11 熱と憧れ
「とにかく私はやるよ。やらないといけない」
「……」
少しだけ、場の空気を静寂が支配した。
そして結局それ以上は何も言えはしない。
失礼かもしれないが霞の主張は的を得ていて、確かにそれはその通りかもしれないと思わせるには充分だった。
今此処で手を出せる者が出せなければ、誰も手出しができなくなる。
それはきっと事実で、そして一般的な倫理観として、このまま未解決事件になるような事は絶対に避けるべきだと思う。
もっともそれは世話になっている知人が、分の悪い賭けに命を賭けるのを見過ごしても良い理由にはならないと思うのだけれど。
自分がその中心に居るのならともかく、それ以外の誰かがそこに居るのなら尚更止めなければならないと思うのだけれど。
そんな事は分かっているし、分かっているから此処まで止めようとして来たのだけれど。
それでも。
……それでも。
「……分かりました。そこまで言うなら俺はもう止めませんよ」
だけどそれ以上に、自分の中でもどこか否定したくない気持ちもあったのは事実だ。
良くない考えかもしれないが、間違いなく何者かであった彼女の選択を尊重したいと思ったのだ。
自分の中で漠然としている【何者か】という概念の怪異の専門家に絞ったとすれば、間違いなく自分がそうあれたら良いと思うような言動を今まさに霞が示している。
損得勘定を抜きにして、自分が正しいと思う事に危険を顧みず全力で踏み込む。
目の前で放たれたその熱に、強く惹かれたのだ。
だから憧れという半ば自己中心的な願望が混じってしまっているけれど。
今回、彼女をもう止めようとは思わなくなった。
善意で立ち上がろうとしている人を前に、本当に褒められたものではない理由で恥ずかしくなるが。
だけど、だからこそ尚更。
「指示、願いします。なんでもやりますんで」
目の前の憧れが潰えてしまわぬように。
凡人は凡人なりにやれる範囲の全力を出してこの人をサポートするのだと。
同程度のリスクは背負おうと、そう誓った。
だが。
「じゃあさっきも言った通り、私がおかしくなったら止めてくれ。後の事は私がやる」
「……え?」
黒幻霞は未知の脅威に一人で飛び込もうとしていた。
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