ex 本州某県某温泉街へ 下

 まさかこうして旅行券を使う事になるとはと、目的地の温泉街への道中で黒玄霞は考える。

 恐らく何事も無ければこうして温泉旅行へと向かったりはしていないだろう。


 先日真が温泉街での怪異の調査を提案してきた際、割と自然な流れで件の温泉旅行券の使用を提案したのは、およそ日帰りで帰れるような場所では無い温泉街へ怪異の調査をし、あわよくば仕事の営業を掛けようと提案されたからだ。


 で、そうなれば泊りとなる訳だが……此処からは完全に自分のやらかしである。


 まずこの場合二人で行くだろうと思った訳で、そうなると泊りだと考えた訳だ。

 普通に冷静になって考えれば二部屋確保するという事になる訳だが、此処でドンピシャなアイテムを持っていた事がノイズになった。


 なんか自然と同室でという風に、意味の分からない着地の仕方をしてしまったのだ。

 それを真の方から提案してきたと考えてしまったのだ。


 本当に湯治が必要な位に疲れていたのかもしれない。


 で、元々真サイドが嫌でなければ自分は別に良いというスタンスだった事もあり、じゃあ旅行券を無駄にせずに使おうとこっちが主導で話を進めて。


 で、やや困惑していた真と共に話を纏め終わり、一息ついた頃になって何かおかしくないと気付いた訳だ。


 多分真は遠回しにゆっくり温泉にでも行ってきたらどうですかと進めていた訳で、最初は自分は行くつもりが無かったのではないかとも思うし、行くにしても多分彼ならば同室でなんて提案もしなかっただろう。

 それをなんか全部誤認して、今の形に落ち着いた。


 一度落ち着かせた以上今更ひっくり返す訳にもいかず、それに結局のところ真が嫌で無いなら別に良い訳で。

 異性でも真なら良いかと思えるから別に良い訳で。


 ……とにかく。

 まあとにかくこういう経緯で二人旅だ。


(……いやまあ大丈夫とは思ったけど、妙に緊張してきた)


 今自分の助手をしている白瀬真という男は自己肯定感が低い以外は、それと反比例するように中々の奴だ。

 何をやらせても優秀だし、気遣いもできる。

 それに会話の波長も結構合うしシンプルに顔も良いし……土壇場で逃げずに生身で立ち向かっていた姿勢も、褒められたものかどうかはともかく普通に格好良かった。


 本当に自己肯定感と反比例。


(うん、別に良いというか……悪くないなぁ……)


 本当に色々と結果オーライである。

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