数々の告白を振ってきた学校のマドンナの彼氏役になったんだが、いつの間にか役じゃなくなっていた件

ネコクロ

第一章

プロローグ

『――黒雪くろゆきさん、好きだ! 俺と付き合ってくれないか!?』

『すみません、私は誰とも付き合う気はないので』


 顔の整った、美男子といわれる高身長のイケメン男子が、その存在すら薄れるほどの超絶美少女に、振られた光景。

 それを見ている、多くの視線があった。


「うぉ……! バスケ部キャプテンで、女子に大人気の羽鳥はとり先輩まで振られたぞ……!」

「あの先輩でも無理なんて、いったい誰なら付き合えるんだ!?」

「てか、これで何十人目だよ!?」


 校舎裏で行われる、今や恒例となった告白劇場。

 学校一人気な女子――黒雪くろゆき美咲みさきに対して、男子が告白をするというものだ。

 数々の男たちが告白をしてきたものの、全員が振られているらしい。


 ならば諦めればいいと思うが……学校一人気というのは伊達だてではなく、黒雪美咲はすれ違えば誰もが振り返るほどにかわいいのだ。

 噂では、中学の修学旅行で東京に行った際に、アイドルやモデルの事務所にスカウトをされまくったとか。

 諦めの悪いところは今でも連絡をしてきていて、黒雪さんは断り続けているらしい。


 そして何より、性格がとてもいいのだ。

 明るくて誰にでも優しいし、男女へだてなく仲良くしている。

 そんな子が、モテないはずがなかった。


「誰なら――じゃなく、誰も付き合えないってのが、答えだろ?」


 俺――白井しらい来斗らいとは、窓から黒雪さんたちを見ていた同級生たちに告げる。


 黒雪さんははっきりと、『誰とも付き合う気がない』と言っているじゃないか。

 どうしてみんな、彼女の言葉を信じようとしないのだろう?

 淡い期待なら、やめたほうがいい。


「……また白井かよ。誰もお前に言ってないんだよ」

「そうだそうだ、話に入ってくるんじゃねぇよ!」

「お前みたいな付き合い悪い奴、お呼びじゃねぇんだよ!」


 俺が話に入ったことが気に入らなかったらしく、罵声ばせいが飛んできた。

 どうやら俺は、嫌われているらしい。

 一年生の頃から付き合いは悪いし、口も悪いからそれも仕方がないのだろうが。


「わかったわかった」


 あまり取り合うと熱が増すので、俺はてきとーに流して帰ることにした。


 そうして、下駄箱に向かうと――。


「はぁ……」


 溜息を吐きながら靴を履き替える、黒雪さんと出くわした。

 鞄を取りに戻っているんだろう。


「大変そうだな」

「あっ、白井君。もう帰るの?」


 声をかけたことで俺に気付いたらしい。

 疲れた表情は隠れ、温かい笑顔を向けてくれた。


「あぁ、やらないといけないことがあるからな」

「そっか、気を付けてね」

「黒雪さんもな」


 同じクラスなのでこういった話はするのだけど、それ以上踏み込んだ会話をする仲ではない。

 溜息については触れてほしくなさそうだったので、俺はもうそのまま帰ることにした。


 ――本来であれば、人気者と嫌われ者という対比の立場にいる俺たちは、深く関わることもなく卒業をするのだろう。

 少なくとも、この時の俺はそう思っていた。


 それなのに、まさか――そんな俺たちが、カップルになるという運命のいたずらが起きるなど、この時の俺は知るよしもないのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る