中に展開されていくのを感じた。


 リオベルデで、エレオラの帝国への旅立ちを見送るアレシアの母、エリン。

 姉妹はしっかりと抱き合って、別れを惜しんでいた。


 帝国に着いて、カイルの父でもある皇帝との初対面に臨むエレオラ。

 エレオラの目の前で、足早に去っていく皇帝の姿に、アレシアはカイルを思い出した。


 やがて、時間が進み、皇帝の側室達と子供達の姿が見える。


 エレオラは誰に対しても態度を変えることはなかった。

 側室の子供達を1人1人抱きしめるエレオラ。

 エレオラの後ろに、いつの間にか皇帝が静かに寄り添うようになったのに、アレシアは気づいた。

 

 エレオラは言った。


『どの子も等しく愛し、それぞれに合わせた役割を与えること。長所を伸ばすこと。皇家の中に居場所を作ること。そして誰もが共に国を盛り立てるという意識を持つことです。そうすることで、皇家の呪いを打ち破るのです』


 エレオラは微笑み、アレシアとカイルの頭をそっと撫でた。

 エレオラの後ろにいた皇帝が、ためらいながら手を伸ばし、カイルの頭に触れた。

 カイルの目が驚きで見開かれる。


 金色の光がさらに強くなり、眩しくてエレオラの姿を見るのが難しくなった時、アレシアはこの大切な時間が終わりかけていることを感じた。


(父上は……、母上は……)


 アレシアは光の中に、必死に両親の姿がないか探し、エレオラと皇帝の隣に、父と母が共に立っている姿を見た。

 2人は愛おしげにアレシアを呼んだ。


『アレシア』


 父はやはり、クルス兄様とそっくりだ。

 ブラウンの髪にヘイゼルの目をして、やさしく微笑む父にアレシアは思う。


『アレシア』


 長い銀色の髪を背中に垂らし、純白の衣装を付けた母エリンは、確かに自分によく似ている。

 でも、自分よりもっと可愛らしく、愛嬌あいきょうがある気がする。

 アレシアはくすりと笑った。


 光が強過ぎて、エレオラの姿ももう見えない。

 それでも、最後にエレオラのメッセージが届いたのを、アレシアとカイルは感じた。


『アレシア、リオベルデの姫巫女よ。平和を願って祈りなさい。それがあなたの役目です。リオベルデにいても、ランスにいても、あなたは平和をもたらす巫女であるのです。皇帝カイルよ。アレシアと共に、平和を守りなさい。そして、生涯しょうがい、姫巫女を守り続けてください』


 金色の光は消え、静かな丘には、風が吹く音だけがしていた。


「アレシア様……カイル様……」

「大丈夫でしたか? 何か強い光が丘の上に……」


 丘を上ってくるネティとエドアルドの姿が見えた。

 カイルは、涙を流しているアレシアをしっかりと抱きしめていた。

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