あたし、ツルギを信じてるから
空軍航空学園。
それは、軍のパイロットや整備士といった航空要員を養成する高等専門学校で、世界各国の軍隊に存在する。
入学すればもちろん軍属扱いになり、卒業後も最低5年間の軍属が義務付けられる。
しかし、航空学園は少年兵・少女兵を育てる場所ではない。
在学中はあくまで『実習生』として扱われ、卒業して初めて階級が与えられ正規兵となるシステムになっている。
パイロット学部の学生は、入学してすぐにパイロットになるための基礎的な教育を受け、2年から飛行訓練を開始。そして4年からの後期課程に入ると、各学科に分かれて実用機に乗り実戦的な技術を学ぶ事になる。これが、基本的な教育の流れだ。
その中でも戦闘機パイロットを養成する戦闘機科は、心技体全てにおいて優れた者だけに入る資格を与えられる、エリート学科だ。
ストームとツルギは、そんな戦闘機科の4年生にこれから加わる事になる──
* * *
校舎に入り、きちんと掃除が行き届いた1階の廊下を進む一同。
だが、人気は全くなく静かだった。来る日を間違えたのではないかと錯覚しそうになるほどには。
「そういや、まだ新学期前日やもんな。いやー、珍しい人いるから視線集まるの覚悟してたんやけど……」
「ココ、東洋ダヨ……?」
「まあ、そうなんやけどさ」
フェイとサハラがやり取りしている。
それを聞いたツルギは、ふと浮かんだ疑問を口にする。
「やっぱり、僕みたいな日系人って、珍しいのか?」
「いや、それ以前や。学園の学生が国際結婚して、しかもそのお婿さんを編入させる、なんて前代未聞やで。そりゃ注目もされるやろ」
やっぱりそうか、とツルギは納得する。
「じゃあ、あたし達有名人だね。サイン書けるようにしとかなきゃ♪」
だが、ストームは嬉しそうだ。
彼女の前向きさを見て、フェイが苦笑する。
「にしても、最近の軍は人材確保に必死やなあ……『ラグナロク計画』のせいやとは思うけど──おっと」
話している途中で、フェイが足を止めた。
「着いたで、ここや」
とある教室の前。
どうやらここが、目的の部屋らしい。
ツルギにとっては緊張する瞬間。こういう場面は、何度こなしても慣れない。
フェイは代表して、教科書通りにドアを2回ノックした。
入れ、と男性の声がドアの奥から聞こえた。
フェイはドアを開けると、サハラと共に姿勢を正して教室に踏み入る。ストームとツルギも後に続く。
入った途端、空気が変わったのをツルギは感じ取る。
教壇には、軍服姿の男性が立っていた。
肩の階級章は、大尉のもの。つまりツルギ達にとっては、立派な上官だ。
彼の前でフェイが、代表して挨拶する。
「ストーム、ツルギの2名をお連れしました」
「2人共ご苦労だった。下がっていいぞ」
「はっ!」
揃って敬礼をするフェイとサハラ。
そのまま廊下へ出てドアを閉める直前、フェイがツルギに対して軽くウインクして見せた。
がんばれよ、と言わんばかりに。
「よく戻ってきた、ストーム君」
はい、とストームが元気よく敬礼しながら返事する。
「そして君が、ツルギ君だね」
は、はい、とツルギも続けて敬礼で答える。
「私はこの本校で教官を務めるロアルドだ。よろしく頼む。さあ、席に着きたまえ」
指示された通りに、ストームが車いすを運ぶ。
ストームは机の前に車いすを置いてから、隣の席に座った。
「さて、遠路はるばるこの本校へ来てもらったばかりで申し訳ないが、君達2人には早速編入試験を受けてもらう。正確には、追試と言うべきか」
追試という不吉な言葉を聞いて、ツルギは質問した。
「あの、ちょっといいですか?」
「何だ」
「ここに来る前に受けた試験に、何か不備でもあったんですか? 自分達は、合格の通知を受けているのですが」
ツルギは当然、ここに来る前に編入試験を受けている。それに合格できていなければ、そもそもここに来ていない。
「ああ、確かにアメリカで受けてもらった試験は、筆記、耐G検査共全て合格点だった。健康面でも特に問題点はない。だが、何せ君達は前例がないからね。結婚してスルーズ国籍取得の希望はともかく、回復の見込みありとはいえ下半身不随というのは……だから、もっと念入りにテストするべきだと上が聞かなくてね」
困ったように語るロアルド教官。
思った以上に厳しい人じゃなさそうだ、とツルギは感想を抱いた。
「そういう訳で、君達にこれから行ってもらうのは実技飛行試験だ。使用機種はT-6Cテキサン。後席にツルギ君を乗せ、ストーム君に飛ばしてもらう。内容は訓練空域で指定された機動を行ってもらうだけの単純なものだ。空域の天候は至って良好、絶好の飛行日和と言えるな」
テキサンという名前を聞き、もう懐かしく感じる名前だな、と感想を抱くツルギ。
「ストーム君、君の実技能力は私も十分承知しているが、問題はツルギ君がそれについて来られるかだ。君でダメなら、恐らく他のパイロットでもツルギ君を飛ばすのは無理だろう。そもそも君以外に名乗り出たパイロットはいないしな。とはいえ、相手が最愛のパートナーだからと遠慮はするな。手加減されては試験にならない」
「もちろん。あたし、ツルギを信じてるから」
ロアルド教官に釘を差されても、ストームは全く怯む様子を見せない。
「では訓練空域について説明するから、タブレットを渡す。フライトプランやマップが入っている大事なものだ。壊すんじゃないぞ」
ロアルド教官は、2人にタブレット端末を渡した。
2人は保存されていたデータを開き、その内容を確認したのだった。
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