第8話 祖父の恋人

おじいさんが造った会社って商社って言ってけ?

たしか綿布を扱う会社よ。

その会社の名前ってわかる?

確か 丸紅 だったかな。丸紅の全身みたいな会社よ。

それってすごいな。丸紅 って言ったら商社の中でもトップクラスだよ。

そうなの。

その会社 今残ってたらすごい企業になってるよ。おそらく世界の中でもかなり上の方の会社になっていたと思う。

そうなの 私あんまりよく知らないから。もう潰れちゃったっていう話だし。

もったいないよなぁ。

会社のお金のこと 優秀な中国人の部下に任せたら潰れちゃった そうよ。

なんだよそれ その中国人の部下が何かしたのかな?

会社のお金を全部持ち逃げされたって おばさんが言ってた。

犯罪じゃないそれ。

本当ならね。

随分昔のことだからよくわかんないわよ。

今その会社があったとしたらすごいことになってるかもしれないね。

丸紅 だぜ ずっと商社トップの それものすごいよ。年商で言うと 10兆円ぐらいあるのかなぁ。

明治の頃に生まれて生き残ってる会社っていうのはすごい会社が多いよ。しかも 財閥 じゃないから よっぽど 会社として力がなきゃ無理だよ。本当に優良会社ってわけだ。君のおじさん 本当にすごかったんだね。100年以上も前に外国で会社を作ろうなんて考えられないよ。どこでそんなことを考えついたんだろう。

富国強兵政策の一環だろうね。欧米に負けないように国を強くするために 政府主導 だったんだろう。おじいちゃん達は 浜松の方で訓練を受けたんだそうです。昔だから今よりずっと厳しくて大変だったらしいです。おじいさんたちは会社を作る クラスに入ってそのために必要な経済学 や英語を勉強させられたらしいです。だから商社を作って利益を出すことができたんでしょうね。失敗した人も何人かいたらしいけど、成功して大金持ちになった人もたくさんいたらしいですよ。祖父も成功したのに中国人の部下を信用したのが間違いだったんでしょうね。お金を全部持ち逃げされて会社は倒産してしまったらしいです。祖父はどうして中国人の部下 なんかを信用しちゃったんだろう。

さあ わからないけど何かあったんでしょうね 部下を信用せざるを得ないような何かが。

祖父は中国人の部下の妹に恋をしてしまったんだ。だから部下は身内みたいなものになって それで 信用して会社のお金を全部任せてしまったんだろう。

おじいちゃんは何も言わなかったけどそれぐらいのことはあったんでしょう。おばあさんもそうよ 黙って受け入れていたんでしょうね。100年以上昔のことだからもう時効といえば 時効か。全ては過ぎ去ってしまったことだから。祖父の恋も夢も全ては…。

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