2 大義名分
この日の講義は午前で終わり、午後からは事務所へ向かうこととなっていた訳だが、その足取りは此処最近の中では比較的軽い。
今日の午前中、僅かながら現状の問題を解決する為の収穫が得られた。
この日手にしたのは、怪異が関わっているかもしれない現象についての情報だ。
(改めて考えてみても、絶対怪異が絡んでるよなこれ)
同じ大学に通う友人に、先日彼女と他県の温泉に行ってきたらしい森崎という男がいる。
本日彼の惚気話に付き合わされた訳だが、その際に気になる事を言っていた。
要約すると異様に元気になったらしい。
湯治という言葉があるように、温泉での療養で心身のケアを行う事は現実的に可能なのだろうが、たがだか一泊二日の温泉旅行に行っただけの森崎が体験したのはそんな現実的な話ではないようだ。
例えるならば、ゲームで回復アイテムを使用したような状態とでも言うべきだろうか。
気休めなどではなく強く自覚できる程明確に体の疲れが取れて、体が軽くなった。
本人曰く眠い時にエナジードリンクを飲んだ瞬間を遥かに上回る程覚醒したとの事だ。
流石にそれはおかしいだろう。
温泉の効能などを信じていないわけではないが、そんな魔法のような事はない。
そして現実に魔法がない以上、そこにあると考えるべき現象、存在は怪異という事になる。
そしてそれが怪異であるならば……霞のような怪異の専門家が足を運ぶ理由になる。
解決するべきか否かは分からないがそれを見極め、場合によっては営業を掛ける為に足を運ぶという大義名分となる。
出張という名の旅行ができる。
そう、それが今回の収穫の肝。
先日の警察から受けた依頼による報酬は当然直接手を付ける事はできず、相変わらず霞は金欠なままだが、こういう大義名分があればその一部を出張費として流用してもいいだろう。
そして怪異の調査という建前でしっかり休んで貰う。
流石に一人分の旅費位捻出できる筈だ。
そう考えながら事務所へやってきた訳だが……良い意味で想定外の事があった。
「なるほど温泉街での怪異の調査ね……ってちょっと待ってくれ白瀬君……あ、此処だ此処だ。ナイスタイミングだ白瀬君」
「ん? どうしました?」
怪異がいるかもしれないという話を霞にしていた所で、少々ご機嫌な様子で霞が言う。
「実は先日温泉旅行が当たってね。丁度この温泉街……なんならキミの友人が泊まった宿と同じ所だ。これで経費が浮くねえ」
なんだかとんでもないミラクルが起こっていた。
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