41話 子供を作ってください
「釈明をしてもらえますかね~~~?」
ケイニスはおでこに怒りマークを出しながら、満面の笑顔でメイリオナに詰め寄った。
セシリアとの相談を終え、そろそろお暇しようとした彼女をケイニスが引き留めたのだ。
「うん?なんの釈明ですか?」
「なにって、セシリア様に変なこと言わせたじゃないですか!!」
「変なことでしょうかね?子作りしたいってことは」
「なるほど、この人も頭終わってるのか」
ケイニスがぽつりつぶやくと、メイリオナはぷふっと噴き出してから、彼を見つめる。
「ありがとうございます。ケイニス・デスカール」
「は?なんで突然?」
「私の弟子の命を助けてくださったじゃないですか。クロリア様は私の愛弟子なんですよ?占星術師として、私以上の才能を持ち合わせているお方ですから」
「は……いや、でも別に感謝されることなのでしょうか?当たり前のことをしただけなのに」
「ふふっ、だからあなたは罪深いのですよ?全く自覚がないから」
ケイニスは眉根をひそめていると、メイリオナは少しだけ真面目な表情をして語り掛ける。
「気を付けてくださいね。間もなくして、王室でとんでもない波乱が起きますから」
「うん?波乱?」
「はい。この国を揺るがす大きな事件が、もうじき訪れるでしょう。ケイニス、あなたはその波に立ち向かうことになります」
「………」
複雑な表情をするケイニスを見て、メイリオナは思い出す。
この事件が起きて、衰退し始めた王国はまたもや弱体化することになった。
それから、帝国の侵攻を受けて……3人の王女たちにも、それぞれ最悪な事態が起こるのだが。
『あなたならきっと、その
その悲劇は、すべてこの人の存在によって、喜劇に書き換えられるのだ。
だから、感謝をしなきゃいけない。クロリアの師匠である以前に、一人の王国の民として。
この王国を救う人に、最大の祝福と感謝を送らなければ。
「……分かりました。ご忠告ありがとうございます、メイリオナさん」
「最後に一言だけ残してもいいでしょうか?ケイニス・デスカール」
「あ、はい。なんでしょう」
「あなたはありのままの自分でいればいいですよ」
メイリオナは嬉しそうに笑って、ケイニスを見つめた。
「あなたがどんな道を歩こうとも、この世界の神はいつも、あなたを見守っていますから」
夜、ケイニスは部屋で横になったまま、メイリオナの言葉を思い出していた。
もうすぐ、国を揺るがす大きな事件が起きてしまう。王国に波乱が訪れる。
それは、前世のゲームの中で起きた様々な出来事のことだろう。しかし……。
「いや……事件が多すぎてちょっと分からないんだよな」
ケイニスは自分が、過去のゲームと全く別のルートに入ってしまったことを、なんとなく感づいていた。
自分はイブニアに好かれていて、同時にクロリアにも好かれているのだ。それに、最近はセシリアの様子までおかしい。
これ、もうハーレムルート確定なのでは?いや、でもゲームではハーレムルートなんかなかったのに!?
「くっ……!腹上死だけは避けなければ……!」
一つのベッドで3人に同時に襲われる場面を想像したら、背筋が震えて言葉が出なくなる。
うん、何としてでもそんな事態だけは避けなくては!
そういえば、王室にそろそろ戻らなきゃいけないんたけど……はああ。
「マジでどうしよう……子作り役」
まさか国の統治者である女王が、自分の娘を孕ませてくださいとお願いするなんて。
頭が痛くなる女王の言葉を思い返しながら、ケイニスはため息を吐く。
……セシリアのことを考えたら、やっぱりやらない方がいいだろう。ああいう行為は、好きな人とやるべきだし。
何としてでも、子作り役の期間が終わる前に適当な建前を作らなきゃ。うん、そうしよう。
そう思って、ケイニスは目をつぶろうとしたが―――
「……あ、あの、ケイニス・デスカール?起きていますか?」
突然聞こえてきたノックの音とセシリアの声に、意識が再び覚醒させられた。
うん?こんな夜中に、どうしたんだ?
「はい。一応、起きてはいますけど」
「な、なら……中に入れてもらえませんか?」
「うん?いいですよ」
ちょうどいい。セシリアとこれからのことをちゃんと相談してみよう――――
そう思って、ケイニスはドアを開けた瞬間。
「…………」
「…………」
下着姿で、手首に手錠をはめているセシリアを見て。
ケイニスは、反射的にドカン!とドアを閉じてしまった。
「は、はあっ!?!?な、なにをするのですか!?」
……幻覚か?
うん、幻覚だよな?いや、幻覚でなければならない。そうでなきゃいけないんだ。
だって、一国の王女が他人の家で、下着姿で手錠をはめたまま男の部屋に来てるんだぞ?
これがもし本当のことだったら、俺の脳が破壊される……!
「け、ケイニス・デスカ………ご、ご主人様!門を開けてください。恥ずかしいです!」
「ふむ、今度は幻聴か」
「わ、私はご主人様と子作りをしに来ました!!」
「きゃああああああああああああああっ!!!!」
なんてことを言うんだ、この王女は!!
ケイニスは光の速度でセシリアを部屋の中に入れて、彼女の口元を手で塞いでしまった。
「ご、ごしゅじ……んむっ!?ん、んん……!!」
「恥ずかしくもないのかよ、この変態王女が!お、女の子が子作りしたいだなんて!!」
「んむっ!?ん……ん……♡!」
「なに顔赤くさせてんだ、このマゾ豚!」
涙を流しながら手を離すと、セシリアはさらに顔を赤らませた。
よほど息苦しかったのか、彼女は断続的に息をこぼしている……が。
「も、もう一回……」
「?」
「だ、誰かに口元を塞がれたのは初めてだったから……気持ちよくて」
ケイニスの脳が破壊された。
ケイニスはハイライトを消した目で、まるでクズを見るかのようにセシリアを見つめたが、彼女は生粋のマゾヒスト。
その目つきさえも、大きな興奮に置き換えられてしまう人種なのだ。
セシリアは益々体をよじりながら、下半身をもじもじさせた。
「くっ……!人が勇気を出してここまで来たのに、こんな扱いを……!」
「とりあえず服を着ましょうか」
「えっ?あ、あっ……!」
ケイニスは目につく自分の上着を、無理やりセシリアに被せる。
咄嗟にご主人様の匂いに包まれたセシリアは、さらに気持ちよくなって大きく体を震わせた。
「は、はうっ……うっ、ううん……!」
「なんでこうなるんだ……!なにをすればお前に嫌われるんだよ!!」
「な、なにを言うのですか!私はあなたのこと、別に好きでもなんでもないのですよ!?」
「お前は好きでもない相手に夜這いをする女なのかよ!!」
「だって、あなたと子作りはしたいのです!!」
……うん?好きでもないのに子作りはしたいんですって?
立派な童貞であるケイニスはその言葉を全く理解できず、ただ呆然とするしかなくなった。
そして、セシリアは目をぐっとつぶりながら、切実に語り始める。
「私は、ご主人様のこと……ケイニス・デスカールのことなんて、別に好きでもなんでもありません!ただちょっと、ふとした瞬間に顔が思い浮かぶだけで、ちょっと声が聞きたくなったり会いたくなったりするだけで、全く、これっぽっちも!あなたのことが好きではないのです!」
「……………」
「でも、子作りをしなきゃいけないのなら、あなたとしたいから!これは、王女としての義務でもなんでもなくて、ただ……!ただ、セシリア・フォン・アインツハインとして、私の子供の父親になる人間なら、あなたの方がいいと合理的に判断をしただけです!!」
ケイニスは言葉を失った。セシリアは、顔を真っ赤にさせながらもなんとか話を終える。
えっ?なんでこうなるんだ?まさか、セシリアまで自分のことを……!?
ケイニスが混乱している中、セシリアは突然、彼に抱き着いてから言う。
「だから、お願いします。私と、子供を作ってください……!」
あまりにも切実な、その声に。
ケイニスはしばらく、凍り付いたように動きを止めてしまった。
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