第089話 口撃

 森の入り口を確保すべく、猛スピードで駆ける未来さん。

 その行く手を阻もうと、四脚で走る俊足のウマ女。

 未来さんは光弾を撃ち、ウマ女は矢を放つ。

 二人は……いや、一人と一体か?

 ……ともかく並走を保って、前進と攻撃を続けてる。


『くっ……!? あの頭尻尾女あたましっぽおんな……ケンタウロスのわたしと並んでるっ!?』


「頭尻尾女ってなによっ!? ポニテ女子って言いなさいよぉ!」


 頭尻尾……。

 ウマ女と競ってる未来さん見てたら、なんかそう見えてくるな。

 しかし……見るからにウマ女のほうが速いのに、未来さん頑張って食らいついてる。

 ……………………。

 ……いや、違う。

 ウマ女のほうは前進に加えて、左右の回避行動が多い。

 けれど未来さんは……ノーガード!

 弓を食らいながら、ひたすら直進!


『チイッ……頭尻尾女め! 先を塞ぐような連撃がいまいましいっ!』


「そういうあなたは、狙いの精度落ちてきてるわよっ? お尻尻尾女しりしっぽおんなさんっ!」


『お尻尻尾だとっ!? 無礼な呼び方はやめろ、異星人っ!』


 ──パカッ! パカッ! パカッ! パカッ!


 ウマ女の蹄の音が大きくなった。

 スピードが……増した?

 ……いや違う、踏む力が強くなっただけ。

 力みが入ったことで、むしろ遅くなってるようにも見える。

 未来さん、もしかして──。


「──NPCを挑発して、動きを乱してるっ!?」


「そのようだな」


「癒乃さんっ!」


「恐らくあのNPCたちは、ユウに近い存在なのだろう」


「ユウに……」


「アタシはまだ、ユウがという話を聞いたことがない。仮にもしあのNPCたちが同じ仕様ならば、嘘や挑発がアタシたちの武器になるかもしれない。だがまずは、一旦森へ入ろう」


「……うん」


 ユウは嘘をつかない──。

 俺のユウは……どうだったかな。

 リアクションは豊かだし、反抗することもあったけれど、嘘はついていない……はず。

 このレイドックスの世界で、なにが嘘でなにが本当かは、わからない……が。


 ──ザバアッ!


 ……なっ!?

 森の手前の小川からナマケモノ男っ!

 ……じゃなくって、カワウソ男出現っ!

 川の中を泳いで先回りしていたのかっ!


『こっ……こっから先は、行かせないんだな』


 カワウソ男、両手の長い爪を掲げて威嚇の姿勢!

 でも意外と体毛長くて、目もまん丸の黒目でなんかかわいいぞっ!


「あなたの駆除は、わたくしに一任されてますのっ! せええぇいっ!」


 ……アオサさんが飛び出した!

 将棋で言えば、奇手に対して守りの駒が上がった格好!

 真正面から拡散弾を撃ち込んでいくっ!

 対してカワウソ男、両手の爪を体の正面でクロスさせるように振り下ろす──。


 ──ザシュッ!


「ぐうっ……被弾っ! このケダモノ……見た目以上にリーチがっ!」


『リーチだけじゃ、ないんだな。僕の爪には、たっぷりと毒が──』


「せいっ! せいっ……せえいっ!」


『──あ……あれ? 毒が効いて……なさそうなんだな? いったいこれは、どういうことなんだな?』


 爪の間合いを嫌って後方へ跳躍したアオサさん、射撃を続行。

 自分が耐毒スキルを有していることは口にしない。

 カワウソ男は与毒に失敗したことを不思議がっているのか、背後の小川を自分の防衛ラインと設定しているのか、前進しての追撃は行わない。

 仮に、前者ならば……。

 ここのNPCの連中、挑発や嘘、そして無言で攻められるっ!

 よし、俺もカワウソ男への攻撃に参加っ!


『う……うわっ! こいつら異星人には、僕の毒が通用しないのかもしれないんだな! 一旦退くんだなっ!』


 ──ジャブンッ!


 やった!

 カワウソ男が川の中へ退却したっ!

 それに、こちら全員が耐毒スキル持ちという誤解も与えたようだっ!

 そしてアオサさんが、水面にできた巨大な波紋に向かう──。


「皆さんっ、わたくしはここでいまのケダモノに備えますっ! いまのうちに森へっ!」


「ああ、任せた!」

「アオサちゃん、お願いっ!」

「気をつけて、アオサさんっ!」


 癒乃さんが先頭に立ち、誉さんを挟むようにして、俺が最後尾。

 枝に長い棘を生やした低木の茂みに囲まれた、高木が立ち並ぶ森──。

 その繁みのわずかな隙間を縫って、森へと身を隠す。

 木々を縫ってそこそこ進んだところで、癒乃さんが足を止めた。


「ここらでいいだろう。頼むぞ、誉」


「うんっ、任せて! ええぇええーいっ!」


 ──ダダダダダダダダッ!


 誉さんがぐるぐると前後左右に向き直って、がむしゃらに跳躍弾を発射。

 薄緑色の光弾が、密集した木々にぶつかって反射を繰り返し、その多くが森の内部に滞留する。

 高密度の障害物と、跳躍弾というスキルが生み出した、隙間のない弾幕。

 イマリさんの万華鏡カレイドスコープ弾幕とまではいかないまでも、被弾必至の鬼弾幕────。

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