第22話 夏休み二日目⑤(早すぎる再会)

「あれ? 晶矢くん?」


 たくさんの曲を一緒に練習し、充実した時間を過ごした二人が、会計を済ませてカラオケ店を出た時だった。


 店の出入り口のところで、二人は誰かに声を掛けられた。


 振り返った晶矢が「あっ」と声を上げた。


「春人さんと、ユウさん」


 見ると、黒髪でシャツもズボンも黒の、背中に楽器のケースを背負った少年と、見上げるような背の高さの、茶髪で派手なシャツを着たお兄さんが立っていた。


 涼太郎は「えっ⁈」と思わず声を上げた。

 二人に見覚えがあったからだ。


「えっあれ⁉︎ 昨日、いやさっき……」


「おや、やっぱりまた会ったね」


 少年が涼太郎に気付いて、にっこりとして手を振った。

 昨日の朝、原田さんちのムサシと散歩していた時に出会った、柴犬コジローの飼い主の少年だった。


「嘘でしょ、こんなことってある?」


 そして、派手なお兄さんも涼太郎に気付いて、歓喜の表情で口元を押さえている。

 午前中、木の上で猫と一緒に降りれなくて困っていた、猫のウメハルの飼い主のお兄さんだ。


「お前、春人さんとユウさんと知り合い?」


 晶矢がその様子を見て涼太郎に尋ねると、涼太郎は首をぶんぶん横に振った。


 つい、昨日の今日、通りすがりに偶然出会った人たちだ。もう会うことはないと、涼太郎は思っていた。


(えっなに、待って⁉︎ この人たち、晶矢くんも含めて全員、知り合いなの⁈)


 別な日に偶然出会った二人と同時に再会し、しかも二人が晶矢とも知り合いだったと言う事実に、涼太郎は状況が整理できず大混乱している。


「もしかして、この子晶矢くんの友達?」


 少年が晶矢に尋ねると、晶矢は頷いた。


「俺と同じ二年生で、隣のクラスのやつです。ちょっとコミュ障だけど」


 へえ、と少年が涼太郎を見て言う。

 涼太郎は人見知りが最大級に発動して、思わず咄嗟に晶矢の後ろにさっと隠れてしまった。


「なんだ。じゃあ君も同じ学校だったんだ」


 そう言ってころころと笑った少年は、涼太郎に自己紹介をした。


「俺は、佐原春人さわらはると。N高校三年一組。軽音部の部長をやってるよ。楽器はベースを担当しているんだ。ユウも自己紹介してあげて」


 春人と名乗った少年に促されて、背の高いお兄さんが涼太郎ににこやかに微笑みかける。


「私、村崎優夏むらさきゆうが。春人と同じクラス。軽音部副部長で、楽器はドラムやってるよ。ユウって呼んで」


(えっ! この人たち同じ高校の三年生⁉︎ 軽音部の人⁈)


 涼太郎は殊更びっくりして声が出ない。


「俺一年の時、軽音部に入部希望だったから、その時から二人には仲良くしてもらってる。この人たちの音楽、すげーカッコいいんだぜ」


 晶矢が背中越しに振り返りながら、涼太郎に説明してくれる。


 春人のことを中学生くらいだと思っていた涼太郎は、春人がやけに大人びた口調だったことに合点がいった。


 優夏については、ガタイも大きく派手な格好をしているので、てっきり社会人の人だと思っていた。


 まさか、同じ学校の先輩たちで、晶矢とも知り合いだったなんて。


 涼太郎は晶矢の後ろに隠れたまま、何とか小声で名乗る。


「……ぼ、僕……二年の、花咲涼太郎、です」


 そして、春人の方をちらりと見ながら言う。


「あの……足、大丈夫、でしたか」

「うん、君のおかげで、昨日の夜には痛みが引いたよ。コジローも元気にしているよ。ありがとう」


 春人が微笑んで頷くと、涼太郎は今度は優夏の方に声を掛けた。


「あの……熱中症とか、大丈夫、でしたか」

「ええ、あなたのおかげで、私もウメハルも元気になったわ。ありがとう」


 優夏が笑ってそう言うので、涼太郎はようやくホッとして安堵の表情を浮かべた。

 晶矢がその様子を見て、何が何だか分からず困惑している。


「何? どういうこと?」

「この子に助けてもらったんだよ」

「そうよ、命の恩人なのよ」


 春人と優夏は、晶矢の後ろに隠れたままの涼太郎に、にこやかに微笑んで言った。


「「よろしくね」」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る