13 始動

 あの後、霞は改めてあの返信に目を通した。

 だが今度は不意打ちではなく、適切な対策を取りながら足を踏み入れた訳で、目に見えた影響は感じられない。

 その辺り、本当にこの人は怪異の専門家なのだと思わせられる。


 そして順調なのはその先に進んでも変わらない。


「うん、流石に不思議な気分だねぇ」


「でもそう認識できる辺りうまく行ってるって事ですか」


「そういう事になるんじゃないかな」


 URLに触れた先にあったのは何も表示されない白紙のページ。

 だがそれでも霞の脳内には指定の場所へ向かうよう指示のような物が流れて来たらしい。

 流れてきた上で、まだ正気を保っている。

 正気を保ったまま、怪異の懐に潜り込める。


 これでどうやら第一関門は突破したと考えても良いだろう。


「ちなみに何処に行く感じになってるんですか?」


「具体的な事は分からないよ。言わば目的地の書いていないカーナビみたいな状態だね」


「どうする? 目的地まで車出す?」


「いや、しっかり頭に流れている通りに進んでみる。綾ねえは職場戻って良い返事を待っててよ」


 そう言った霞は立ち上がり体を伸ばしてゆっくりと歩き出す。


「じゃあ早速出発だ。頭の中に暗示が流れ込んできているにも関わらず立ち止まっているのは、色々と不都合かもしれないからね。私が先導するから白瀬君は玄関の戸締りだけ頼むよ」


「あ、はい」


「じゃあ私もこれで失礼しようかな」


 そう言って霧崎と共に真も立ち上がった。

 そして一足先に部屋を出ていく霞の背を見ながら、霧崎は言う。


「白瀬君。よろしくね、あの子の事」


「ええ。でも俺本当に素人なんで。何の役にも立てないと思っておいた方が良いですよ」


「……まあ私は白瀬君の事を良く知らないし、その辺が実際どうなのかは分からないわ。でもあなたがこうしてあの子に着いて行く意思を見せてその許可が下りたのは事実な訳だからさ……手ぇ貸して上げて。着いて行く。それだけで凄い事なんだから」


「……別に来いって言ってる訳じゃ無いんですけど、霧崎さんは良いんですか。多分普通に心配してますよね。行きたいんじゃないですか」


 おそらくこの人は本当は霞に着いて行きたいが、怪異の案件を専門家に投げる事になっている警察とう立場上行けないという事なのではないかと考えるが、その考えは半分正解で半分不正解なのだろう。

 ……きっと、行けない理由は他にもある。


「……可愛い従妹に明らかに危険な仕事を依頼しに来ている時点で察してよ。そういう意味じゃ行けるあなたが凄いの」


 どこかその声音からは無力感の様な物を感じる。


「そうですかね」


「……でないと私が酷いろくでなしになる。残念だけど、私じゃもうあの子の隣は歩けない」


 きっとおそらく霧崎もかつて何かあったのだろう。

 怪異絡みの一件で、何かが。

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