第86話 王国の姫君

アーナ皇国は聖霊信仰強い土地で、代々女王を最高権力者として立てる女系国家。

女王は聖霊の巫女であり、古竜ヤゲルナウスを主神とする。

つまりは神権政治というわけだ。


皇国は巫女を頂点とし、その下にある貴族は建前上神官。

今では人間に対し積極的に関わることのない古竜ではあるが、信仰対象が確かに存在するというのは何より都合が良いのだろう。

部族時代から混乱なく未だにその制度が続いている理由はそこにあった。

権威は古竜への信仰が保証するおかげで内乱などはこの数百年存在せず、治安は王国と比べても非常に良い。

高位の神官に対する神秘性はしっかりと保たれており、彼等は皆民衆からの崇敬の対象となっている。


「……大神官様がいらっしゃるとは、驚きましたわ」

「……アルベラン王国の第一王女殿下がいらっしゃるとなれば、他のものを迎えによこすわけにはいきますまい」


金の刺繍を施された白い布。

それを幾重にも重ねたローブを身につけ、頭には兜のような金細工の冠。

その中央には大神官を示す青の宝珠が象眼され、手に持つはその身丈よりも長い錫杖。

皇国第三位――大神官。

第二位の大司教が国政の中央で巫女の側役となることを考えれば、こうして出迎えに来る相手としては最上位の存在であった。

皺の寄った顔――老人は柔らかい微笑を浮かべクレシェンタを眺める。


「改めまして、ザーナリベアと申します、クレシェンタ第一王女殿下。二年ぶり……あれは聖霊祭にございますか。その時お目に掛かりはしたのですが……」

「覚えておりますわザーナリベア様。久しぶりですわね、元気そうで何より。こうして再び会えたことを嬉しく思いますわ」


クレシェンタは先ほどまで犬であったことも忘れ、頭を下げるザーナリベアに可憐な王女の微笑みを向けた。

神官となった際彼等は姓を失う。こういう場合には名を呼ぶのが正当であった。


「しかし、どうしてザーナリベア様がここまで? 出迎えにいらっしゃったとするには、随分と同行者が少ないように見えますけれど」


理由はわかっている。

クレシェンタは眉根を寄せ不満そうに両手を腰に当てた。


「あなたの立場は理解しておりますわ、ザーナリベア様。……けれどわたくしは巫女姫様との謁見が叶わない限り、帰るわけにはいきませんの」


皇国としてはクレシェンタとの会合は望むところではない。

内乱中にある王国のトップ。

その一方と接触を持つことは、もう一方が勝者になってしまった場合に具合が悪い。

出来ることならこのままクレシェンタを帰らせたいのだろう。

彼が連れてきた人数は護衛の十名。

こうして夜顔を出したのはあまり事を大きくしたくなかったからだ。

外交上明確に友好国王女との会談を断ったともしたくない。

自主的に、こちらがこちらの事情で謁見を中止したとしたいはずだった。


とはいえその上で、国政に関わる重要な判断を行える大神官を差し向けてきている。

単なる外交上の礼儀ではあるまい。

何かしらの判断を行なうためだ。

この場合であれば、クレシェンタを巫女姫のところに連れて行くか否か――


泣き落とし。

いや、この相手にそれは通じまい。

老人の瞳は冷静――こちらを観察する色。

皇国が情で動くような国であれば、既にクレシェンタに加担している。


「ふふ、そうですわね。巫女姫様がわたくしとお会いになってくださらないとするならば、もっと盛大に旅をしても良いですわ。街を一つ一つたずねて演説でもしてみせようかしら。巫女姫様ではなく、この国の民衆へ。王国の窮状を伝え、関心を引き――あなた方が無視できなくなるまで」


悪戯な笑みを浮かべて告げた言葉に、ザーナリベアは眉を顰める。

クレシェンタの告げた行動は王族としてあるまじき振る舞いであったが、それだけに効果も大きい。


「矜持を投げ打つ覚悟なんて、とうに出来ておりますの。……わたくしのために、今も命を賭けて戦う方がいらっしゃるんですもの」


ザーナリベアを見据える。

演じるのは幼く、しかし聡明な王女。

憐憫ではなく取引をしたくなるような、そんな相手でなくてはならない。


「……単刀直入に。目的は何でございましょう? 本心から助力を願われているわけではありますまい?」


ザーナリベアはこの王女の価値を決めかねていた。

四人の大神官の中でも、ザーナリベアは王国に強いパイプを持つ。

王国の内情を王国民以上に知ると言っても過言ではない。


――忌み子クレシェンタ。

密かに王宮で語られていた彼女の噂についても多くを知る。


泣かぬ赤子――王家の忌み子の話はむしろ皇国によく伝わっていた。

泣かぬ赤子は古くから、アルベラン王国に混乱と発展をもたらした存在である。

いずれも類い希なる才覚の持ち主でありながら、人の情を持たず、倫理感に欠けた異常者であるとされ、その治世は王国の大いなる発展と破壊を生む。

大国であったアルベランがエルスレン神聖帝国と分裂した際も、原因は女王グラバレイネと王女エルスレイネ――二人の泣かぬ赤子にあったとされていた。

苛烈な恐怖政治を敷いたグラバレイネの治世が終わり、そしてそれから王家では泣かぬ赤子は忌み子として扱われ――王家の恥としてその辺りの記録を禁じた王国以上に、皇国の書庫には多くの事が記されていた。


だが、目の前の少女にはその記録が語るような異常性は見えない。

そうであるから彼女の周囲にある噂だけが浮いていた。

彼女は邪悪なる忌み子であり、幼い頃から弟王子を含め周囲にある邪魔者を消してきたとする噂。

事実として彼女が生まれてから、彼女の周囲には不審な死が満ちている。


彼女がどちらであるかは重要な問題だった。

場合によれば、ここでの選択は皇国の今後をも左右しかねないことである。


そして皇国も一枚岩ではない。

彼等の中でも王弟派と王女派に分かれているのだった。

皇国が動けずにいる理由はそこにある。

下手をすれば皇国自体も分裂をしかねない事柄――王国と長く同盟を結んできた皇国にとっても、今回の内乱は非常に大きな問題となっている。

南部に広がる強国からの侵略を受け止める盾。

王国の存在は皇国にとって非常に大きなものなのだ。


「……こんな重要な話を立ち話で、というのもよくはありませんわね。どうぞ、わたくしの天幕へ。アルガン様、用意をしてくださるかしら?」

「はい、既に用意を整えてあります、王女殿下。……ザーナリベア大神官様、どうぞ、こちらの天幕へ」


予想していたベリーは外に出る前に天幕の中を会談のため整えていた。

ベッドには毛布がこんもりと盛り上がり、机にはクッキーとパイ。さながらクレシェンタハウスというべき天幕では流石に他国の賓客を招くことも出来ない。

手早くその辺りを片付け、茶を出すため湯を改めて沸かし、テーブルクロスを掛け直し。


「む……」


やや面白くなさげなクレシェンタを気にすることなく、ベリーは二人を案内する。

彼女の楚々とした一連の所作は美しく、良い貴族の生まれなのだろうとザーナリベアは感心しつつ、クレシェンタの微細な表情の変化に考えすぎかと評価を改める。

少なくとも史書に語られる忌み子――冷酷な支配者とその姿は一致しないように思えたのだった。






クレシェンタのくつろぎ空間はいつの間にか簡素でどこか寒々しいものになっており、クレシェンタは一瞬唖然としそうになる。

ベリーは後でちゃんと戻すことを視線で伝え、クレシェンタは不満ながらも首肯する。


目の前でひっそりと交わされるやりとりを眺めたザーナリベアは安心を深め、ポットから香る茶葉の華やかさに目を細めた。


「これはアセラムかな?」

「はい、ザーナリベア大神官様。このように肌寒い夜――長旅の後となればストレートよりもミルクティーがよろしいのではないかと」


アセラムはほのかな甘みとコクがあり、ミルクに合う茶葉であった。

持って来ている茶葉は三つほどあるが、クレシェンタは基本的にミルクティーしか飲まないため、大抵紅茶を淹れる時はこの茶葉を使う。


「……ありがたい気遣いだ。こう見えて酒よりも紅茶が好きでね。よく勉強している」

「身に余るお言葉です。では、失礼を」


ザーナリベアのカップにミルクを注ぎ、紅茶を注ぐ。

そして適量の蜂蜜を垂らしてかき混ぜ、次いでクレシェンタの方へ。

ミルクはいつもに比べれば控え目ながらも、手で隠すように蜂蜜をたっぷりと注いでやり、クレシェンタはご満悦。

とはいえザーナリベアの鋭い目は誤魔化せず、彼はクレシェンタが甘党であるという毒にも薬にもならない情報を入手する。


しかしそうした彼女の些細な一面が彼に好意的な印象を与えてもいた。

少なくとも彼女は最も身近な相手である側仕えの使用人とは非常に良好な関係を築いており、心からの奉仕を受けている。

使用人の質は主人の品格を示すというのはよく聞く言葉。

突然の訪問に関わらずこの落ち着きよう――その点でこの使用人は王女の使用人として申し分なかったが、とはいえ本当に見るべきは使用人の能力以上に主人との関係性であった。

使用人が主人をどう見ているかは、その人物を知るための取っかかりになる。

恐れているのか、それとも軽視しているのか。

そこにあるのは敬意か愛情か――そうした感情は些細な仕草から垣間見える。


この僅かな時間で見せた使用人の気遣いや、二人の間にある感情。

二人の間には王女と使用人という立場以上の繋がりがあるように見え、それはザーナリベアの考える主人と従者、その理想的な関係であった。

彼女が忌み子であれ、どうであれ。

少なくとも王女クレシェンタは最も身近な使用人に対し偉ぶるでもなく、普段は歳相応の姿を見せているのだろう。

まさか王女が犬扱いされているなどということには気付かないまでも、ザーナリベアはこの一時で彼女の評価を固めはじめていた。


何も言わずベリーはクレシェンタに膝掛けを与え、そしてザーナリベアに視線で尋ねる。

皇国育ちのザーナリベアは寒さには慣れていた。

ザーナリベアが軽く手を上げて答えると、ベリーは深く頭を下げ、後ろへ下がる。


「……皇国でも意見が割れております。どうするべきか、と」


ザーナリベアがそう切り出したのはそこまでの観察の結果。

多少胸襟を開いても良い、と思える程度にはザーナリベアも警戒を解いていた。


クレシェンタはその言葉を吟味するように、言葉なくスプーンで紅茶をかき混ぜた。

飲める温度かどうか、スプーンから伝わる熱で判断しているだけであった。


「率直に申し上げれば王弟殿下につくか、王女殿下につくか、そういうことですな。激化すれば皇国もまた貴国の内乱で二つに分かれてしまいかねない」

「だから、わたくしの謁見は望ましくはない、と」


クレシェンタの言葉にザーナリベアは頷く。


「なるほど。……それをこうして教えてくださるということは、ザーナリベア様はわたくしの側に傾いている――そう考えてもよろしいのでしょうか?」

「さて。私は皇国の臣……願うは皇国の平穏です。それだけを常に考えておりますゆえ」


明言はせず、紅茶に口付ける。


「この件に関しては中立を保つつもりです。現状の皇国を見れば、どう動くも危険に過ぎる。……王女殿下が何を考えておられるのか、それ次第ですな」

「……おじさまの息の掛かった方が皇国にも沢山いるみたいですわね、その様子だと」


呆れたようにクレシェンタは告げる。

クレシェンタは王宮であまり動くことはできなかった。

政治的謀略を巡らせるには年齢的に幼く、他国へ間者を忍ばせるような力も持たされていなかったためだ。

そのため王宮内で味方を作ることに努めたが――ギルダンスタインはそうではない。

彼が持つ諜報網は広く深く、他国の内部にまで忍ばされている。


「その上で中立と仰るなら、やはりザーナリベア様はわたくしに味方してくださる方だと思えてしまいますわ。わたくしの願いとザーナリベア様の希望は近しいところにある」

「……それは、どのような?」

「わたくしが望んでいるのは、皇国内での均衡と停滞。……仰るとおり、皇国の助力を求めているわけではありませんの」


ザーナリベアは言葉を吟味し、クレシェンタは微笑を浮かべ思慮深げに紅茶に目をやる。

紅茶は飲めそうな温度になっていた。


「随分と自信がおありのようだ。伝わる状況から考えれば、クリシュタンド軍は随分と危うい状況に立たされているように思えますが」

「確かに、クリシュタンド辺境伯を失ったことは大きな痛手ですわ。……けれど、代わりにわたくし達は何より鋭い刃を手にした」

「……刃?」

「ええ。わたくしが誰より信頼する方――そうですわね」


クレシェンタは指先でその柔らかい唇をなぞるように、悪戯な笑みを零す。


「こういうのはどうかしら。わたくしとザーナリベア様で賭けをいたしませんこと?」

「賭け、ですか?」

「皇国で意見の分かれる理由は察することができますわ。信仰を重んじる皇国神官の方々は、わたくしの出自が気に掛かっているのでしょう」


ザーナリベアは目を見開いた。

自分からそのことについて触れるとは思っていなかったからだ。


「それに加え竜の顎を奪われた現状があるんですもの。――恐らく皇国内では王弟派が優勢。現状皇国はギルダンスタインに加担しわたくしを討つべしという声が高まり、ザーナリベア様はそれを避けるために動く穏健派」


老人が見つめる彼女は既に王者の風格を有している。

甘い声には確かな覇気が宿り、その眼差しにあるのは絶対的な自信。

当然のように相手を平伏させてしまうような、そんな言葉に出来ない力があった。


「ここにこうしていらっしゃったのは恐らく、巫女姫様のご意向でしょう? 巫女姫様もまた今は動くべきではないと考えておられるからこそ、わたくしが王都に入ることで拮抗が崩れることを恐れていらっしゃる」

「はは……まるで、見えているかのような仰りようですな」

「想像は出来ますわ」


クレシェンタは笑う。

童女のような笑みだった。


「おじさまの悪名も多くの知るところ。加担するには大義名分を立てることが難しいですもの、仮におじさまへ加担し勝利を収めたところで民衆は納得しないでしょう。わたくしを忌み子と罵ったところで、彼等に王家の事情は理解出来ない」


くすくすと笑い、クレシェンタはザーナリベアを正面から見た。


「皇国は道理ではなく利益を取り、悪名高きギルダンスタインに手を貸した。そしてわたくしはその手に掛かる哀れな姫君。……ふふ、皇国は手を出さないほうがよく、最終的な勝ち馬に乗るほうが良い、というわけですわね」


複雑ですわね、とクレシェンタは紅茶へ口付け、ザーナリベアは息をつく。

クレシェンタは皇国の内情を明確に理解していた。

年齢を見て侮れぬ確かな知性を彼女は秘めている。


「ザーナリベア様は恐らく、今後と国民感情を考えた上でわたくしの後押しをすることも悪くないと考えておられるのでは?」

「……敵いませんな。しかし――」

「けれどザーナリベア様が懸念していらっしゃるのは、恐らく竜の顎の奪還が可能なのかどうか。……でしょう?」


彼女のペースに呑まれているとザーナリベアは感じる。

会話の流れ、その主導権を彼女が握っていた。

立場として優位にあるのはこちら――しかし彼女は皇国側、そしてザーナリベアの考えを掌中に収めている。

連絡もなく就寝前の夜を選んだ来訪。

それに対しクレシェンタは淀みなく、まるで準備をしていたかのようにその言葉は流麗であった。

引き込まれていることを感じながらも、ザーナリベアは頷く。


「賭けというのはそのことですの。適当な、ザーナリベア様の選んだ街でわたくしたちはしばらく滞在しますわ。そうですわね、歓待の準備のため待たせているということにでもすればよいのではないのかしら?」


眉間に皺を寄せ、ザーナリベアは幼き王女の意図を探る。

言葉だけではない。

クレシェンタが浮かべるのは鮮やかで美しい、蠱惑的な笑み。

少女と思えぬほどの色気があり、他者の視線を引き寄せる。

知らず頷かされてしまいそうなそんな気配を感じ、ザーナリベアは気を引き締めた。


「竜の顎の前哨戦――次の相手は恐らくマルケルス将軍でしょうか。クリシュタンドは苦戦もなく、数万を相手にきっと圧倒的な勝利をすぐに伝えてきますわ。……クリシュタンドに敵なし、ザーナリベア様がそう思えるほどに」

「その勝敗を賭ける、と?」

「ええ、もしそれが思うような結果でなければ、わたくしは大人しく王国へ戻りますわ。もちろん、こちらの都合で帰ったことにして。……勝利であったとしても、ザーナリベア様が納得出来ないものであれば同じく。決めるのはザーナリベア様、どうかしら?」


ザーナリベアは静かに唸った。

自分が彼女の謁見に対し全ての権限を与えられていることまで理解しているのだろう。

決めるのはこちらと宣言したうえでの賭け。

こちらに優位な申し出に見えて、そうではない。

こうまで言うからには必勝の策を有しているに違いなく、であればこの言葉に頷くことは半ば承諾したことも同然だからだ。


とはいえ、引き込まれる。

戦に絶対などはない。この聡明な王女がそれを知らないなどと思えない。

何より彼女は先日大敗を喫したばかりなのだ。


だが、その上で彼女は絶対の自信を持って宣言している。

敗北はあり得ない、と。


皇国軍では竜の顎を手にした王弟側が圧倒的に優位に立っていると見ている。

実際、軍事に明るいザーナリベアもそう考える。

ここから王女派が巻き返す手立ては皇国の助力の他ないだろう、と。

しかし彼女の口ぶりと自信に満ちた笑み。

そこには既定路線に組み込まれた勝利が見えているような気がしてならない。


「別にわたくしが勝ったからと言って、ザーナリベア様に無理難題を要求するわけでもありませんわ。当然のことを求めるだけ。わたくしはザーナリベア様に謁見を許可され、巫女姫様へのお目通りが叶い……そこから全ての事をお決めになるのは他の誰でもなく巫女姫様、そうでしょう?」


ザーナリベアは自分がこの幼い王女に呑まれているのがわかった。

甘い声は耳へと這い寄り、溶かすように。


「……王国、クリシュタンドに名高き武人が多くいることは存じております。とはいえ、先日の敗北……それを見た上で何故、そこまでの勝算を持つことが出来るのでしょう? 刃、と仰りましたな。それは誰です?」

「……噂は聞いていらっしゃると思いますけれど。おじさまがきっと今、誰より恐れる相手ですわ」


ギルダンスタインが自らの正当性を掲げるために広める言葉。

王女クレシェンタは忌み子であり、尊き国王陛下の玉体をその邪悪なる欲望によって脅かし、死に至らしめた。

そして、その邪悪なるクレシェンタにクリシュタンドが与する理由は――


「……クリシェ=クリシュタンド」


ザーナリベアの言葉に幼き王女は答えず、微笑む。


「勝利の報はすぐに届きますわ。……それを待つ、そういうことでよろしいですわね?」


そして決まったことのように、有無を言わせぬ口ぶりでそう告げた。









――そうしてしばらくの話を終え、ザーナリベアが帰った後の天幕。


「わんっ」

「ふふ、とってもご立派でしたクレシェンタ様、格好良かったですよ。ちょっと待っていてくださいね、すぐぬくぬくの毛布をご用意しますから」

「くぅん……」


再び快適な空間を作ってもらいながら、クレシェンタは犬に戻っていた。

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