第130話 修行の成果
驚いたことに盗賊をフーリア1人で退けてしまった。
人数差は言うに及ばず、向こうが圧倒的に有利というのに何の傷も負わずに完勝……相手が良かったと言われればそれまでだけど、魔王教団がそんな有象無象ばかりでじゃないのは分かっている。
だからこそ圧倒的な力を見せつけたフーリアに驚きを隠せない。
「紅蓮くんの所の子はあまり見ていなかったんだけど……予想以上に力を身に付けていたね?」
「あ、当たり前よ……」
フーリアは確かにそう自慢げに言い放っているけど、本人も少し驚いているように見える。
それだけ急成長を遂げたという実感を今感じているはず。
しかし自分の力に実感しているフーリアは背後から忍び寄る盗賊に気づかなかった。
後ろで何やらニヤニヤと笑っている魔王教団らしき男……けれどフーリアには風のオートガードがあるから大丈夫……。
と油断していたその時、盗賊は胸元からバチバチと火柱を立てている爆弾を取り出す!!
爆弾はダメだ!!
風の刃で誘爆を引き起こしてしまう。火薬の量ではフーリアまで届く場合だってある!!
私は咄嗟に炎の魔法を放つ。
いつもの「不死鳥の炎」これでフーリアごと巻き込むことで誘爆が起きても治癒できる。
素早く、そして距離もあるから勢いを殺さず魔法を放つ。
フーリアの命の危険があるのなら、まだ概要がわからないあの風の刃に頼れない。
私はいつもの炎の魔法「不死鳥の炎」でフーリアごと盗賊、そして投げている爆弾を燃やす。
距離が離れているのと、早く打たないと間に合わないので手加減無しのちょっと全力でそれを放つ。
「危なぁぁぁぁぁぁぁぁああああああい!!」
「え……ちょ!なにし――!?」
フーリアが驚いたような表情で戸惑っている。
分かっていても炎が向かってくるのは恐ろしいよね……。でも大丈夫これは治癒の炎でもあるから!!
と、私はフーリアなら分かってくれると思っていた。
だけど蓋を開けてみると私の炎は予想以上の威力で、フーリアと盗賊だけじゃなくて、荒野の枯れた地面ごと焼き尽くした。何メートル……いや、何百メートルまで炎が自然を壊してしまう。
フーリアにだけは治癒が行くようにしていたので彼女は大丈夫だけれど、予想以上のとんでも威力に放った私が一番驚いていしまった。
盗賊の爆弾は炎の勢いで吹き飛んでどこかで爆発した――しかし私が放った炎が大きすぎてよく見えなかった。
盗賊は何とか息があるみたいだけど、結構焦げていてその場に崩れ落ちる。
「あ、ありえない……」
ボトッとその場に崩れ落ちた。
これを期に盗賊なんてやめてくれるといいんだけど……いやそれよりもちょっとやり過ぎた……?
私自身ここまでやるつもりはなかったんだけど……思いの外、凄まじい勢いで炎が放出された。
そしてフーリアは驚かされたと勘違いして私の手をパチパチと叩いてくる。
「痛ッ!」
「何が痛いよ!!人を燃やしておいて!!!!」
「ご、ごめんて……でもあれ治癒の炎だから、熱くないでしょ?」
「そういう問題じゃなーい!!」
フーリアに怒鳴られて改めて反省するべきね……少し威力を抑えるようにしないと簡単に魔力が尽きるし、ちゃんと殺傷性のある魔法を使っていたら殺す気がなくても相手を死に追いやっていた。
それは私の求める強さとは違う。
後ろの方を走行していた男性陣の馬車も追いついて、そこからサツキ達が下りてくる。
どうやら向こうでも何かあったみたい、サツキ達の足が少しだけ汚れていた。
恐らくだけど盗賊は一度私達の馬車を見送ってから、後方へ奇襲を仕掛けた。そしてそれに気づかずに進む私達の前にこの盗賊達が襲って来た。
気づきにくかったのは使う武器が弓矢だったから……。
魔法と剣は扱える人間が限定されているが、弓は誰でも使えるただの武器……。
だけど魔法感知や同じ剣を使う者には気配を感じる事が出来るんだけど、それすらも感知させないので奇襲にはピッタリだ。
ただこの世界の冒険者や実力を誇る人達は大体魔法か剣を使う。弓や斧などの良くあるアーティファクトは精霊が宿っていないのでやはり弱い。
それでも頭に直撃したら死ぬので油断していると寝首を欠かれることになる。
案外私達みたいな魔法や剣に頼った人間を殺すにはちょうどいい武器なのかもしれない。
ここから先、警戒心を強く持つことが求められる。皆を危険に晒さないために……。
あ、でもフーリアの風の防壁があれば大体は防げるのか。
私にはオートで敵の攻撃を弾くなんてことはできないし、あまりフーリアから離れないようにした方が良さそうね。
そんな事は皆、百も承知なのかスイレンの4人でフーリアを中心にいつもとは違う至近距離まで詰める。
するとそれを見ていたルーフェは両手を広げて、私達の方へ近づいてくる。
「そんなことをしなくてもボクが居るから平気だよ?」
「い、いえ……ルーフェ様に頼るわけには……」
「大丈夫!気にせずさぁ!!ボクの近くへ来たまえ!少女諸君!!」
その言葉を聞いてそれがただの気遣いでない事は分かった。ルーフェはガードが堅い私達に合法的に肌に触れられる距離まで詰めたいんだろう。
もちろん瞬時に気づいたショナがそれを否定し、私達も同調する。
不服そうに腕を組んで頬を膨らませるルーフェだが、それ以上強くは言ってこない。
これも試験だから自分達で回避する方がいい。それは分かっているみたい。
「それじゃあここから歩いて山頂へ向かおうか!」
「途中にある村は寄らないんですか?」
「おそらく魔王教団に占拠される可能性がある……村の子達には申し訳ないが、全員を救う事はできない」
「な、なるほど……そもそも目的はあの山ですからね」
あの山……と言っても確かにここから見えるけど相当遠い。
「それにどうして歩き?」
「だって、あの盗賊の爆弾が……」
ルーフェの指を指す方向を見つめる。
そこには山が崩れた土砂崩れの跡がある。しかも最悪なことにそこは馬車で唯一通れる道だった。
てか爆弾……ってまさか私が吹き飛ばした奴……?
あまり考えないようにしたいんだけど、そうもいかないよね。ここはあれだ、誠心誠意謝ることが大事だよね。
「……………………ごめん」
「ルーク……!!」
「ひぇぇぇぇぇぇぇええ!!」
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