エッセイ? なんそれ?

語理夢中

一日目 君を探していた。

 僕のライフワークの一つに神社を巡ることがある。

 その日もネットで見つけた近所の八坂神社へ足を向けた。

 最近移転され堤防の高さに鎮座する神社、町を一望できる立地の良い神社だそうだ。


 時は遡る。

 小学生にまで。

 家で飼っている猫が或る日、自宅のソファーで出産した。

 日常に訪れた突然の生命の神秘。

 慌てふためく僕らを他所に母猫は「私が育てますのでお構いなく」と言う顔で産んだ子の世話を始めた。

 その子猫達は様々な事情があり、残ったのは一匹だけだった。

 僕はその子を駐車場で膝に載せて名前を思案していた。

 撫でられながら日差しを受けて喉を鳴らす君の先、片隅のアスファルトに転がるガンダム消しゴム【武者ガンダム】を摘まみ上げ、ムシャとその子猫に名前を付けた。

 一緒に育ったと言って過言では無い、学校から帰って僕がすることは姿が見えなくてもムシャの名を呼ぶ。すると必ず屋根の上や背後から返事をしながら現れる。

 夜は風呂から上がれば濡れた髪を舐め、腕の中で共に眠る。朝彼女を起こさないように布団から抜けるのが大変だったっけ。

 僕は十七の春、家を出た。

 たまに帰る実家、変わらずに迎えてくれるムシャ。いいや、変わっていなくなどない。年老いて痩せ、擦れた声ですり寄る君。僕との時間軸の違いを知る。

 畳んだ布団の上で君の丸い背を抱いて寝た。


 妹からのメール。

「ムシャが死んだよ」

 次に実家に帰ったときも、僕はまた名前を呼ぶ。

 知っているよ、君が来ないことも、もう居ないことも。

 けど、僕が呼ばなくなったら君は本当に居ない事になってしまう。

 小さな兄妹よ、僕はもう一度君に会いたい。


 人生を折り返した今も僕は君に会いたいんだ。

 君の知らない家族を得たよ、君に会わせたいんだ。

 きっと皆も君を好きになる、そして君も皆を好きになる。

 今君が居たら誰を選んで、誰の腕の中で寝るのかな?

 きっと僕だよね。


 時は戻り八坂神社。

 良く晴れた境内、縁結びの神社。

 手を清め、鳥居の前で一礼して入る。

 左に鯉の池がある。池の畔で地面に鼻を突っ込んでいる痩せた猫。

 茶色いトラ柄の子猫、痩せて動きも緩慢で、一定の距離を保って離れない。

 宮司さんに聞くと迷いネコだと言う。

 チュール片手に戻ると待って居たかのように同じ場所に居る。


「お前なのか?」

「一緒に来るか?」

 瞬きで答える君をその日保護した。

 お腹の中は寄生虫に侵され、耳は皮膚病、鼻はカビ。

 保護した翌日は大雨だった。

 警戒心の強い君は何度も爪を立てて、噛んだ。それだけ生きるのに必死だったんだね。安心して良い。前の人生は君の兄妹だった。

 今回は君のお父さんだ。病める時も健やかなる時も今度は一緒に居るからね。


(↓トラの写真です。可愛いんだから。へへへ)

 https://kakuyomu.jp/users/gorimucyuu/news/16817330667173653802

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