どこにもない駅

うさみゆづる

わたしの海

山肌に沿って走る列車が

満月の夜を渡っていく

布団の中でも車輪が見えるから

冷たい風が朝をゆっくりにして

もう少しだけ長く眠れる

つま先まで毛布にくるまって

冬に満たされるのだ

何も聞こえない

静まった山では全てが目を閉じる

麓は静寂の町だった

死に意味なんかない

ただ生き延びているだけだから

善い人になれなくていい

帰り道に百円を拾って交番に届けても

それは死から遠ざかるわけじゃない

泣かない獣より泣く獣

旬の生き物はいつも薄情なのだと

涙が季節を知らせてくれる

だからあなたはいつまで経っても

冷たく深いわたしの海だ

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